【JBJJF】植松直哉審判部長に聞く、審判目線の戦い方&競技者目線の強くなり方─01─「より守る方を見る」
【写真】日系ブラジリアンの選手たちも、どちらかといえばアピール上手。そして抗議の迫力が違う。植松審判部長が審判目線の試合の組み立て方など、本当にためになる話をしてくれたました(C)TAKAO MATSUI
下半期へ向けてこれから主催・公認大会が増えてくる日本ブラジリアン柔術連盟(JBJJF)は、出場選手と同じように運営側も多忙を極めることとなる。そんな中で審判部長を務める植松直哉理事は、国際ブラジリアン柔術連盟(IBJJF)のルール変更にも対応しながら、世界標準の維持を目指している。
柔術の普及活動を目的にセミナー開催の予定がある植松理事に、審判からの見た採点基準や世界と日本の柔術の違いについて訊いてみた。競技者として強くなる、審判の立場から試合に勝つ方法──つまり植松直哉の柔術道とは。
Text by Takao Matsui
――IBJJFルールは度々変更、解釈の徹底ということが成されていますが、審判部長として対応するのは大変なのではないですか。
「ルールの大きな変更は、柔術ではありません。反則や得点・アドバンテージを取る解釈の修正や変更が、IBJJF側からあると言うことです。
例えば昨年の8月からキックスパイダーガードを取っている選手が、もう一方の脚を越えられてニーインベリーをされるとパスガード&ニーインベリーで5Pを失っていたのですが、キックスパイダーガードをやっている脚が真っ直ぐ伸びている場合は、ガードが成立しているという事でポイントはなくなりました。
脚が曲がっていたらガードが崩れているのでニーインベリーのポイント&パスガードのポイントが入るという解釈に変更になりました。
ただ解釈の変更は、どのようなスポーツでもあることなので、特別に柔術が大変ということはないと思います。噂では今年も変更点があるようなので、選手は戦術を変えなければならない可能性もあるために大変でしょうが、よりよくなるとご理解・ご協力をいただきたいですね」
――我々、素人はレフェリーの裁定を見てポイントが入ったと認識するしかないのですが、会場で選手が判定に納得いかないためか抗議をしている姿を何度も目撃しています。これらを改善する方法はないのでしょうか。
「どのようなスポーツにおいても主観的な目で攻防を見ていると、明確な差がついた場合を除いて、一方の選手が勝ったように思える場面もあります。それは、第三者が判定を下す競技の宿命といってもいいかもしれません。私も選手だったので、その競技にすべてを懸けているわけですから、受け入れられない気持ちも理解できます。
ただ公平に裁定する審判の立場で言えば、選手が心の中でどんなことを考えているのかまでは分からないため、目に見えた動きで判断することになります。とくに接戦となった場合は、より攻めた方を見るよりも、より守った方を見ることもあります」
――より守った方が勝つわけですか。
「いえ、より守った方は負けです。柔術は、より攻めている方が勝者になる基準があるからです。また柔術の場合は、トップよりもボトムの方が下からコントロールできる可能性があるために有利と思いがちですが、ポジションでの有利・不利は関係がありません。
ボトムの選手は、スイープ、絞め技、関節技、バックを仕掛けているか。トップはパスガード、ニーインベリー、マウント、絞め技・関節技を仕掛けているのかが採点の基準となります。
もちろん攻防においては、どちらも守っていたりすることもありますが、基本はより多く攻めた方が勝者になります。自分は、それを正確に見極めるためにより多く守ったのは、どちらかを判断することもあります」
――攻守が激しく入れ替わるような展開だと、その判断も難しくなってきますが、そこは経験が必要になってくるんですね。海外のトップ選手の試合を見て、気づくことはありますか。
「審判目線で言えば、アピール力の違いを感じることがあります。表情や力の入れ方で、トップ選手は明確に意図を伝えています。これが下手な選手は、偽装攻撃として見られることもありますね。サッカーの試合で反則を受けた選手がわざとオーバーアクションをして、逆にシミュレーションとして審判からカードをもらうような感じです。
巧妙な選手は、その際でのアピールに長けています。フルコンタクト空手の試合でも、接戦になった場合に最後の何十秒でラッシュをかけて勝利を持っていく選手もいますよね。あれと同じような勝ちパターンを柔術でできるかが大きいように思います」
<この項、続く>