この星の格闘技を追いかける

【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。カラフランス✖アスカロフ「僅か3つのパンチ」

【写真】カイ・カラフランスの勝因は3つのパンチ (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たカイ・カラフランス✖アスカル・アスカロフとは?!


──抜群に組みが強い。シングルレッグからバックテイク、そのままコントロールして勝てるアスカロフが、バックから落とされ打撃で反撃を受けカラフランスに判定負けを喫しました。

「今、剛毅會で稽古しているテーマに一つに空間の支配というものがあります。自分と敵、自分と対戦相手の間に空間があります。あるいは自分の回りに。空間をいかに支配するのかが、武術を修行する目的だったのかと最近、気付きました。

そこで組みのアスカロフ、打撃……パンチのカラフランス、私は正直アルカロフが判定勝ちしたと思いました」

──ハイ、そういう見方は十分に成り立つかと思います。初回はスタンドでバッククラブに取ったアスカロフ。2Rは打撃で優勢になり、テイクダウンを切ったカラフランス。最終回はカラフランスも疲れ、一瞬でもバックを制したアスカロフという見方もデキると思います。ただし、ジャッジはそれ以外のテイクダウンを切り、打撃で戦う姿勢のカラフランスを支持した……という風でした。アルカロフにバックを取られても落としたカラフランスは、大したものだと思います。

「それでも3Rはアスカロフと思いましたけどね。コントールがあったので。初回は完全でしたよね。ただし、2Rはアスカロフが1発被弾してからパンチを嫌うようになりました。改めてMMAで対峙した時の間合いは遠い。そう思わされた試合でした。遠いところから、ステップインしつつワンツー、そしてスリーを打っていました。この3発目の左の精度が高かったです。ロングで突っ込んで、短いのをパンパンと打つ。

それに対して、アスカロフもパンチを出してシングルレッグに行っていました。アスカロフは打撃からテイクダウン狙いの正統派、教科書みたいは攻め方でした。高度な攻めかどうかは分からないです。ただ精度は高いです。この勝つために組むということを最近はしなくなっているなと感じることがあります。なぜか中途半端なボクシングをする選手が多い。これは私が練習を見させてもらった日本の練習でも、正直なところダメなら離れるということは多いかと感じました。

私は空手家ですから、組まれるのが絶対に嫌です。これはテイクダウン防御を身につけたとしても、自分が打撃で勝ち、組みで勝たない選手は変わりないと思います。なら、そういう選手を相手にした時、レスラーやグラップラーは組み続けるべきなのに、相手が助けられたと感じる打撃に戻る。なぜ、嫌なことを続けないのか。MMAなのに打撃戦が延々と続く。そういう試合が増えましたね」

──それこそ、興行なのでファンの見たいモノが増える。そのタイミングでブレイクを掛け、離れて戦うのかというシーンは増えているかと思います。

「ちんとんしゃん、ちんとんしゃんと打撃をやっているだけで」

──ちんとんしゃん……(苦笑)。組んで倒す、倒して抑える。力を使ってここまで持っていっても評価が落ちました。そこでダメージを与えろとなると、効かすパンチは空間ができるので立たれてしまいます。なら、大したポイントにもならないので狙わない。

「だから終盤に疲れてからだと、背中をつける展開が増えるけど、序盤はスタンドばかり。そのうち組むべき選手が、組まないということもありますね。アスカロフは徹底している珍しい選手なのに、3Rの序盤に組むための打撃ではなくて、ボクシングに付き合っていました。そうするとカラフランスの間になるので、危ないなと思いました。そこもまた戻していたので、バックを制して勝ったと思ったのですが……。

それにしても組みが少なくなって、打撃が多い。その原因が疲れることなら試合なんて出なければ良いのにと思います。そりゃ、疲れるだろうって。疲れることをやっているのに、疲れるのが嫌なのは矛盾しています」

──それもまたジャッジの判断なのですが、20年前のMMAでは攻め疲れは相手の攻勢でない。ただし、疲れて攻められると相手の攻勢になりますが、疲れてから展開がない場合は自ら疲れたのだから、対戦相手の効果点にはならないという見方もありました。

「それが今では自滅しても、相手の攻勢点ということですね。結果的に攻められたからではなくて、攻められなくても動きが落ちれば」

──大雑把にいえば、そういうことかと思います。

「なら、疲れないようにしないと。それは太古の昔から、同じことで。だから鬼のように練習をするんです。簡単に根性論という風に捉えられることがありますが、やはりサボる、サボっていないというのは伝わってきてしまいます。

打撃系の選手にとっては、そうやって組みの選手が疲れないために自分の持ち味を忘れて中途半端に打撃をやってくれるほどありがたいことはないです。相手の嫌なことをするのが武術の本質です。組まれたくない選手を相手に、自分が疲れるからアッサリと相手の土俵に戻る。

打撃で戦えるなら、それで構わないです。でも現状は打撃で不利になる選手でも、そうしてしまう。実は打撃だけの試合でも、自分の動きができなくて疲れて、その疲れのイメージを引きづって余計に動けなくなるという経験は私にもありました。これを克服するには死ぬ思いをして練習するしかないんですよ……」

──克服するしかない……。

「ハイ。デキないなら、潔く身を引く。自分が好きでやっていることです。MMAを嫌々続けるなんて、辛すぎますよ。黒崎健時先生が100メートル走のスピードでマラソンを走る。その気概、勇気を持つことと仰っていました。そんなことできるか……と思いますよね。でもUFCで勝つということは、それだけの勇気、気概を持って稽古に励むしかない。そういうことではないでしょうか。

『仕事が忙しいから、追い込み練習はできません』──ハイ、なら試合に出るのは控えよう。それだけですよ。練習方針が合う、合わないでジムから離れる選手はまま存在するかと思います。でも、それは練習方針ではなくて、練習にどれだけ打ち込めるか方針です。試合に臨むだけの稽古をしない人と、強い人間を育てて試合で勝たせようとする指導者の間で、気持ちにずれが生じるのは当然です。

負けた選手が、そこから何を学び、何を克服したのか。何も変わっていないのに、オファーがあったから出場する。それでは試合に出ているだけです。相手が代わろうが、同じことの繰り返しです」

──……。業界の在り方も関係してきますね……。負けてもオファー、すぐにオファーがありますしね。強くなるための興行論は確立できていないのは絶対だと思います。

「その強さという部分ですが、UFCフライ級……2位のアスカロフにカラフランスが勝って、タイトルに挑戦をアピールしていましたが、ここは日本人も勝てると素直に思いました。カラフランスがそれほど特別だとは思えないです。バンタム級から上とは、違う。そこは明白に感じましたね。

それでもカラフランスに見習うべき点はあります。彼は僅か3つのパンチに徹して、この試合に勝った。アスカロフもシングルからバックに徹しきっていれば勝てた試合です。そしてカラフランスはバックを譲っても、取られない防御力が存在していました。カラフランスは、この3つのパンチで勝つためにどれだけ他の部分を磨いているか。打撃もレスリングも寝技も何でも練習していて、何でもできる。そのなかで選択と集中がカラフランスの試合から見られました。ビジネスで勝つこととMMAで勝つことは同じだとカラフランスの試合を見て、学習させてもらえましたね。徹しきった選手は、強いです」

PR
PR

関連記事

Movie