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【RIZIN51】伊藤裕樹に訊く、フライ級GPリザーブ戦の敗北と今後——「アーセンと連絡を取っています」

【写真】フライ級GPも大晦日の決勝を残すのみ。敗れた者たちは、すでに次を目指して動き始めている(C)RIZIN FF

9月28日(日)、愛知県名古屋市北区のIGアリーナでRIZIN51が開催された。当日はフライ級GP準決勝の2試合が行われたほか、リザーブマッチとして伊藤裕樹山本アーセンと対戦し、判定負けを喫している
Text by Shojiro Kameike

7月の1回戦ではエンカジムーロ・ズールーを下した伊藤だが、準決勝進出者を決める総選挙の結果により、リザーブマッチへ回ることに。勝者でありながらトーナメントを勝ち進むことができなかった伊藤の前に、リザーブマッチの相手として立ちふさがったのは、2023年5月に一度敗れているアーセンだった。

結果は伊藤の判定負け。初戦と同様、アーセンのレスリング力に屈した内容となった。試合後の会見で伊藤は落ち込み具合が強く、記者の質問に対しても言葉は少ない。ただ、1点だけ――伊藤がアーセンとの練習を示唆すると、アーセンも「戦友だから」とウェルカムの姿勢であった。ここから新しい動きが始まるのか。そんな伊藤にフライ級GPの振り返りと今後について訊いた(※取材は10月16日に行われた)。


ここでまたアーセンと対戦したというのは、もう一つさらにレベルアップする段階なんだろうなって思います

――頬やアゴのあたり、少しふっくらしましたね。

「ふっくらしました(笑)。これでも痩せたほうなんですよ」

――えっ、そうなのですか。

「今は72キロくらいで、酷い時は77キロまで増えていました。普段は70キロなんですけど……試合後、バカ食いしちゃいました。まぁ、ヤケ食いですね。アハハハ」

――アーセン戦後の会見では、神龍誠選手に敗れた時よりも落ち込んでいる印象を受けました。記者の質問に対して、ほぼ何も答えることができずに。

「まぁ、そうですね。自分が今までやってきたことは何だったのかな、と思うぐらいで。再戦なのに前回と同じような試合になってしまったので結構……、……会見の時は何も言えなかったです」

――試合内容については初戦と比較して、差が縮まっていたのか、それとも広がっていたのか。どのように感じていますか。

「縮まってもいないし、広がってもいないという感じでしたね。平行線上というか――お互い同じぐらいレベルアップしていたから、初戦と同じような展開になってしまって。

自分はテイクダウンに対する反応が上がっているけど、反応しても相手にまとめられてしまう。たとえばスプロールしてワキをすくいに行っても、逆に四つで両差しになって、自分の腕を束ねられたりする。うまくコントロールされてしまいました」

――伊藤選手にとってはアーセン選手が、そしてアーセン選手も伊藤選手が何をやりたいのは分かったうえで再戦に臨んでいる。そこで伊藤選手がアーセン選手のレスリング力を防ぎきれない。さらに言えば、MMAの実績では明らかに伊藤選手が上回っている。特にトニー・ララミーとズールーにあの勝ち方ができる伊藤選手が、アーセン選手のレスリング力に屈してしまう。それがMMAの面白さであり、怖さでもあるかと思います。

「それがね、まさにMMAって感じがしますよ。自分も反応できるようになったからこそ、そこで封じ込められてしまったので無力感があったというか。触られるまでは大丈夫なんです。でも触られてからのプレッシャーの掛け方がアーセンの良さで。そこで自分は捌ききれなかった。捌くための練習をしていたのに、その成果をうまく出せませんでしたね」

――組みの展開で聞きたい点が2つあります。まずテイクダウンされながらもスクランブルに持ち込む展開は、初戦よりも明らかに向上していたように見えました。ただ2R、伊藤選手がスクランブルからバックに回った時、離れてスタンドに戻るという選択肢はなかったのですか。

「バックに回ってから、そのまま足を入れてバックをキープしたかったんですよね。あの状態からスタンドに戻っても、ポジション的に自分のほうが悪くなってしまうので。サイドバックぐらいまで行っていれば、そこから立ち上がることもあったかもしれないです。結局は足が入らずに前へ落とされちゃって。あの展開は本当にもったいなかったです」

