【Special】新連載『MMAで世界を目指す』第2回:鈴木陽一ALIVE代表「MMAに適した体組成とは?」─02─
【写真】Gladiator023の計量後。ALIVE所属の竹本啓哉も過去に計量失敗を経験している。個々に適した調整を試行錯誤を繰り返した末、ベルトを取り戻している(C) MMAPLANET
世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。MMAPLANETでは「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく連載企画をスタート。「MMAと体組成」について考える連載第2回目は、MMAの計量と調整について深堀りする。
<連載第2回「MMAに適した体組成とは?」Part.1はコチラ>
鈴木 毎日あるいは毎試合、減量に関する記録をつけていくなら、計量当日よりも前日の水抜き前に測るほうが、正確な体脂肪率を測れるかもしれませんね。よく知られているインピー・ダンス法体脂肪計のなかに、足を乗せるだけで体脂肪率が測れるというものがあります。しかしこれは、実は足から内臓までしか電気が届いていません。どういうことかというと、内臓肥満型の人が足だけのタイプに乗った場合、肥満度が上がって出てしまうかもしれないんです。それよりも、トレーニングジムなどにある手と足の四点から測るタイプの体脂肪計のほうが、精度は高いですね。一番良いのは水中で体重と体積の比率から測る方法ですが、そんな設備は滅多にないですし。
所 愛知県内だと愛知医科大学ぐらいかもしれません。水中置換法といって、プールのように大きな水の箱の中に入って測る設備です。話を戻すと、何かといえば体脂肪率って、それぐらい曖昧なものなんですよ。
私のクライアントにも、今まで運動をしておらず、私と一緒に初めて体を鍛えるという方もいます。まず運動すると筋肉がついて血流も良くなる。すると今まで使っていない筋肉に血が入るようになるので、全体の水分量が増えます。結果的に体重が増えるので、よく「運動して太った!」という方もいらっしゃいますが、あくまで体重は目安でしかありません。その内訳のほうが重要です。内訳も時間によって変化するものなので、私がお勧めするのは1日に2回、体重を測ること。朝と夜、決まったタイミングで測り続けると、日ごとの変化が分かります。この定点観察だと自分の体重も管理しやすくなります。
鈴木 特にMMAの場合は、曜日によって練習メニューが大きく変わってきますからね。今日はグラップリング、今日は打撃——では日によって運動量も変わってきます。だから定点観測が、より重要になってくるわけです。それが競技特性というもので。
加えて、選手が目指すタイプによっても、適正の体組成は変わってきます。パワー系のファイターなのか、あるいはテクニシャンを目指すのか。要は体組成——体脂肪、筋肉量、そして骨量は自分の中で比較していかないといけません。他の人と比べても、人によって体格が違えば、目指すタイプも違うのですから。アマチュア時代とプロになって以降でも違ってきますし。
所 ちなみに体脂肪率が10パーセント台って、見た目から相当絞れている状態じゃないですか。一般の方が「だいぶ痩せた!」と言っても、調べてみると体脂肪率は20パーセントぐらいあったりします。そこで、脂肪の量を調べることも必要なんですよね。
業務用の体組成計だと脂肪、筋肉、そして骨も全て「量」が分かります。その量を見て、できるだけ筋肉量は維持しながら脂肪だけ減らしていくための観察ができるようになります。パーセントだけ考えると、いろいろな要素が入ってくるので、ワケが分からなくなってしまいますよ。ですからトレーナーとしては、できるだけ「量」で考えるようにしています。もちろん「量」を測る機械を自宅に置いておくのも大変です。しかし今は、スポーツジムはもちろん置かれているところも増えているので、探して利用してみるのも良いと思います。
鈴木 そのためには、まず体組成に関する機械について勉強したほうが良いですよね。細かい数値がどう、ということよりもツールについて知らないといけない。それだけツールによって計測方法が変わるわけですから。可能ならインピー・ダンス法でも4点で測るものを利用してほしいし、もっと言えば「率」よりも体組成計で「量」を測るほうが良いです。
