【RIZIN LANDMARK11】木村柊也、ケラモフとの激闘&プロ初黒星を振り返る「当てることはできても――」
【写真】大熱戦の中で1Rで行われた攻防が試合の趨勢を分けたのかもしれない(C)RIZIN FF
6月14日(土)に札幌市南区の真駒内セキスイハイムアイスアリーナで開催されたRIZIN LANDMARK11 in Sapporoで、木村柊也がヴガール・ケラモフに判定負けを喫した。木村にとっては、これがプロ初黒星だった。
Text by Shojiro Kameike
プロデビュー以来5戦全KO勝ち、しかも平均試合タイムが61.2秒と驚異的な戦績を誇った木村を止めたのはケラモフだった。ケラモフは終始、テイクダウンからバックを狙い続け、木村の強打を封じ込める。試合は1Rに玖村が強烈なパウンドの連打を浴びせたが、以降はコントロールされてしまった形だ。初黒星、2R以降を戦ったのも初めて。しかし強豪外国人選手が揃うRIZINフェザー級において、木村が見せた課題と可能性とは。
触られる前に逃げるのは難しい。触られてから逃げるようにしないといけない
――ケラモフ戦についてまず、判定決着になった時に自分の負けだと思いましたか。
「はい、3-0で自分の負けだと思いました」
――テレビ解説を務めていた鈴木千裕選手は「ダメージ優先なら木村選手の判定勝ちもあり得る」といった旨の発言をしていました。そう考えると、どちらに判定が傾くか分からなかったです。
「あぁ、なるほど。自分としてはダメージを与えていた自覚はあります。でも3R通してコントロールしていたのはケラモフだったので、判定はケラモフだなと思っていましたね」
――ヒットとダメージは必ずしもイコールではありません。ヒットかダメージかでいえば、もちろん木村選手のパンチは当たっていました。そのヒットがダメージに繋がっている手応えはあったのですね。
「1Rめのパウンドは確実に効いている、という手応えがありました。でもポイントを見ると『ダメージとはみなされていなかったんだぁ……』と思って(苦笑)」
■ケラモフ×木村戦の判定結果
ジャッジ① ケラモフ [D 0-0/ A 0-0/ G 20-0]
ジャッジ② ケラモフ [D 0-0/ A 0-0/ G 20-0]
ジャッジ③ ケラモフ [D 0-0/ A 30-0/ G 20-0]
※D=ダメージ、A=アグレッシブネス、G=ジェネラルシップ
――判定結果だけ見ると、ケラモフの圧勝だったかもしれません。しかしながら木村選手の今後に対して期待の声が大きい内容であったことも事実です。たとえば1R開始早々、ケラモフがシングルレッグで組んできた際、木村選手は一度ヒザを着きながらも即立ち上がり、正対して離れた。あの瞬間、「これはいける」と感じなかったですか。
「そうですね。今回の試合に向けてシングルレッグ対策をやってきました。ケラモフはシングルレッグで組んでから相当強い、取られた後は危ない。そんななかで実際に組まれてから逃げることができたので、自分の中でも『いけるんじゃないか』という気持ちはありました」
――RIZINのYouTubeチャンネルで公開された試合直後の映像では、チームメイトである原口伸選手の名前を出していました。そのシングルレッグ対策は、原口選手と行っていたのですか。
「はい。スピードもパワーもケラモフより伸君のほうが上ですよ。マジで凄いです」
――原口選手との練習では、どれくらい触らせないのか。触られても、どれくらい倒されないのかが気になります。
「ずっと一緒に練習していると、お互いにタイミングも分かってくるじゃないですか。それで五分の状態にはなってきました。でも一度触られると逃げられるかと言ったら、まだ10回中2回ぐらい逃げられるか、という感じですね。その2回がケラモフ戦で出たのかと思っています」
――それほどのレスリング技術を持っている選手と練習していることは大きいですね。BRAVEの場合、原口伸選手だけではなく。
「他にもたくさん強い選手がいて、練習もキツいですよ。いろんなタイプがいますから」
――アハハハ。ケラモフの組み方も単調になっていました。足の取り方を変えたのは、3Rにケラモフがバックに回った時、木村選手の右足をすくいに来た時ぐらいですか。
「そうですね。基本的にシングルレッグばかりでした。相手との距離感については、ずっと絶妙な距離にいるようにしていて。ただ思った以上に手が長いのと、プラス低空飛行で真っ直ぐ突っ込んでくるので、『これは防ぎようがない』と思ったんですよ。触られる前に逃げるのは難しい。触られてから逃げるようにしないといけない、と」
――それは今回の試合がリングではなく、ケージであったことも影響していませんか。
「そもそも自分はケラモフと対戦するなら、絶対にケージのほうが良いと思っていました。リングならロープ際でケラモフがボディロックで組み、力で強引に持って行くじゃないですか。それができないので、絶対にケージのほうが良いと考えていたんです」
――対して木村選手もケージ際で倒されない体の位置、足の位置を展開していたように思います。そのケージレスリングは、今までの試合では見せていなかった部分ですよね。まずケージレスリングの展開になる前に倒していたのですが……。
「そうですね。体の使い方さえちゃんとしていれば、ケラモフのレベルでも大丈夫なんだなって自信になりました」
――ケージレスリングだけでなく、あれだけグラウンドの攻防が展開されるのも初めてでした。
「自分としては、寝技の展開になったらもっと焦るのかなと思っていたんですよ。でも意外と冷静に対処できました」
パウンドだけじゃなく顔面へのヒザやサッカーボールキックを出していれば――
――1Rに木村選手がバックマウント、ボディトライアングルと固められながら、切り返してパウンドを連打する。あれは最初のハイライトであり、取材している側としても驚きと興奮で腰を上げてしまいました(笑)。