――伊藤選手がやりたい展開に対して、アーセン選手のほうが先回りしていましたか。

「というよりも正直、自分が『もっとやらなアカン、もっとやらなアカン』と焦っていましたよね」

――もう一つは3R開始直後、アーセン選手が組んできたところを差し返し、自分からコーナーに押し込んでいきました。あの場面では組みで勝負したかったのでしょうか。

「いえ、押し込んでから離して打撃で行くつもりでした。でも離そうとした瞬間、倒されそうな感じがあって、自分が剥がし切れなかったですね。無理に剥がそうとすると、そこからテイクダウンを狙ってきたりもしますし。理想としては、あの場面では完璧に剥がして打撃に持っていきたかったです」

――それだけコーナー際で、レスリングの駆け引きが行われていたのですね。

「そうですね。肩の入れ方で有利、不利が変わっちゃいますし」

――結果論とはいえ、この試合内容を「相性」という言葉で片づけてよいものなのかどうか。いろんな意味で……マッチメイクの面でいえば、「なぜここで神龍なのか」「なぜここでアーセンなのか」というタイミングで組まれてしまう。もちろんトップを目指すファイターであれば、誰が対戦相手でも勝たなければいけない。ただ、それでもここで一番苦手なタイプが来るかと。

「アハハハ、まぁまぁ――うん。タイプというか、『ここでアーセンが来るのか』って気持ちはありましたね」

――そのアーセン選手との再戦で、自身の中にあるレスリングの壁を越えることができなかった。伊藤選手とすれば、この内容と結果をどのように消化するのか。

「……、……感情は結構グチャグチャになりましたよ。選挙があって、リザーバーになって対戦相手は誰になるか分からない。それがアーセンになる……、……どう言えばいいのか難しいですよね」

――難しいとは思います。神龍戦から含めて今回のフライ級GPで、最もシンドイことをしてきたのが伊藤選手ですから。

「アハハハ、どうなんですかね。でも自分に起こることは、全て自分の責任だと考えていますから。その道を選択したのも自分だし、この試合をするって決めたのも自分であって。だからその部分に対して、自分がどうこう言うことはないです。

ただ、アーセンと最初に試合をした時も――RIZINで初めて負けた相手がアーセンで、そこからまた自分が強くなるための段階を上がってきました。ここでまたアーセンと対戦したというのは、もう一つさらにレベルアップする段階なんだろうなって思います。このままだとトップに通用しないことも分かっているし、もう一段階何か自分の中で新しいことを考えていくべき時期なんでしょうね」

自分に足りないものを徹底的に強化したいですね。もしかしたらファイトスタイルも変わるかもしれないです

――なるほど。自身が敗れたあとに行われたフライ級GP準決勝の2試合は、直視できましたか。

「視てはいました。そんなに頭には入ってこなかったけど……」

――では準決勝戦の感想を教えてください。

「扇久保さんとガジャマトフは、こうなるだろうなっていうイメージどおりの試合でした。

元谷さんと神龍の試合は当日のベストバウトかなって思います。元谷さんも前日計量はフラフラの状態でクリアして、神龍はコンディションも良さそうでした。だから『これは神龍が元谷さんを喰っちゃうのかな』と思っていたら、やっぱり元谷さんの試合の組み立てが巧くて。ポイントの取り方、1Rから3Rまでのギアの上がり方とか、経験を積んだMMAというものを見せてくれましたよね」

――それらの試合を視ながら、「もしも自分が準決勝に出ていたら……」という想いには駆られなかったですか。

「その時はそんな気持ちで見ることはできなかったけど、今は『ガジャマトフと戦ったら、どうなっていたんだろう』とか考えたりはします」

――試合から数日経って、そう考えることができるようになった。気持ちもスッキリしたためか、食べるだけ食べて肌ツヤもスッキリした気はします。

「最近はビタミンも摂るようにしているので(笑)」

――アハハハ、大切なことです。

「今は来年に向けて一旦リセットして、また次の目標に向かって頑張ろうという気持ちです。だから来年の試合に向けてのプランは考えているような感じですね」

――来年、ですか。多くのファイターは同じ状況であれば、大晦日に復帰したいと考えるでしょう。

「もしオファーが来たら、その時に考えますけど――自分の中では、こんな状態で試合をしてもファンの皆さんに申し訳ないと思っています。ちゃんと強くなった状態で復帰するのが一番なのかな、って。そのほうがファンの皆さんも楽しみにしてくれると思うし。今年はもう4試合やったから、ちょっと休ませてください(苦笑)」