所君も言っていたとおり、それも定点観測で調べ続けるべきです。選手というのは成長し続けるものですから。アマチュアの頃から計測し続けて、記録しておいたほうが良いです。それこそ階級を上げるか下げるかを考える時に、その記録が重要になってきます。ボクシングよりもMMAのほうが、階級間の体重差が大きいわけで。1階級で5キロほど違う。
所 それだけ体重が変わると、脂肪量も水分量も大きく変わってきますよね。
鈴木 そう。それが変わらないというのは、運動生理学的にはありえない。
所 すると普段から、水分を抜くだけで計量をクリアできる体重を維持しておくほうが良いと思います。そのためには「いかにして筋肉量を保つか」が重要です。脂肪の中に水分を貯めておくことはできません。しかし先ほど言ったとおり、筋肉の中には血液を貯めることができる。これだけ筋肉があり、その中にある水分を絞り出せば一時的に体重を落とすことが可能になります。でも筋肉量が少なく、まあまあの脂肪量があったら水分を絞りだすことはできない。常日頃から筋肉量を維持し続けるためには、栄養学も必要になります。スポーツ選手の場合、たんぱく質を摂取していないと筋肉量を保てませんから。
鈴木 栄養の話まで広げると、コンタクトスポーツに関する最大の問題点は、体をぶつけることで他のスポーツよりも血液が壊れたり、筋肉の組成も壊れていくことですね。血液が壊れるということは貧血になりやすくなります。そのためにも、たんぱく質を摂取し続けていないといけない。
所 今回のテーマからは外れるかもしれませんが、よく「たんぱく質を摂ったほうが良い」と言われているものの、どれだけ摂取したほうが良いのか分かっていない方が多いと思います。皆さん、「これぐらいかな?」と感覚で摂取量を決めていたりして。でも正しく摂取するだけでも、パフォーマンスは大きく変わりますよ。
鈴木 そうですね。繰り返しになりますが、MMAの場合はまず階級制で計量が行われる。さらに計量前には脱水しても良い、という点に着目しないといけません。そう考えた場合、筋肉量が多く体脂肪率が低いほうが——あくまで一瞬、体重を落としやすくなる。イコール計量をクリアできやすくなります。次に、MMAはコンタクトスポーツなので筋肉量プラス、ある程度の骨量があったほうが安全だということなんです。変に食事制限をして、たんぱく質の摂取量を減らすと筋肉が増えませんから、水抜きもしにくくなってしまいます。筋肉量を保っていたほうが、最後の水抜きも安全にできるようになるんですよ。
——つまり、決して一人だけでは良い状態で計量に臨むことはできないということですね。
鈴木 そうなんです。ALIVEの場合、以前にグラジエイターで竹本啓哉が計量をクリアできないことがあったじゃないですか。そういう失敗も踏まえてウチでは朝イチの体重測定や出稽古の練習量も報告させ、定点観察を続けています。
——最初に自分の体組成を調べていなければ、適正な階級も適正な減量幅も分からないわけですね。多くは身長と体重のバランスのみで、自身の階級を決めがちです。
鈴木 お前の身長ならコレぐらいの体重が適正だろう、という(笑)。そういえば昔、ハイパー・リカバリーというものがありましたよね。ハイパー・リカバリーをしていたなかで、選手寿命が長いファイターは少ないです。毎回何キロも減量して戻す、ということを繰り返すと内臓への影響は大きくなりますし。MMAの場合は戻し方も重要で、体組成を理解していないと「どれくらい戻せば良いのか」ということも分からないかもしれません。
あとは理想をいえば、ファイトキャンプの時と試合当日の体重が同じであることがベストです。普段80キロある選手が、70キロで計量をクリアして試合当日は75キロまで戻す。そうであれば、ファイトキャンプの時も75キロで体を動かすようにしていると、試合当日も練習時の良いパフォーマンスを出せると思います。逆にファイトキャンプの時に75キロで、計量後に78~79キロまで戻すと戻しすぎになりますよね。それはリカバリーではなくリバウンドであって。普段から自分が最も動ける体組成を、日頃から考えておくことも必要ですよね。このあたりは今後、栄養士さんをお招きする回で詳しく説明したいと思います。