【Special】月刊、青木真也のこの一番:7月編─その参─住村竜市朗×長谷川賢―01―「篠原×ドゥイエだって」
【写真】住村×長谷川に見えたJ-MMAの問題点を青木が突く(C)TAKUMI NAKAMURA
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ7月の一戦=その参は7月15日のDEEP CAGE IMPACTから住村竜市朗×長谷川賢を語らおう。
スポーツとしてのMMA興行、格闘技としてのファイト。舌鋒鋭い青木の意見は、やがて格闘技マスコミへの警鐘を鳴らす言葉になっていった。
■『格闘技マスコミなんてコタツ記事ばっか』
――では7月の一番、最後に試合は何になりますか。
「住村×長谷川ですね。この試合は、長谷川が勝ったらUFCへ行くんだという状況が公になると、これは『住村、頑張れ』っていう空気も生まれてきますよね。ぶっちゃけ、試合前にその次のことが公になるなんて、その場を創っている人からすればたまったもんじゃないって」
――米国などフィーダーショーであれば、それも大きな武器になるのでしょうが。J-MMAカルチャーでは……公式発表を待ってという文化のなかでマネージメントサイドから、さりげなく発表されたことはかつてなかったことですからね。
「あんなことが明らかになると、相手陣営としては舐めんなよってなり、余計に負けるかっていう気持ちになると思います。結果論かもしれないですけど、要らぬ一言だったと。そもそも、お前ら何様だよって思っちゃりするんですよ」
――トーナメント決勝ということもあり、その場を作ってきたプロモーションも合意のことなら、盛り上げる要素にできますが……。DEEPと長谷川選手のマネージメントで足並みが揃っていたのか。日本のMMA界に一石を投じたいという想いだったのかもしれないですが、今回は長谷川選手の試合前の様子を見ていると裏目に出たように感じました。
「僕もあの件を知った時に、前例のないことだし変なプレッシャーになるんじゃないかとは思いました。そのうえフィニッシュがバッティングだったという可能性があり、最終結果は主催者預かりにしましょうっていう結論。リング以外の力が作用する要素が強い団体でこういう状況になる。これぞ、ザッツ・ジャパニーズMMAだなって感じますよね。
だから、気持ち悪いなって思いました。UFC云々が出てしまうことも含め、プロモーションとして信頼性がない」
――……。
「そこに尽きる。菊野(克紀)×岸本(泰昭)の試合(2012年10月19日)に遡ると思うんです。一度はドローだったものが協議の結果、菊野の判定勝ちに裁定が変化した。それも後日。どういう力が働いているんだって、なりますよね。試合の裁定って、要はその場の個人の主観ですよ。後日、話し合って方向性が決まるなら、どれだけ主催者の……つまり佐伯(繁)さんの意向が影響するのかってことです」
――佐伯さんは最終判断はプロモーションが行うと公言していますよね。
「じゃぁ、ジャッチなんていらねぇよ。覆すんだったら、プロモーターが勝者を決めれば良いじゃないですか。ジャッジの判断が尊重されないのに、よくジャッジなんてできるなって」
――審判団もプロモーションによって、立ち位置が違うのが現状です。以前、PRIDE時代にはドクターがストップをかけても試合を続行させたい主催者サイドの人がTV画面に映りこんでいるシーンが普通に流されていました。
「そうなると、ドクターも要らないよってなりますよね。ジャッジやドクターの独立性を維持できていないことを主催者が露呈してしまっている。システムとして危うさを周囲に自ら知らしめている」
――これは格闘技村以外から見た方が、鮮明になるかもしれないです。
「篠原(信一)×ダビド・ドゥイエだって、判定は覆らなかった。こうなったらスポーツじゃないって。菊野×岸本の時に思いました。僕は岸本に近い位置、佐伯さんにも近い位置であの試合を見ていたので。アレは岸本が可哀そうでしたよ」
――その岸本選手も今年の2月にHEATでバッティング裁定をめぐり、一度、負傷判定負けが下った試合を抗議によってノーコンテストに覆り命拾いしたという一件があります。
「岸本に関しては、そんなこと気にしているから――お前ダメなんだよ。格闘技だろうって。あとからうだうだ言うんじゃねぇって。お前、喧嘩で負けたんだろうって俺は思っていますよ。そんなこと、グチグチ言っているから突き抜けられないんだよって、俺は岸本には言いたいです」
――私が岸本選手陣営なら懸命に食い下がったと思います。負傷判定の際の裁定基準が、主催者の言い分とジャッジの判断に剥離があったのですから。
「あっ、そう? だって格闘技としてというより、喧嘩で負けたんだから。どんなスポーツでもミスジャッジは存在しますよ。それも含めて実力だと思っているから。MMAはステロイドも含めての実力。ルールが何だろうが、負けは負けです。
だからルールやレギュレーションがどうであろうが、菊野×岸本は一度、ドローという裁定が下ったからドロー。その後、菊野の勝ちっていうのはない。判定が覆ったのに岸本が、そのあともDEEPで試合する気持ちは分からなかったな」
――それは青木選手の岸本選手への愛の言葉と受け取ります。
「だから住村×長谷川も、最終結果を協議して判断なんてことなく、あの時点で3-0で住村が勝ちだったら、何があろうが住村の勝ちなんです。しかも、マストなのに3-0、ドローが2人いる」
――確かに。そこも説明が欲しかったです(※DEEPのレギュレーションによると、負傷判定の場合はドローもあるとのこと)。
「穴が多いのに対し、レギュレーション的に上手く言い逃れができるような形になっている」
――ワキが甘いところは減らしていってほしいですね。
「佐伯さんは人を見てMMAをやってくれているけど、スポーツについての見識はそれほどないんでしょうね」
――それはあると思います。
「分かりやすく言うと、若林(太郎)さんがいればこういうことはない」
――興行としては、競技運営をしっかりとされると面倒くさくなる。そして興行面が優先されるのが、日本の格闘技界の常でした。数的に見て十分でない。そして、練習に関わっていないと技術的に理解が進まない。そういう点から、指導をしている人間、練習を一緒にしている人間が審判団にいる状況も続いています。
「それは現状を見て致し方ないこともあるけど、裁定の協議でジャッジ5人に対して、プロモーターが1人というパワーバランスの方が不公平です。不可解というか、不穏。不公平感は残ります。
だいたい主催者がジャッジにストップが早いとか、注文をつけるのもおかしい。メディアに対して、あの判定がおかしいって話をするのは分かります。でも、ジャッジに直接注文をつけるのはスポーツじゃない。
つまり、MMAにおける立法、司法、行政の三権分立が成り立っていない。だから修斗の理念、その座組は素晴らしいですよ。実行できている、できていないに関わらず」
――理想を追求するのは大変です。
「あれだけ厳格にやると、プロモーションとしては自分で自分の首を絞めちゃいますからね。描いた餅は素晴らしかったですけど」
――いやぁ、今日の青木選手の話は本当に活字にしづらいですよ(苦笑)。
「だから、あえて俺は言っているんですよ。もう格闘技マスコミなんてコタツ記事ばっかだから」
<この項、続く>