【Special】月刊、青木真也のこの一番:9月─その弐─岩本健汰 ✖椿飛鳥「良いスタート」
【写真】AOKI PROJECTとして組まれたMMAデビュー戦で岩本がRNCで勝利した (C)MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。
青木が選んだ2021年9月の一番、第二弾は9月20日に行われたShooto2021#06 から岩本健汰✖椿飛鳥戦について語らおう。
──青木選手が選ぶ9月の一番、2試合目は何になりますか。
「岩本健汰✖椿飛鳥ですね」
──おおAOKI PROJECTで戦った一戦です。
「組み力で圧倒的できると思っていたマッチアップで、岩本選手が勝ちました。だから結果自体に驚きはないです。ただし思った以上に慌てていなかったことが凄いと思いました。
MMAは向き、不向きがあると思うんです。得手、不得手が。そこで岩本選手は不向きでも、不得手でもなかった。それが良かったです」
──柔術とノーギ、下になるグラップリングではなくて、ADCCでテイクダウン&スクランブルが必要で、青木選手との練習を皮切りにMMAファイターとのグラップリング練習を2年間やってきた。その成果が見られた試合だったでしょうか。
「やっぱり、そこが大きいと思います。MMAに来る前の移行期がグラップリングにおいても取れていたので。MMA選手との練習ばかりで、今はグラップラーとの練習は山中健也選手ぐらいとしかやっていないと思います」
──勝って然りかもしれないですが、何も起こさせないで勝ちました。しかも果敢に蹴りも使って。
「いや、『ハイキックが当たると思っていました』って試合後に言っているんですよ。当たるわけねぇだろうって(笑)」
──アハハハハ。
「お前、バカなんじゃないかって(笑)。そこも含めて強いと思いました」
──確かに。シングルレッグからのテイクダウンも、百点満点のように感じましたが。
「いや、レスリング……ケージレスリングは日本人の中でもう相当に上です。それは自画自賛になってしまうけど、僕のエッセンスが凄く強いじゃないですか。
なぜか気が合ってグラップリングを2年間、一緒にやらせてもれって。思考が近くなっていると思います。だからこそ、ケージレスリングは全く心配していなかったです」
──ゴリゴリで鼻を折らんばかりのRNCの極め方で、非常に荒々しかったです。
「あぁ、僕はあの取り方はできないですね。左をおとりにして、右で取る。今のグラップリングシーンでよくある極め方ですけど、僕はあの世代の取り方ができていないです」
──青木選手の場合は?
「僕はアゴごと取ってしまいます。岩本選手は左、右と入れてグーで鼻を押して、入りますよね。利き腕以外で絞める、両方で絞める世代なんですよね。
荒々しい部分に関しても、僕が良くいうサブミッションレスリング、MMAグラップリングってヒジやヒザで顔を押すとか、柔術系の人にやると嫌われる動きが少なくないです。習い事のなかでは嫌われる攻防って凄く多いと思います」
──自分らがガキの頃に、勝手に想像していた新日本プロレスの道場で行われていたようなレスリング──というイメージでしょうか。
「それですね。桜庭さんと12年ぐらい前に練習させてもらったことがあって。やっぱりヒジで顔を押すとか、ヒザで顔を踏むとかが凄く上手かったです。そういうのがあるんですよね、ワキ腹を少し押すとか」
──藤原組長ですね。もうかれこれ30年近く昔の話ですが、藤原組長のセミナーを当時、私が通っていたサンボ道場のメンバーと受講したんですよ。そうしたら亀になって首を取るときに背中にヒジを押しつけられたりして、メチャクチャ痛かったですね。知人が腕を取らせないで頑張っていると、組長が「プロを舐めんな」とかいって頭部にヒザ入れたり、サッカーボールキックをし始めて、メチャクチャな人だって思いましたけど(笑)。
「良い話ですねぇ(笑)。それね、格闘技をやっている人って、藤原組長にバイアスが掛かっているけど……僕は組長が60歳を過ぎてから教えてもらったことがあるんです。でも、手の握り方とか学ぶところはありましたよ」
──ポジショニングの概念がなければ、MMAでは使う段階にいかないかもしれないですが、ポジションがあれば有効なこともありますね。
「ハイ。プロレス的サブミッション……プロレスで分けるのも変な話ですけど、鈴木秀樹さんのキャッチ・アズ・キャッチ・キャンもプロレス的に見て……、皆は色メガネで見るところあるけど、学ぶべきことは多いですよ。あと昔の藤原ノートって、ほとんど亀なんですよね。コブラツイストとかも」
──いうとツイスターで。亀の相手の背中を伸ばすのを栓抜きとかって言っていましたよね。
「四の字フックで。ツイスターはフォールを取る技術ですしね。レスラーズ・ギロチンって呼ぶぐらいだし。そうやって考えると、僕も練習をやっている人間のなかでは、けっこう嫌なことはするほうです」
──でも青木選手の嫌がらせって、荒々しくないですよね。
「あぁ、そういえばそうですね。でも、それ年齢なんじゃないですか(笑)」
──岩本選手は若さが背景にある荒々しさだ、と。
「それと力が尋常じゃないので。力でアレができます」
──あと椿選手ですが……。
「新人王クラスが試合を受けないなか、よく受けたと思います。試合を受けるという部分で、アップになった。皆、断っているなかで、椿は戦ったので。もともと岩本選手がグラップリングで強いからといって、いきなり上の選手とMMAをやらせるなんてことはできないし。それで失敗してきている人も少なくない。
ただ、下の方だと受けない。そこで椿が受けてくれた。仕事としてやるでって。今の彼だと、ここでABEMAの電波に乗って試合ができたことをボーナスという風に捉えることもできます。
僕はそういう風に思って組んだけど、極悪人のように受け取られていますからね。俺の親心でしかないので。こうやって仕事をしてくれて、椿とは一定の信頼関係がありますよね」
──なるほど、では岩本選手の今後については?
「青木物件とかっていう気はないし、彼が好きなことをやれば良い。協力できることはしますし、そことは別に第3者的な見方をすると、ここから2、3戦ほど椿ぐらいの選手とやってMMAを覚えるのが良いでしょうね。
でも、直ぐに相手がいなくなって──わりと、チョイ強ぐらいの相手と戦うことになるかと思います。それでも、負けないだろうし、キャリアがあって負け星が多いような選手が相手になってくるのかなと。それぐらいの相手と戦って、そこには勝たないといけないっていう風ぐらいに岩本選手は、もう見られていますよね。
次からは前日計量のフェザー級になるだろうし、そこでどういう動きができるか。今しばらく、キャリアを積んで鎬を削る戦いに入っていく。そのためにも良いスタートが切れたと思います」