【Special】月刊、青木真也のこの一番:8月─その弐─チャンドラー×ベンヘン「幻想を抱けるファイター」
【写真】これがベラトールで魅せる最後の雄姿となったチャンドラー (C) BELLATOR
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年8月の一番、第2 弾は7日に開催されたBellator243からマイケル・チャンドラー✖ベンソン・ヘンダーソンの一戦を語らおう。
──8 月の青木真也が選ぶ、この一番。2試合目は?
「マイケル・チャンドラー✖ベンソン・ヘンダーソンですね。なんかベンヘンが良くなかったというのか、疲れているような気がします」
──そうですか!! あの左ボディフックとかエゲツナイ攻撃だったように見えましたが。
「当然、凄いですよ。でもベンソン・ヘンダーソンだろうっていうのはあります。もうベラトールに移って4年以上経っているんですよね。まだ皆がUFC時代のベンヘンを求めているから、それはギャップがあるかと思います。対してチャンドラーはずっとエネルギッシュです」
──そもそも試合前は、この試合に関してどのような期待感があったのでしょうか。
「それが……リマッチなので、あまり新鮮味がなかったです。それこそベンヘンはUFCの頃の姿を求められているといっても、その点においてはもう新鮮味がない。小慣れてきてベラトールのキャストに入ると、面白味がなくなってきて」
──あくまでもUFCからの刺客でないと、ベラトールは何かを創っていくことはできない?
「異種格闘技感はないですね。スコット・コーカーのベラトールはUFCから抜いてきた選手と生え抜きで創って来ていて、そのうえUFCから来た選手を楽しめる寿命は決して長くないなって思います。そもそも僕はUFCからベラトールに来て、ぶつけるっていうマッチメイクは興奮できないですし」
──ほお、そうなのですね。
「ビヨン・レブニー体制の時の方が正直、面白かったです。選手もトーナメントのプラットフォームも。なんかスゲェ強いロシア人が出てきたり、パット・カランのようなUFCが拾わなかった実力者が、結果を出して上がっていく。そういう戦いがあの頃は見られていました。
今はその発掘感がなくなりました。だって、面白いのは『こんなところに、こんなヤツがいたっ!!』っていう発掘感が面白いわけで。今はそれが起こりづらくなりましたよね」
──UFCは今も続けていますが、あまりも層が厚いのでベラトールのトーナメントのように1/8、1/4、1/2という注目の集め方はできないですよね。凄まじい潰し合いをしていて。
「ハイ。そしてTitan FCやLFA、ACAまでもが発掘の場になっています。それもまた、レブニーの頃に見たベラトールの面白味ではないですしね。
だって米国のイベントだから、懸命に米国人をトーナメントの決勝に残す努力をしている裏でロシア人とかブラジルの強い選手をぶち込むから、その選手たちを初戦とか準決勝で潰し合わせていて(笑)」
──商売の仕方としてメチャクチャですが、だからこその面白さがありました。
「マルコ・ロウロがトーナメントで優勝しちゃったから、ドゥドゥ・ダンタスとノバウニオン同士で世界タイトルをやったり。それが計算じゃないから、面白かったです(笑)。さっきも言ったパット・カランとか、マルチン・ヘルドのような選手が出てきた。マイケル・チャンドラーだって、そんなもんだし。そういうベラトールが、僕は一番面白かったです。ベンヘンでなく、ロジャー・フエルタで引っ張ったような」
──では、そのチャンドラーの今後に関しては、青木選手はどこで試合が見たいですか。
「そりゃあUFCです。UFCで戦うチャンドラーが見たいと思っちゃいます。ダスティン・ゲイジーとなんて、メチャクチャ楽しみですし。ヌルメゴメドフも見たいですけど、チャンドラー✖ゲイジーはもう単純に腕自慢同士の一戦で。
チャンドラーはパンチが目立っていますけど、それはレスリングが強いから。レスリングで培った高い運動能力があるから、パンチも強い。まぁ、フレッシュなままなのは何があるのか分からないですけど(笑)。
結局、UFCで戦ったらどうなるんだろうって思われる選手が少なくなってきましたね。もうベラトールの一部ぐらいか……。LFAやTitan FCの選手はランク外から上がっていく素材であって、いきなりチャンピオンとの対戦が楽しめる選手じゃない。もう、そういう選手がいなくなりましたよ。RIZINから行く日本のファンが応援したい選手だって、トップ10スタートでもないわけで。
そういう意味でジャスティン・ゲイジーやマルロン・サンドロが行って、今はチャンドラー。幻想を抱くことができるファイターって少ないんですよね。今年はPFLが活動休止しまって。未知の強豪の発掘が、今年は止まってしまっている形です。UFCはリアルな場だから、幻想を抱けるファイターが育つ、そういう大会がUFC以外に必要になってきますね」