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【SUPER RIZIN04】バンタム級王者、井上直樹に挑戦。福田龍彌「生きていることでしか出せないもの」

【写真】戦うことで生きている福田龍彌。その言葉は同じ戦いの中で生きている者ならば、突き刺さるはず(C)SHOJIRO KAMEIKE

27日(日)にさいたまスーパーアリーナで開催される超RIZIN04で、福田龍彌が井上直樹の持つRIZINバンタム級王座に挑戦する。
Text by Shojiro Kameike

2025年の初戦で牛久絢太郎に判定勝ちし、DEEPバンタム級のベルトを防衛した福田が、続いてRIZINバンタム級の王座にも挑戦することとなった。KOできなかったとはいえ、福田らしさが溢れていた牛久戦をまずは振り返ってもらうと、その先にはいつも以上に強い言霊が宿った福田の戦いに対する想いが溢れていた。


あの日は後楽園ホールが満員で、マジで会場が静まり返っていたんですよ

――井上戦に関するお話の前に……というよりも井上戦のために、まずは前回の牛久戦を振り抱えることが最も福田選手について理解できるように思っています。牛久戦もそれだけの内容が詰まっていた試合でした。

「おぉ、ありがとうございます」

――福田選手の場合は試合中に相手を仕留める方法に気づいた瞬間、その空気が感じられる瞬間があります。たとえば昨年9月の瀧澤謙太戦、続く大晦日の芦澤竜誠戦も序盤からエサを撒き、早々に照準をセットできていたように感じられました。

「何て言うんでしょうね。自分の場合は隙があったら狩るんですよ。エサを撒くというのも、意識して撒いているわけじゃないんです。逆に相手が反応せぇへんなと思ったら、すぐにシバくし。隙があったら狩る。そのタイミングが5分3R、15分の中に何回あるかなって感じで。

牛久戦は相手も技術的にメチャクチャ対策してきたんやろうな、と思いました。個人的には試合が判定まで行かずに終わっていてもおかしくない。倒せへんかったけど、1Rめからもうワンチャンスあれば倒せていたようなパンチは何回も当たっていましたから」

――確かに「これは1Rで仕留めるのではないか」と感じさせるものはありました。それが感覚の部分で申し訳ないですが……。

「そうなんですよ。それが伝わる人、伝わらない人がおるのも仕方ないです。自分の中で結構、不思議やったのは2Rめもジャッジ5人のうち3人が牛久選手につけていて。自分としてはそんな感覚がなかったから『あれっ!?』と思いましたね。バッティングも被弾に数えられていたのかもしれないですけど」

――牛久選手の頭が福田選手の顔面に当たることも多かったです。

「あれはヤバかった。牛久選手も悪意があったわけじゃないと思います。それこそ反射で頭が先に出てしまっているんやろうな、って。ただ、ずっとバッティングが続くから3Rめに言っちゃったんですよね。『それ狙ってんの? わざとか? 覚えとけよ』みたいなことを」

――そうだったのですか。1Rからバッティングが続いていたので、福田選手もよく我慢しているなと思っていました。

「バッティングとかで流れを切りたくないんですよ。自分の集中力というより、お客さんの気持ちを途切れさせたくない。お客さんには試合を楽しんでもらいたい。来てもらった以上、誰よりもオモロイ試合したろうと思っています。それは毎試合、自分が一番大事にしていることで。

試合の途中で『バッティングやんけ』とアピールして試合が途切れてもうたら、お客さんもシラけるじゃないですか。というのも、あの日は後楽園ホールが満員で、マジで会場が静まり返っていたんですよ」

――静まり返っていた?

「そう。雑音ゼロで、セコンドの足音や自分たちのステップでマットの擦れる音が会場全体に聞こえるような。それだけ後楽園ホールの満員のお客さんが皆、自分たちの試合に集中してくれている。そんななかで、ちょっと頭がゴチンと当たったからといって――ウゥッとうずくまるようなレベルでない限りは、試合の流れを切るようなことはしたくないです」

――流れを切らないための方法だったのか、2Rからパンチよりも頭をよけるような動きが増えていました。

「そこに気づいてもらえて嬉しいです(笑)。仮にローブローがあったとしても――『当たっているで』と伝えることはあっても、そこで試合を止めるようなアピールはせぇへん。牛久選手のバッティングについては、故意かどうか分からないです。でも今後、わざとやってくるような相手が出て来るかもしれんから。そういう意味では、また一つ勉強になった試合でしたね」

一番上の席で観ているお客さんにも届くような、異様な空気をつくることができる人間になりたい

――内容として、相手にダメージを与えながらも判定決着になったことは……。

「悔しいですよ。『あの内容は、相手を仕留めたようなもんや』と言ってくれる人もいます。だけど最後の場面は自分がもっと正確に、クリティカルな一発を当てることができていたら、ちゃんとKOできていたんちゃうかな――とも思うし。今考えても、自分を制御しきれてへん、最善を尽くすことができていない自分がいました」

――戦っているファイターからすれば、仕留めきれなかった悔しさもあると思います。とはいえ、あれだけ牛久選手の動きを制し、最後にダメージも与えて判定勝ちしたという内容が、より福田選手の強さを際立たせるのではないかと。単純に試合は面白かったです。

「うん、エェもんは見せられたと思います。福田龍彌というファイターの魅力みたいなもんは、お客さんに伝えることができたんじゃないですか。まぁ……なかには『福田は組みができひん』みたいな印象を、たまに持たれることがあって」

――えっ、そうなのですか!?

