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【Special】新連載『MMAで世界を目指す』:鈴木陽一ALIVE代表「MMAに必要なフィジカルとは?」─02─

【写真】ALIVE所属のグラップラー竹本はGladiatorバンタム級王座を奪還。グラップラーにはグラップラーに必要なフィジカルがある(C)MMAPLANET

UFCをはじめ世界各国でMMAが普及、拡大していくなか重要視されるのがフィジカルだ。MMAPLANETでは毎月、総合格闘技ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく連載企画をスタート。第1回の後編では、MMAジムの課題と今後について語り合う。
Text by Shojiro Kameike

<MMAに必要なフィジカルとは? Part.01はコチラから>


――日本の格闘技界では、トレーナーは技術を教えるものであり、筋力は選手任せという時代もあったかと思います。あるいは独自にフィジカルトレーナーをつけると、ジムのトレーナーが嫌がることもありました。

鈴木 そういう時代もありましたね。MMAでいえば、大きくグラップラーかストライカーかに分かれます。同じ階級であっても、ファイトスタイルで身体特性が違います。

納土 そうですね。

鈴木 そこで選手とトレーナーが二人三脚でやっていく必要があります。選手任せにすることなく、「君はこの階級のなかで背が低くても力が強いほうだから、こういう身体づくりをしよう」とか。もちろん多くのジムで、トレーナーと選手の間でそういった話し合いは行われていると思います。でもその話し合いの内容が、フィジカルトレーナーや栄養士の人たちにも伝わっているのかどうか。ここでコーディネーターと各専門家による分業制のバランスが重要になってきます。選手自身にコーディネートまで任せると、自分の主観が入ってしまいますから。

最近の選手でいうと、UFC世界バンタム級王者のショーン・オマリーですよね。バンタム級で180センチというのは、本来は身体が細くなりすぎるかもしれない。でも彼は自分の身体特性を生かすために、バックステップからの右ストレートを身につけています。

納土 医療でも最初は同じ治療を行っていたとしても、その経過に合わせてオーダーメイドの治療に移っていきます。それと同じですよね。選手によって状況は違いますから。

鈴木 納土君は総合病院に勤務しながら高校の部活、愛知県アーチェリー協会のトレーナーも務めています。そうした現場では、全てオーダーメイドですよね。

納土 監督や選手によって、それぞれゴールが異なりますから。まずチーム単位では、監督が何をどう求めているかによって方法も変わってきます。競技レベルが高いチーム――高校ですとインターハイ優勝を目指している学校では、各スタッフが分業しつつ、個々の選手について報告してもらい、私のほうですることを決めます。一方で、それほど求めていないチームの場合は? 体育的な要素の一環で「スポーツを楽しんでくれたら良い」というところでは、全体を見ることのほうが多い。ゴールが違えば、それだけ違ってくるんですね。

MMA以外のスポーツでもコーチを務める鈴木社長。当然、スポーツごとに求められるフィジカルも違う

鈴木 これも大きなテーマの一つですが、身体的要素の中でも筋力と全身持久力、筋持久力とあります。マラソンの場合は全身持久力、心配機能が必要になりますよね。ひとくちに「スタミナ」といっても、スポーツによって違います。さらに同じMMAの中でも、5分5Rをアウトボクシングで戦う背の高い選手と、5分5Rだけれども2Rまでに試合を決めたいファイタータイプでは、必要なトレーニングも変わってきます。そのため、同じジムの選手でも完全に同じトレーニングをすれば良いかといえば、そういうことではない。海外のUFCファイターは、同じジム所属でもフィジカルトレーナーは別々で、スパーリングの時だけジムに揃うというケースもありますね。あれも理にかなっているわけです。

――ここ数年で日本のMMAジムの在り方も変化してきています。以前は日本の道場といえば、「師匠と弟子」という関係性が強かった。師匠の技術を弟子が受け継ぐという関係性は、素晴らしい文化の一つではあります。一方で「フィジカルの面で師匠と全く違う弟子が、師匠の技術を受け継ぐことができるのか?」という疑問はありました。

