【Special】月刊、青木真也のこの一番:6月編─その参─ムンジアル ─02─「MMAと柔術が交わらない」
【写真】青木は昨年8月にソウルで行われたSpyder BJJでIBJJFルールの道着マッチを戦っている(C)MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ6月の一戦=その参はMMAではなく、ムンジアル=ブラジリアン柔術世界選手権。青木が柔術について語る=第2弾。
既に柔術界から千差万別、様々な反応が見られる今回のインタビュー。青木本人をして暴論と言わしめる柔術論が展開される。ただし、意見の相違があっても暴論=間違いというわけではない。青木の言ったことをスルーせずに真剣に考えると、それぞれの胸の中に、それぞれの正解が見つかるはずだ。
<青木真也の日本黒帯ブラジリアン柔術家論Part.01はコチラから>
■『その強さってなんだろうな』
──個として弱い?
「ハイ。そこに尽きると思います」
──個として、どの状況に対して弱いのでしょうか。
「結局、生物として弱い。そりゃハファエル・メンデスやコブリーニャを見て、個として弱いとは思わないですよ」
──つまり念を押すと、青木選手のブラジリアン柔術家への注文というのは日本の柔術家に対してなのですね。
「そう。凄く思う。だから、MMAができなかったからやってるんでしょ──という考えに行き着いてしまう。でも、これって真理だと思いますよ」
──PRIDE&HERO’S時代が終わって10年、自分が実際に何かやろうと思うような歳になった時、日本のMMAの全盛期とまる被らない選手が、柔術にハマった場合、その青木選手の考えが当てはまるとは思わないです。
「まぁ、完全に世代が違うというのはあるかと思います。今の子たちはMMAを見ていないんでしょうね」
──今でなくても柔術に専念し、MMAを見ない人は少なくないと思います。
「まぁ、さっき高島さんが言っていたみたいにムンジアルに出ている人間もMMAに興味を持っていたら柔術で勝てないってぐらいに、違うモンってことになるんですね。MMAをやろうと思うと、紫や茶帯からこっちに専念しますしね。
でも、そうやって重箱の隅を楊枝でつつくみたいに、ひっくり返し合いをやっているんだから」
──ひっくり返し合いより、相手を立たせないぐらいの感じかと。
「そこに僕は情熱が持てないんですよね。岩崎とも練習したことあるけど、そうでもなかった。だから、道着を着てムンジアルのルールでやったら、そこが彼は一番強いんでしょうね。でも、その強さってなんだろうな。まぁ、僕が道着にモチベーションがないからでしょうけど。
こうやって僕がザックリ言ってしまっている状況──この状況があるからこそ、日本ではMMAと柔術が交わらないんでしょうね」
──そうやって考えると、名前のあるブラジル人黒帯や米国の期待の若手などは、知らない間にMMAを戦っているケースもあります。アリ・ファリアス、ブルーノ・フラザト、ジャスティン・レイダーなんかが普通にフィーダーショーに出ていたみたいに。日本で例えると細川顕選手、鍵山士門選手や世羅智茂選手が、知らない間にHEATとかGrachanに出ている感じですよね。「ブラジルや米国だと、MMAの方がムンジアルで勝てるレベルの柔術家ですら、金になるからでしょうね。でも日本だと指導っていう面で考えると、柔術の方が生活できるだろうしな。
ただね、格闘技として何をやっているのかっていうことを考えると、やっぱり俺や北岡さんは『俺らが一番凄いことをやっているんだ』って気持ちなんですよ」
■『柔術ルールで俺とやってみろよっていう人間が出て来ても良い』
──その自負を持つのは自由です。
「僕からすれば、そういう気持ちを柔術の子たちも持つべきですよ。『青木、そこまでいうなら競技柔術ルールで俺とやってみろよ』っていう人間が出て来ても良いわけじゃないですか。僕は今、これだけのことを言っちゃっているんだし。でも、そういうこと柔術の連中は言わないでしょ。
嶋田が大沢に噛みついたみたいに、誰か俺に言って来いよって。凄く面白いですよ、そういうことを言うヤツが出てきたら。でも、そんな奴らでもムンジアルで勝つのは本当に難しい。
チャレンジしているんだから、勝ちたいってことだろうけど。あっ、そういえば橋本(知之)君っていう強い子がいるんですよね」
──橋本選手だけでなく、芝本幸司選手もいますよ。
「それって、俺らが知っている柔術じゃないだろうな。うん、だから昔を知っている人間からすると今の日本のブラジリアン柔術の状況が寂しいんですよ」
■『ホジャー・グレイシーがMMAにチャレンジする』
──護身だったり、競技柔術だったり、MMAだったり、それぞれの柔術があります。青木選手は強い柔術家がMMAを闊歩していた時代が懐かしんでいる。私自身、殴られるポジションに平気でいる柔術はどうかと思っていたこともありましたが、ダブルガードの時代になって、それは思わなくなりました。
「今のデミアン・マイアとかアウグスト・メンデス・タンキーニョ、ジルベウト・ドリーニョとかもそうで、僕らの頃はADCCに出た柔術家はそのままMMAに来るって感じだったじゃないですか。それがあったから面白かったけど、もう違うモノになった時点でMMAというレンズを持っているとADCCも柔術も面白くない。
それでもライアン・ホールもそうだし、米国やブラジルの黒帯柔術家はMMAにチャレンジしている。日本人はそれがまるでない。だってホジャー・グレイシーがMMAにチャレンジするんですよ。
ホジャーなんて、何もする必要がないっていう代表格じゃないですか。MMAに出ても名声に傷がつくだけ。それでも、ホジャーはSrtikeforce、UFC、そしてONEでMMAを戦い続けている。ネイマン、イーゴー、グレゴー、それにクロン、柔術を創った一族は今もMMAをやっていますよ」
──うん、そうやって考えると世界王者級でいえばビビアーノ・フェルナンデスにジャカレもしかり、相当数のトップ柔術家がMMAに挑戦していますね。「だから強いんですよ、向うの柔術家は。日本に住んでいてもクレベル・コイケやソーザ兄弟だってそう」
──なんだか、青木論に巻き込まれていきそうです(苦笑)。
「サトシなんてMMAをもっとやってほしい。どう考えてもサトシもマルキーニョスもMMAで強い。だから、彼らのことは認めています」
──MMAを戦えば、直ちに柔術家たちを認めるということですか(笑)。
「MMAをやれば認める。柔術だけ懸命にやっているヤツでも嶋田とか、個としてある程度強いからそれなりには認めるけど、大きくは認めない」
──ハハハ。もう笑うしかないです。
「植松(直哉)さんは認める。今は柔術では嶋田の方が師匠を越えちゃっているかもしれないけど、俺が認めるのは植松さん。あと、塩田(GOZO歩)さんも認める。嶋田は個として一定レベルで認めるけど、やっぱりMMAやってないから」
──だってやる必要ないじゃないですか。
「いや、強かったらやれよって」
<この項、続く>