【Special】月刊、青木真也のこの一番:8月編─その参─ウェン×ガフロフ「アジアが混沌としてきた」
【写真】無敵と思われたガフロフが、まさかのTKO負けでヌグエンにONE世界フェザー級王座を譲り渡した(C)ONE
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ8月の一戦=その参は8月18日に行われたONE57からマーチン・ウェン×マラット・ガフロフ戦を語らおう。
青木が選ぶ8月の1番、その第3回では表題になるウェン×ガフロフから、話題はフロイド・メイウェザー×コナー・マクレガー戦へ。
青木が今回語った一連のマイア×ウッドリー、宇野×シャオリン、そしてマクレガー×メイウェザー戦及びアジアの現状についての言葉に耳を傾けると、アスクレン戦を承諾した──その真意がおぼろげに見えてくるのではないだろうか。
■『MMAPLANETで、マクレガー×メイウェザーに関して会話するのは意味がない』
──タイロン・ウッドリー×デミアン・マイア、ヴィトー・シャオリン・ヒベイロ×宇野薫に続き、8月の一番、最後の一戦は何になりますか。
「ガフロフがマーチン・ウェンに負けた試合ですね。ガフロフは絶対王者感が出ていたので、意外でしたね。ここであの相手に負けるというのは。『まぁ、お前が言うなよ』って突っ込まれるかもしれないですが」
──自虐ネタまで仕込んでくれて、ありがとうございます(笑)。
「アンダードッグにされている相手に負ける。それもまた、見ている方としては良い感じでしたね。ただですね、あのウェンンは強かったですよ。
前にクリスチャン・リー(※アンジェラ・リーの実弟で、青木と同じイヴォルブMMA所属)がウェンに負けた時、あの試合もONEとすればクリスチャンがアップの試合だったはずです」
──昨年8月のマカオ大会、強烈なギロチンでウェンが一本勝ちした試合ですね。
「それに横田一則にTKO勝ちをして、今回のコレですからね。ガフロフは何だかんだといって、スーパーグラップラーです。打撃はフックしかない。そして、得意の形を凌がれると焦り始めた。
実はライブで見ていなかったんですよ、この試合。ガフロフが勝つと思っていたので。それで結果を知ってからチェックしたという感じなので、負けという結論があって見ているので、また印象が違うかと思いますけど」
────そのウェンが王者となったフェザー級戦線ですが、青木選手は通常体重を73キロぐらいにして、フェザー級で戦うということは?
「厳しいと思います。尿酸値は読めないし。やりようがあるんだろうけど、僕は75キロとか76キロで食事をして試合をするほうがドライアウトするより楽っちゃ楽ですし。めちゃくちゃリカバリーしてくる連中と戦うよりも、体重差も少ないですしね。体が楽だから、普通に練習していけます。減量があると、試合前に体重を落とすことに時間を費やさないといけない。そんな状況より、体に良いと思います。まぁ対戦相手は落としてくることもあるから、新計量方法は僕にはメリットはないですけどね。
それでも、今はフェザー級でやろうとは思わないです。体削って、ガリガリになってまで。実は前に65キロにした時に70キロ、69キロで相当しんどかった。動けるのかという側面でいえば、75キロのままの方が動けます」
──ではウェンが目標になることは現時点ではないと。
「ないですね。でも、ガフロフがウェンに負けるということは、アジア地区だけでも勢力分布図が変わってきますね。もう混沌としてきました。ONEがね、クアラルンプールやジャカルタ、カンボジアやミャンマーで『なんだ、これは?』と思われて、続けてきたことが実を結んできたということですね」
──ミャンマー移民の米国人ファイター、オング・ラ・エヌサンがロシア人のヴィタリー・ビクダシュに挑戦した時、ヤンゴンの空港には2000人ぐらいのファンが出迎えていたそうです。
「力道山ですよね。怖いですよ、この東南アジアの勢いは。フィリピンはもうとっくにバカにできない状況ですし。東南アジアの国々はMMAで国民的スターになれる。そういう基盤があって、ONEが定期的にビッグショーを開く、これは選手が育つということを意味しています。
韓国だってそうですよ。JEWELSにハム・ソヒが来るって聞いて、チャンピオンになったし手土産を持って会いに行ったら、向こうのテレビ局と一緒に来日していましたからね」
──ロードFCの女子大会XX以来、韓国では女子ファイターの知名度は明らかに変わったそうです。
「いや、もうスーパースター的な感じでしたよ。ハム・ソヒがそうなっているのは、本当に良いことですよ」
──日本とはかなり状況が違います。
「でもね、ある意味、日本で格闘技をやっていると、他が『日本ブランド』とか『テクノロジー』とかやって依存しているなかで、この先を見据えることができて良いと思いますよ。企業が弱くなり、人材が育っていないという危機感を先取りすることができる。これが日本の未来に重なるわけですから。MMAファイターがボクシングをやって80億円とか稼げることはないので、この国は」
──う~ん、格闘技だけでも何とかしたいですね。ところでそのマクレガー×メイウェザーに関して、青木選手はどのような視点で見ていたのですか。
「他の国で行われている大きなショーで、僕には関係のないところです」
──試合はチェックされましたか。
「ダイジェストというか、全ラウンドが挙がっているところがあったけど、2Rまでチェックして……、フィニッシュまで飛ばしちゃいました(笑)。そんなもんじゃないですか?」
──実は私もそんな感じです(笑)。
「同じですよね? MMAが好きすぎる人間は、技術で見るモノじゃないし。メイウェザーのスポンサーにHUBLOTが入っていたなぁとか。マクレガーにEVERLASTがついていて、それが恰好良かった」
──自分はボクシングに疎いので、メイウェザーが凄いっていうのがピンと来る人間ではないのですよ。NBAやNHLの大物プレイヤーのような感じで。凄い、凄いと言われても『凄いのかぁ』って。それよりも、レフェリーが懸命に『ストップと言ったら、ストップだからな』と何度も念を押していたのが印象に残っています。
「どっちが勝とうが、まったく自分に影響がない。MMAであっても、何とも思わないです。ティム・シルビアはMMAでレイ・マーサー(※元WBO世界ヘビー級王者)にKO負けしています。K-1でもボクシング世界王者を呼んできた。今までそういうのを見て来たし、ビジネスのスケールは違っても、アレは巌流島がやっていることと同じ。
あの距離で戦って、メイウェザーに勝てるわけがない。メイウェザーとマクレガーのボクシングマッチで日本の格闘技界が良くなれば良いですけどね。もう、MMAPLANETではこういう会話も意味がない。そう思っています。
4回戦からマクレガーが戦うんだったら、興味を持てたと思います。そうなれば、ボクシング界がマクレガーを無視していない。あの試合の真意はマクレガーもメイウェザーも儲かった。そういうことです。そしてマクレガーはもうMMAを戦う必要がなくなった。やる意味がなくなったんです」