【Bu et Sports de combat】 武術空手と武道空手。西山空手の伝承者アビ・ロカーを訪ねる─01─
【写真】多くの共通点が見られ、意気投合した岩﨑とアビ・ロカー。左はアビ先生と同様に日本から西山英峻先生の空手を学びたく、米国に移り住んだ貝島太一郎氏(C)MMAPLANET
MMAと武術は同列ではない。ただし、通じている部分が確実に存在している。そして、如何に武術の叡智をMMAに落とし込むのか。AACCでMMAファイターが習う剛毅會空手──武術空手とは何なのか。さらにいえば、空手なのは何のか──を剛毅會空手・岩﨑達也宗師に尋ねる、この企画。
今回おり岩崎が6月初旬にカリフォルニア州ロサンゼルスを訪問し、武術の原理・原則と戦略と戦術の競技──このパズルを埋める作業として、2つの空手道場を現地で訪ねた。
現在発売中のFight & Life誌において総論的なレポートが掲載される。MMAPLANETでは、アビ・ロカー空手、マチダ空手でそれぞれアビ・ロカー、シンゾー・マチダとの対話を紹介し、Fight & Lifeで述べられた総論に辿り着くまでのプロセスを紹介した。
まずはアビ・ロカー師範に武道空手を追及した師・西山英峻先生の空手、その原理・原則と型、組手の関係について尋ねた模様を紹介したい。
岩﨑 私はアビ先生のことを個人的な部分にも興味がありまして、生い立ちのようなモノからお伺いしたいのです。ユダヤ人だと伺っていますが、お生まれはイスラエルなのですか。
ロカー そうです。米国にやってきたのは兵役を終えた21歳の時でした。15歳の時に空手を習いたいなら最高の先生は西山英峻先生だと聞かされて、3年の兵役を終えてから3日後に西山先生を訪ねてLAにやってきたんです。1981年のことです。今はもうすぐ57歳になります(笑)。
岩﨑 3日後に!! イスラエルでも空手の稽古はされていたのでしょうか。
ロカー やってはいましたが、それほど良い指導を受けたわけではないです。だから西山先生に習いたかったのです。LAの空港についてイエローページを見て、タクシーでウィルシャーの事務所へ向かいました。
――西山先生は国際伝統空手連盟(ITKF)を立ち上げられていたのですが、その時は松濤館だったのですか。
ロカー 西山先生はITKFを立ち上げましたが、松濤館を離れたことはありません。日本空手協会、JKAの一員でした。ただし、JKAはスポーツに寄り過ぎて、武道性を失っているので先生はITKFを立ち上げられたんです。
岩﨑 スポーツ寄りになる、つまり大会で勝つことが目的になってしまう。では西山先生の武道空手とは、松濤館空手とどこか違ったのでしょうか。
ロカー 型の動きだけを追って大会に出るような人の空手に否定的でした。西山先生は型から空手の原理・原則を掘り下げるようになったんです。
岩﨑 表演用の点数をつけるような型ではないということですか。
ロカー コンペティションのためでなく、そして組手に生かすためだけの型ではなく、本来持っている原理・原則――プリンシプルを生かす型です。
岩﨑 プリンシプル、私は日本語で理(ことわり)と呼んでいます。私の空手も原理・原則を戦いに生かすための型稽古を基本としています。そして、海外の方には理のことはプリンシプルという英単語を用いているんです。私は極真育ちですが、極真もトーナメントを重視し型を重視することはなかったです。ただし、後になって型の大切さに気づいたんです。
――試合重視は伝統派もフルコンも同じだったわけですね。
岩﨑 そして、空手の原理・原則を生かした戦いができるようMMAファイターに指導しているんです。
ロカー 私もMMAファイターとトレーニングをしたことがあります。彼らはどうすれば空手の技術をMMAに生かせるのかと尋ねてきます。ただし、私はそういう人達には『戦いには瞬時の判断が必要です。体の動きを真似るだけでは空手は使えない。空手の理を学んだ人間でないと。それには型をやりこむことなのです』と答えています。
岩﨑 型を形にしないといけない。型は一つですが、形は千差万別だと私も学びました。つまり型を使って戦うのでなく、空手の原理・原則を使って戦うということですね。
ロカー その通りです。
岩﨑 私も全く同じ考えで指導させていただいています。たまたま型のような動きで勝つこともありますが、決して型の動きで勝つということではない。型を指導すると、半信半疑になる者、もしくは依存する者が出てきます。どちらにもなってほしくない。自分の動きたいように動かせ、そのなかで自然に型のエッセンスが取り入れるように指導しています。
ロカー 西山先生もこのようなことを言われていました。『ピカソをいくら真似てもコピーでしかない』と。とても似た考えです。いくら真似ても、それは自分の動きではない。原理・原則を知ることで、それぞれの空手になるんだと。
岩﨑 西山先生の型は、船越先生の型にアレンジを加えているのでしょうか。
ロカー アレンジはしていないです。ただし、年月を経ると少しずつ変わります。私は西山先生に習った型を守っています。西山先生はこう言われていました。「型は一つだ。ただし、一人一人に個性がある。変えないでやっていっても、それぞれの型になっていく。それは自由なので、それぞれの型を持つようになるのは構わない。ただし、生徒に教える時は、最初に習った通りのモノを指導しなさい」と。そうでないと、型はどんどん変わってしまいます。
岩﨑 本当にその通りですね。空手が沖縄から伝わり、日本全国に色々な流派によって広まっていく際、指導しやすい、習得しやすい型が真理として広まったのが空手の悲劇だと思います。原理・原則を追求するのではない、普及のための型になってしまった。
ロカー 100年前は1人の先生に生徒は1人や2人でした。だから、空手道場をチェーン展開することは無理だったのです。しかし、西山先生はパズルのようにパーツ、パーツを組み合わせていけば、全容が理解できるシステムを考えていました。指導者はそれぞれの個性をもっていますが、そのシステムを学べば指導を受けた者は一つ一つ違った形のパズルのピースを手にしていても、それが合わされば一つのデザインになる。そのように組み立てられるのが西山先生の空手でした。
組手のなかで型をフィードバックするのは簡単なことではありません。柔道や剣道など、日本の武道は型がそのまま試合に通じるモノです。ただし、空手はもともと中国の拳法が沖縄に伝わったものです。そういうことも、型が即、組手に転化できない要因になっているのではないでしょうか。
<この項、続く>
■岩﨑達也
1969年6月20日、東京都出身。極真空手90年、95年全日本重量級チャンピオン、世界大会三度出場。2002年国立競技場Dynamite!!でヴァンダレイ・シウバと対戦。現在、剛毅会空手道主宰、武術空手の指導、MMA選手の育成に励む。