「別に組みだけで試合を組み立てることはできるけど、やらないだけで」

――牛久戦でも相手が仕掛けてきたらスプロールだけでなく、ワキを差し上げてひっくり返していましたからね。それは魔境NAIZA FCでも。もちろん組んで来る前に福田選手が打撃で削っていた効果もある。それこそMMAですから。

「そうっす。完成度の高さは感じてもらえたら嬉しいです」

――もう一つ興味深いのは、満員の後楽園ホールで大騒ぎするのではなく、観客が集中して観てくれていたことは大きいですね。

「メッチャ良い空間でした。嬉しいでしょ。自分もそういう試合を提供できる人間になれたんやと感じて。もちろん牛久選手の技術や気持ちも凄く高いレベルにあるから提供できたとは思っていますけど。それでも今までとは違う、凄く不思議な空間でした」

――試合後には「良いオファーを待っています」とアピールしていました。ここで言う「良いオファー」とは何だったのでしょうか。

「……(手の親指と人差し指で丸をつくる)」

――それはもちろん(笑)。

「アハハハ。お金もそうやし、経験値の高い試合のオファーですね。やり甲斐を持って試合に臨むためには、両方大事ですよ。スポンサーの支援なしで、ファイトマネーだけで家族を養おうと思ったら大変です。かといってファイトマネーが高ければ良いってことではなく……。たとえば『絶対に福田が勝つやろ』という試合はしたくないんです。

僕ね、ここ最近ずっと赤コーナーで戦っているんですよ。それだと自分の中ではチャレンジしていないような感じがしていて。だから次の試合は本当のチャレンジやと思っています」

――後楽園ホールで皆が集中して観てくれる状況をつくりました。次は、さいたまスーパーアリーナのスタジアムバージョンで。

「それが自分の目指す高みというか。福田の試合は見入ってしまう。それこそ一番上の席で観ているお客さんにも届くような、異様な空気をつくることができる人間になりたくて。

それは試合の時だけやなく日々――練習のミット打ちって、練習やし基本的なことかもしれないけど、練習生が手を止めて見入ってしまうぐらい洗練されたことをしたい。日常的に何でも、周りを黙らせるようなクオリティで臨もうと思っています。自分がやると決めたことはね」

井上選手にとっても彼のベストバウトやと言われるような試合にする

――福田選手の言う職人というのは、まさに……。

「そうです、そうです。それが本物の価値なような気はします。インスタのフォロワーが多いとか。飲食店でいえば食べログの評価が高いから、その店が旨いのか、エェものを置いていているのか、エェ料理人なのか――それはノットイコールであって。実際その空間にいて、面と向かって生で感じないと分からへんものじゃないですか。その部分での価値を高めていきたいと、常々思っています。

息子にもそういう大人になってほしいと言うているんですよ。紙幣をたくさん持つ能力だけが高いだけの人になるんじゃなく、生きている人間でないと生めないものを生み出す人になってほしい。これからAIが数字の面で何でもしてくれるようになる世の中で、それこそがホンマの人間らしさだというか。そういう人になってほしいから、自分もどう生きていくかを見せていかなアカン。

牛久戦の後楽園ホールも静まり返っているから、息子の泣き声が場内に響くわけですよ」

――あっ! あの泣き声は福田選手のお子さんだったのですね。

「僕の息子が泣いていたんです。今年5歳で、空気の違いを感じられるようになったんでしょうね。今まで何度も試合は観に来たことがあるのに、牛久戦の空気は違う――怖いと感じてくれた。試合が終わったあとに抱っこした時の第一声が『怖くて泣いてしもうたわぁ。ごめんな。パパ勝ってくれて、ありがとう』でした」

――……素晴らしい感性です。

「こういう空気って子供にはメチャクチャ伝わるんやな、って思いました。それこそ人間でしか伝えられんことじゃないですか。今はLINEやメールとかで文面だけ、義務的なことだけ伝える。SNSの『いいね!』を押して、何か伝えた気になっちゃっている。すぐGoogleで『子育て 将来』とか検索して――皆が常に別の何かから得ようとしている。

僕は生きていることでしか出せない、形に残らないものを大事にしたいです。僕にとってはそれこそが自分のことを人に伝えるための一番の術で。その意識が戦ううえでも生きていると思います」

――王者の井上選手は、その世界観を一緒に生み出すことができる相手でしょうか。

「もちろん!」

――前回の防衛戦も、多くの人たちが感動するような内容でした。

「自分としては、そのクオリティを超えたいです。井上×元谷戦よりも良いものを提供します。井上選手にとっても彼のベストバウトやと言われるような試合にする。僕はそれが戦う人間としての礼儀だと思うので。それこそが勝ち負けじゃない、大切にしたいヒリヒリなんですよ」

――王者のファイトスタイルを考えると、福田選手がこれまで戦ってきた誰よりも隙を見つけづらい相手だと思います。福田選手がどうやって井上選手の隙を見つけるのか、あるいは井上選手が全く隙を見せないのか……興味深い対戦です。

「それこそが当日、蓋を開けてみないと分からんところですよね。僕も実際に井上選手と向き合った時に、何を思うのか。それは自分自身が一番楽しみにしています。だから試合当日に向けて、淡々と自分のクオリティを上げる日々を送っています。一つ言えるのは――間違いなく、他の誰よりも熱い試合を提供しますよ」

■視聴方法(予定)
7月27日(日)
午後1時00分~ ABEMA、U-NEXT、RIZIN LIVE、RIZIN100CLUB、スカパー!

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