【ONE109】試合結果&1万人収容のアリーナで開催された無観客大会をケージサイドで取材し分かったこと
【写真】会場に入る前に記入が必要だった衛生申告書 (C)MMAPLANET
2月29日(金)、シンガポールはカランのシンガポール・インドアスタジアムでONE109「KING of the Jungle」が開催された。
日本からタイトルへのステップとなる一戦に山口芽生、三浦彩佳が挑み、それぞれがデニス・ザンボアンガ、ティファニー・テオに敗れた。また男子では秋山成勲と江藤公洋が出場して、前者はシェリフ・モハメドをKO、後者はアミール・カーンをRNCで破っている。
メインではスタンプ・フェアテックスがSuper Seriesキックボクシング世界女子アトム級王座をジェニファー・トッドに明け渡した今大会は、MMAPLANETの読者の皆さんなら先刻ご存知のように観客を会場に入れないクローズドショーとして行われた。
無観客試合になったのは、当然のように新型コロナウィルスの感染拡大が原因だ。東京23区と同じような大きさの島に人口550万人を抱えるシンガポールでは、既に100人以上の感染が確認されている。もちろん検査体制が違い、数字に表れていない現状は伺い知れるわけではないが、1200万人が住む東京都で明らかとなっている感染者数=37と比較しても決して少なくない。
金融や情報通信分野等の経済活動のハブとしての地位を確立して外国資本の誘致に成功、観光業が盛んであっても決してスポーツ産業が盛んでないシンガポールにあって、ONEは常に1万人レベルの観客が集まる一大イベントで、今大会の開催に関しては政府から相当高い要求がなされていた。
そんななか無観客で決行された同大会。世界に向けてライブ中継はあっても、地元のメディアも会場で取材が許さないという状況下で、自分はたまたまケージサイドでの写真撮影が許される幸運に恵まれた。
ONEでは既にウォリアーシリーズのスタジオ・マッチや、ヒーローシリーズでもONE本戦前日などにキャパ1万人クラスの会場でクローズドショーを開いてきたが、ナンバーシリーズでは初めてのことだ。
これは記者として一生に一度あるかないかという経験──良いか悪いかは分からないが、感染の恐怖よりもその場に立ち会いたいという野次馬根性の方が大きく上回ってしまった。
観客がいない会場、恐らくはセコンドの声が館内にこだまし、ステップを踏んだ時の反発と摩擦、拳やヒジ、ヒザ、足の甲やスネが標的を捕えた時に生まれる衝撃音が、えげつなさとともに我が耳に届く。通常の大会取材では感じられない、一種の興奮状態でシンガポール・インドアスタジアムに向かった。
会場に入る前にまず、体温が測られる。これは4日間のシンガポール滞在期間中に空港やホテルで何度も経験してきたことで慣れっこだ。額に検温器を当てられた刹那、銃で撃たれたように『やられた』と崩れ落ち、笑いを誘ってきた(下らねぇ……)。
ただし、この取材に関しては検温だけでなくHealth Declaration form──衛生申告書の記入が必要だった。これで一気に、鼓動が早くなった……。
会場内に足を踏み入れるとアリーナにはいつものように席は用意されておらず、ポツンとケージが置かれ、中継スタッフのスペースが堂々とスタンド席を潰して作られていた。加えて観客の熱気を冷ますような強烈な空調も抑え気味で、熱気とは違う蒸し暑さが感じられる。
現地時間、午後6時過ぎ。大音量で入場曲が流れ、第一試合に出場するカナダのジェフ・チェンに続き、地元シンガポールのラディーム・ラフマンがキャットウォークを歩いてくる。もちろん、全く歓声は起こらない。ONE特有の多国籍スタッフが母国の選手へ声援を送る程度だ。自分とはケージを挟んで反対側で、実況をするマイケル・シャベロの声がよ~く聞こえる。
きた、きたっ。
拳と頭、骨と骨がぶつかる──武骨なサウンドがこの耳に届いた瞬間を、一生記憶に留めてやる。そう意気込むなか第1試合が始まった。
「!」
静まりかえったケージサイドではセコンドの声、選手の荒い息遣いがいつもとは比較にならないほど聞こえる──ただし、それ以上に間断なく響き渡っているのが、スチールカメラマンのシャッター音だ。
