【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ペティス✖堀口恭司「質量と間はペティス」
【写真】ペティスの3Rまでの動き、その秘密が明かされるのは2022年のバンタム級ワールドGP後だろう (C)BELLATOR
MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。
武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは間、質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。
武術的観点に立って見たセルジオ・ペティス✖堀口恭司とは?!
──堀口選手の敗北。武術空手的にはペティス戦をどのように見ることができました。
「まず3Rまで、堀口選手がポイントをリードしていたことは絶対的です。とはいえ、それが堀口選手の試合なのか、ペティスの試合だったのか……」
──そのように感じるというのは?
「まず、あのサークルケイジの広さと堀口選手の距離の取り方が、RIZINのリングで取っている距離のようにフィットしていなかったように見受けられました。距離が近くになっていました」
──それは試合序盤からですか。
「そうですね。遠い距離を取っているようでも、近かったです。そしてイチ・二、イチ・ニというリズムなの、そこからのパンチはイチ・ニのサンになる。対してペティスはイチで、全てを打てる構えでした。そうなると質量はペティスが重く、間もペティスになりますよね。
幾度か堀口選手はカーフを蹴って姿勢を乱すことがありましたが、質量が重いペティスを相手に蹴ろうとすると、間がペティスなのであのようになる。無理に蹴っているので空振ったり、蹴ったほうが跳ね返されるということは、往々に起こります。重心が乱れた蹴りになっているんです。対して打てば当たるという状態ではあったのですが、なぜかペティスは打たなかったです。
4Rまでずっとその調子で。それは打てなかったのか、打てなかったのか。4Rになってからは、別人といいますか……本来は1Rからあの動きができていたと思うので、なぜ最初からああいう風に動かなかったのは疑問です。どれだけ質量だ、間だと言っても手を出さないとMMAでポイントを取ることはできないですしね。
積んできたことが、練度不足だったのか。単発でしか出さないから、堀口選手がそこに合わせやすくなり、ポイントとして打撃でも堀口選手につく。そんな風になっていたのか……。それに堀口選手の右のクロスは、ショートレンジでも効きますしね」
──ペティスの3Rまでの戦い方を考察するのは、難しいということですね。
「体重差があるスパーリングが成り立つのは、重い選手が軽い選手に合わせて動くからです。それでも目に見えない攻防がある。同じ体重で戦っていてペティスが手を出していなくても、目に見えない攻防があり、試合が成立した──そんなことが起こっていたかもしれないです。とにかく質、間とも圧倒していたペティスがあのように動かなかったのは、ペティスにしかその理由は……試合中は分からないですよね」
──5Rで消耗戦、ラウンドを落としても疲れさせるという賭けだったのか。
「しかし、MMAですからね。あれだけテイクダウンを取られると、取られないように策を講じると思うんですよね。画面で見ていると、堀口選手が疲れたという風に見えなかったですし……。この連載は結果が出たところで武の理を解析しようという試みなのですので、あの結果が出ても堀口選手が疲れたようには私には見えなかったです。
ただし4Rの序盤にテイクダウンをして、それまでとは違い拘ることなく立った。そこがターニングポイントになったのかと。グラウンド・コントロールの展開にブーイングが起き、そこで堀口選手は動揺したのか、内面に何が起こったのか。あのまま抑えて、パウンドをちょこちょこと落としていれば勝てた──という仮説は十分に成り立つかと思います」
──私がFigth&Lifeで行った取材では、堀口選手は「あのままで勝てた。でも、面白くない試合で良いのか。立って倒そうと思ったし、倒せると思った」という風に話していました。
「う~ん、勿体ないです。勝利が絶対のなかで、勝利以上を目指す。だから、あれだけの存在になったのかもしれないですが……。次にまたテイクダウンを狙いにいって切られ、従来の質と間で上回る選手の試合にここからなっていました。
そうなると相手の動きをかわすという守りの間合いだった堀口選手は、手を出し始めたペティスに苦しみだした。それが4Rに起こったことかと思います。あの攻撃ができる、ああいう打撃が内在していることをペティスは明らかとしました。質量に回転が加わり、威力があることは一目瞭然となりました。
と同様に打撃に関しては、堀口選手も右のクロスを合わせるという動きに終始していましたね。テイクダウンに帰結するファイトだったからなのか単調でしたし、粗かったです。あのペティス陣営の野杁正明選手を意識したという送り足で前に出るという戦いは、相手の間になって合わされることも多いのですが、堀口選手は下がった。なら、ペティスがパンチを出していれば当たったと思うのですが……と結局、この試合はそこに行きついてしまいますね。
5R戦をマネージメントするという点において、堀口選手が3Rまでは正解だったわけですし。質量も間もペティスでも、MMAの試合では堀口選手。これは私なんかも、試合を勝たせる立場になったときに注意しないといけないことなんです。そういう意味でも勝ったペティス、負けた堀口選手、MMAを戦う選手や指導者、MMAを見ているファン、全てに勉強になる試合だったかと思います」