「あの展開も普段から練習していることなんです。ケラモフと戦えば何回かバックを取られることは想定していましたし、まず取られることは仕方ない。でも極めることは許さず、逃げることが一番で。その点はうまくいったかと思います。
ただ自分がマウントを取った時、逆に焦ってしまいましたね。焦って決め(※日本拳法では一本に当たる打撃を「決め」と呼ぶ)急いでしまった。力み過ぎて、体力を一気に持っていかれてしまいました」
――マウントでしっかり抑え込むことができず、ケラモフは下から木村選手の右足を取って崩しに来た。あの展開は予想していなかったのではないですか。
「全く予想していなかったです。あの展開で足関を取る気はないけど、形に入ってきたのは凄いと思いました。あの形に入られるだけで、僕は殴ることができなくなる。僕の動きを止めるために入ってきたんでしょうね。自分は一回離れて、またスタンドで対峙しなきゃいけないじゃん、って(苦笑)」
――木村選手の中では、これまでの試合と同様に1Rで仕留めようと考えていたのでしょうか。
「もちろん今回も――ただ、自分の中では2~3Rに行くこともあると思っていたので、1Rで決めきれないのも想定内でした。だから初めての2R、3Rも特に何も変わらず、いつもと同じ感じで」
――2R、3Rも木村選手はパンチを当てていました。しかしKOできるほど当てきることはできなかった。その要因は何だったと思いますか。
「スタミナですね。当てることはできても、決めきるまでのスタミナがなかった。決めるためのパワード、しっかりケラモフに削られていました。
2R以降、ケラモフも疲れていたと思うんです。自分としては、組まれるのはヤバイ。まず距離を取って様子を見つつ、当てにいこうと考えていました。そこにケラモフが突っ込んでくる。今かな、という時に組まれて、倒される。その繰り返しでした。ケラモフも打撃は付き合わず、ある程度誘ってから組もうとしていて。
自分は極めさせないし、逃げることができるとしても一回一回、スタンドに戻って距離設定をしなきゃいけない。そうなるとリズムは崩れますよね」
――ケラモフも途中からRNCを極めきるつもりはないように感じました。
「そうですね。極めに来たのは1Rだけだったと思います。自分としてもフェイスロックに来ることは分かっていたので、ずらすことはできました。力で来ても痛くはないし、あれは大丈夫でした。すると強引に鼻を潰しに来て。
自分は口をふさがれていて、鼻呼吸しかできなかったので鼻を潰されると多少、体力が削られた面もありました。ケラモフもRNCが入らないから削ってきたのでしょうけど」
――試合後、ケラモフはインフルエンザの影響でコンディションが万全ではなかったというコメントを発していましたね。試合中、そういった面を感じることはありましたか。
「そういうのは何も感じなかったですね」
――では木村選手として「これをやっておけば良かった」と思う点はありますか。結果論であり、「たられば」になってしまいますが……。
「やっぱり1Rですね。自分が上になった時、パウンドだけじゃなく顔面へのヒザやサッカーボールキックを出していれば、展開も違っていたかもしれないです」
――確かに試合全体を通じて、木村選手はグラウンドのヒザやサッカーボールキックを出していませんでした。これまでのルールと異なると、咄嗟には出せないものですか。
「いや、殴っている時に出そうと思ったんですよ。でもヒザを出したらケラモフとの距離がさらに縮まるじゃないですか。そこで掴まれたらどうしようと考えてしまい、パンチだけという選択になってしまいました」
――ケラモフが下から足を取って崩してきたことが、木村選手の蹴りも封じることに繋がったのか。そう考えると深いです。
「アハハハ、そうですね。はい」
もっと自分を強くするためには2年ぐらい必要。できれば年内にもう1試合したいです
――プロ初黒星を喫したとはいえ、強豪外国人選手が集うRIZINフェザー級にあって、自信と希望が見えた試合内容だったかと思います。
「どうでしょうね? まだ自分がRIZINの中で、どのレベルにいるのかが分かっていないです。それこそケラモフがシェイドラエフと戦ってくれれば、一番分かりやすいかもしれないですけど」
――公式発表によるとケラモフは「木村選手の打撃で顔面にヒビが入り、7月末に試合ができない」ということで、シェイドラエフ挑戦はなくなりました。それを聞いて「だったら自分がやりたい」とは考えなかったですか。
「いやいや、それはないですよ(笑)」
――ケラモフが負傷で長期欠場するとなれば、ひとまず王者シェイドラエフへの挑戦は無しとして、上位にいるのはクレベル選手、金原選手、鈴木選手……。
「あとはダウトベックですかね。バンタム級に落とすという話もありましたけど、まだフェザー級で試合が組まれていますし」
――ダウトベックとの打撃戦はスリリングで、ドキドキワクワクものです。
「そうですね。自分としては、まだ次に誰と戦いたいかというのはないです。でも今回で3R戦うことはどんなものか分かりましたし、しっかり修正して、もっと頭を使って戦うことができれば、もっと良いものを見せられると思います」
――ケラモフ戦でセコンドに就いていた野村駿太選手は試合後、木村選手についてSNSに「数年後RIZINのベルトを獲れる」と投稿していました。本人としては、何年後にRIZINのベルトへ辿り着くことができると思いますか。
「……2年ぐらいじゃないですかね」
――短すぎず長すぎず、超現実的な数字が出ました(笑)。
「アハハハ。ケラモフ戦って、勝てばRIZINデビューから1年も経たずにタイトルマッチまで行ける最短ルートだったじゃないですか。だけど負けて、まだまだ自分もやらなきゃいけないことが多いのも分かって。もっと自分を強くするためには2年ぐらい必要かなって思います。そのためにも――まだ次の試合は決まっていないけど、できれば年内にもう1試合したいですね」