ONEのケージサイドにはオフィシャル・カマラマンが3人いる。自分はどれだけカメラが発達しても、連写はなるべくしないというルールがある。カメラマンではないので、撮影に関して偉そうなことはいうべきではないのだけど、連写は──いってみれば、コマ送りの動画だという感覚であり、頼ってしまうと試合の機微が読めない精神状態に陥ると未だに信じている。
もちろん、そんなのは自分の勝手な考えであり、原稿で補填作業ができるライターと違い、カメラマンさんは撮ったモノでしか勝負できないのだから、連写して決定的シーンを撮り逃さないのが、彼らの使命だ。
結果、自分以外の3人のカメラマンが連写を続けることで、そのシャッター音がBGMのように続く。が、自分の神経がケージの中に集中すればするほど、そのシャッター音は聞こえなくなった。
会場の盛り上がりって、空気感で伝わってくるもので、実は耳から入ってきたものではなかったのだと気付いた。
選手たちがケージに繰り広げる打撃、テイクダウン、スクランブル、ポジショニング、そしてサブミッションという攻防は我が身の内側でリズム隊、主旋律として鳴り響き、セコンドの絶叫がコーラスを奏でている。
きっとTVや携帯、パソコンの場面でMMAを視聴するには観客の声援は盛り上がるためには欠かせないエレメントなのだろう。しかし、ケージサイドで選手の一挙手一投足を追い続ける自分にとって、ファンの声は入場と試合後に存在する──それこそ拍手の役割を果たしている音に過ぎなかった。
いやぁ、これは1万人収容の会場で行われた、無人のMMAマッチだからこそ確認できた新事実だった。
そして──あくまでもMMAであって、立ち技の試合には観客の声援がリズムを刻んでいるんじゃないかと思えるのだが、正直──日本人4選手の試合が終わり、自分はセミとメインの立ち技マッチをそれまでと同じテンションで撮影することはできておらず、何ともいえないというのが本当のところだ。
それと……無人のサークルケージの回りを笑顔を振りまいて歩くONEガールズ達、彼女たちは本当にプロだと感心させられた。いや、ホントに。
ONE109「KING of the Jungle」 | ||
---|---|---|
<ONE Super Seriesキックボクシング世界女子アトム級選手権試合/3分5R> | ||
○ジャネット・トッド(米国) | 5R 判定 | ×スタンプ・フェアテックス(タイ) |
<ONE Super Seriesムエタイ世界ストロー級選手権試合/3分5R> | ||
○サムエー・ガイヤーンハーダオ(タイ) | 5R 判定 | ×ロッキー・オグデン(豪州) |
<ライト級(※77.1キロ)/5分3R> | ||
○江藤公洋(日本) | 1R1分39秒 RNC 詳細はコチラ | ×アミール・カーン(シンガポール) |
<ウェルター級(※83.9キロ)/5分3R> | ||
○秋山成勲(日本) | 1R3分42秒 KO 詳細はコチラ | ×シェリフ・モハメド(エジプト) |
<女子ストロー級(※56.7キロ)/5分3R> | ||
○ティファニー・テオ(シンガポール) | 3R4分45秒 TKO 詳細はコチラ | ×三浦彩佳(日本) |
<女子アトム級(※52.2キロ)/5分3R> | ||
○デニス・ザンボアンガ(フィリピン) | 3R 判定 詳細はコチラ | ×山口芽生(日本) |
<バンタム級(※65.8キロ)/5分3R> | ||
○トロイ・ウォーセン(米国) | 3R 判定 | ×マーク・アベラルド(ニュージーランド) |
<フェザー級(※70.3キロ)/5分3R> | ||
○シャノン・ウィラチャイ(タイ) | 3R 判定 | ×ホノリオ・バナリオ(フィリピン) |
<女子アトム級(※52.2キロ)/5分3R> | ||
○リトゥ・フォーガット(インド) | 3R 判定 詳細はコチラ | ×ウー・シャオチェン(台湾) |
<ウェルター級(※83.9キロ)/5分3R> | ||
○ムラット・ラマザノフ(ロシア) | 1R4分53秒 TKO 詳細はコチラ | ×ペ・ミョンホ(韓国) |
<バンタム級(※65.8キロ)/5分3R> | ||
○ジェフ・チェン(カナダ) | 2R2分00秒 RNC | ×ラディーム・ラフマン(シンガポール) |