鈴木 確かに。そもそもジム運営として「格闘技を使ったフィットネスジム」、「格闘技のアマチュア選手を育てるジム」、そして「プロ育成に特化したジム」――それぞれ本来は違うものであるべきなのかな、と考えることもあります。最近では、国内外で活躍した選手たちが現役を引退して自分のジムを立ち上げています。そうした若い人たちは、どんどん調べて自分にとって良い方法を探っている。ただ、どんどんジムが立ち上がると、どうしても1ジムあたりの会員数は減ってきますよね。そこで海外のMMAジムのように、どうやって売上を立てて専門家を雇用していくのかという問題は、どうしても出て来ますね。

――フィジカルのお話でいうと、選手生活のスタート時点で、目指すファイトスタイルにフィジカルトレーニングの内容を合わせたほうが良いのか。それともフィジカルトレーニングの結果にスタイルを合わせていくべきなのか。短期的ではなく長期的に見た場合、どちらが望ましいのでしょうか。

鈴木 ウチは25年間でプロ選手を25人ほど輩出してきたなかで、柔術寄り、打撃寄りと様々なタイプの選手がいました。それは身体特性に合わせてファイトスタイルを考えていました。本人の身体特性と似たタイプの試合映像を見せて、「この選手のように戦うと勝率が上がる」と説明するんです。次に必ず言うのは「せっかく痛い想いをしながら練習して、試合をするのだから『なりたい選手』になろう」と。その2つの方向で考えてもらいます。

結局、「あなたが目指すゴールは何ですか?」ということなんですね。もしパウンドでフィニッシュしたいなら、そのゴールに向けたトレーニングをしなければいけない。でも、身体特性としてパウンドでフィニッシュすることに向いているかどうか――常にその2方向で、並行して考えていかないと難しいです。

――どれだけ選手にとって目指したいゴールがあっても、身体特性に合っていなければ練習でも試合でも怪我が多くなると思います。過去にはそうして怪我をしたり、負傷で現役を引退せざるをえなくなった選手も見てきました。

鈴木 何か怪我があった場合は、納土君に相談します。時にはすぐジムに来てもらったりしています。ジムの近くには提携している医療機関もあって、各検査に対しても専門家に相談できるような体制になっています。

納土 いま若い指導者のチーム、ジムは科学的な検査、検証をもとに選手のスタイルを考えていくところが多いですよね。

前回に続き、改めて掲載--学校で学ぶ「体力」の要素

鈴木 これから日本のMMAファイターの「体力」も、専門家に診てもらいながら、各専門コーチが指導していくこと。そのために必要なのは、最初にお見せしたように要素を細かく分類していくことが必要です。今までで「フィジカル」と言ったら、行動体力の機能にばかりがフォーカスされていたと思います。しかし今後は他の要素も含めた「体力」を考えていかないといけない。

納土 すでに北米にはデータがあるわけですからね。MMAにおける怪我の予防についても、米国とカナダには文献があります。昔からデータを取っている。一方で日本は言葉の定義もバラバラですし、こうした企画を通じて用語を定義し直すのも良いですし、怪我の予防なども浸透していけば嬉しいですよね。

鈴木 そういうことなんです。きっとここで私がお話していることにも、各ジャンルの専門家から見て「それは違うんじゃないか」と思うことがあるかもしれない。「鈴木さんはこう言うけど、自分は米国でこう教わってきた」とか――公の場で、そういうディスカッションをしていかないと、発展は難しいと思います。

この企画では1年間=12回、テーマにそって私がお話していきます。次は私がお話したことに対して意見のある人と、どんどん議論していきたい。その議論をMMAPLANETという公の場で行い、記事として残れば他のコーチや選手にとっても役立つものになると思います。次回は「MMAと体組成」、「体組成とフィジカル」についてご説明していきますので、よろしくお願いいたします。

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