――そんななか試合後に「アーセンのところへ練習に行ったほうが良いかな」という発言があり、アーセン選手もウェルカムの姿勢を示していました。

「はい。もうアーセンとは連絡を取っています。彼とは戦友で、僕に足りないものをアーセンは持っているので、そういうのも教えてもらいたいっていう気持ちはありますね。あとはタイミング次第です」

――神龍選手もATTで練習することが決まり、新たに動き出しています。

「そうですね。個々の目標に向かって」

――最後に一つ訊かせてください。大晦日のGP決勝は、どうなると予想していますか。

「いや、それがもう本当に分からないです。これはムズいっすよ(苦笑)」

――そこを何とか……。

「……6:4ですね。『扇久保さん、やっぱり強いよな』という展開になるのが6。4は『元谷さん、このパンチを効かせるのヤバイ!』という感じで勝つ、というぐらいで。いやぁ、予想はムズいっす。この2人の試合なら、5分5Rで見たいぐらいで。

あくまで欲を言えば、ではありますけど。でもそれが扇久保さんと元谷さん――世界に通じるレベルのファイターということでしょうし」

――予想ありがとうございます。では改めて、伊藤選手の2026年の抱負をお願いします。

「一旦リセットして、自分に足りないものを徹底的に強化したいですね。もしかしたらファイトスタイルも変わるかもしれないです」

――えっ!? レスリングスタイルの伊藤選手も見てみたいです。しかしストライカーのほうが注目されやすいなか、ファイトスタイルを変えることは怖くはないですか。

「僕の中では自分を応援してくれる人たちに、負ける姿を見せるほうが嫌なんですよ。やっぱり僕が負けることで悲しんだり、『元気がなくなった』とかってコメントを見たりもするし。そうなるぐらいなら、今は勝ちたい気持ちのほうが強いので。スタイルチェンジがどうなるか分からないけど、また新しい僕の中に面白さを見つけてくれたら嬉しいです」

■RIZIN LANDMARK12 視聴方法(予定)
11月3日(月・祝)
午前11時30分~ ABEMA、U-NEXT、RIZIN LIVE、RIZIN100CLUB、スカパー!

■RIZIN LANDMARK12 対戦カード

<フェザー級/5分3R>
秋元強真(日本)
萩原京平(日本)

<RIZIN女子スーパーアトム級選手権試合/5分3R>
[王者] 伊澤星花(日本)
[挑戦者] 大島沙緒里(日本)

<フェザー級/5分3R>
ヴガール・ケラモフ(アゼルバイジャン)
松嶋こよみ(日本)

<フェザー級/5分3R>
摩嶋一整(日本)
木村柊也(日本)

<50キロ契約/5分3R>
ケイト・ロータス(日本)
イ・ボミ(韓国)

<ライト級/5分3R>
宇佐美正パトリック(日本)
桜庭大世(日本)

<バンタム級/5分3R>
中島太一(日本)
後藤丈治(日本)

<ヘビー級/5分3R>
貴賢神(日本)
MAX吉田(日本)

<62キロ契約/5分3R>
金太郎(韓国)
リ・ユンフォン(中国)

<ライト級/5分3R>
雑賀“ヤン坊”達也(韓国)
ヌルハン・ズマガジー(カザフスタン)

<バンタム級/5分3R>
鹿志村仁之介(日本)
安井飛馬(日本)

<ライト級/5分3R>
キ・ウォンビン(韓国)
キャプテン☆アフリカ(日本)

<フライ級/5分3R>
トニー・ララミー(カナダ)
山内渉(日本)

<キックボクシング51キロ契約/3分3R>
KING陸斗(日本)
水野夢斗(日本)

<OP女子スーパーアトム級/5分2R>
NOEL(日本)
海咲イルカ(日本)

<OPキックボクシング57キロ契約/3分3R>
赤平大治(日本)
翔磨(日本)

<OPバンタム級/5分2R>
宮川日向(日本)
MG眞介(日本)

<OPキックボクシング63キロ契約/3分3R>
元氣(日本)
林眞平(日本)

<OPキックボクシング51キロ契約/3分3R>
みいちゃんレンジャージム(日本)
伊藤菜の花(日本)

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