【Breackthorugh Combat04】RTU後に、熊崎夏暉に初黒星を訊いた――「強い選手と戦うから……」
【写真】ダメージはないという熊崎だが、まだ激闘の跡は顔に残っていた (C)MMAPLANET
5月14日に開催されたBreakthrough Combat04で、熊崎夏暉がジョン・オルニドに0-3の判定で下りキャリア初黒星を喫した。
text by Manabu Takashima
熊崎が敗れた翌週に、Road to UFCではBRAVEの同門も含めトーナメント出場選手が1勝7敗という結果に終わった。曽於敗北は強さを第一に追求し、UFCに通じる育成という部分で日本のMMA界の構造的欠陥が痛感された現実が見られた。上海の悲劇を通じ、キャリア5戦目でジョン・オルニドというフィリピンの新鋭と戦い激闘を繰り広げた熊崎の想いを尋ねたいと思った――。
試合は記憶が飛んでしまっていて、覚えていないんです
──今回はRoad to UFCの日本勢の惨敗を見て、キャリア5戦目の初黒星ながらオルニドとの激闘を経験した熊崎選手に話を伺いたいと思いました。
「ありがとうございます」
――試合から2週間、ダメージやケガというのは?(※取材は5月30日に行われた)
「カーフを効かされました。大会の日は宮田(和幸)先生が家の近くまで送ってくれて。次の日も痛くて歩けなかったです。そこが収まると、他は大丈夫で指導にも戻っています。
ただ試合は記憶が飛んでしまっていて、覚えていないんですよ。動画を視て、ボディを効かされていたとか分かった感じで。自分の打撃も凄く動きが大きくて……。あれだとカウンターを合わされてしまいますね」
――初回に右を合わされ腰が落ちたのですが、アレから記憶がないということですか。
「そこだと思います……。試合中全ての記憶が、ほぼなくて。試合が終わった時も、途中で1度座った記憶があったので2Rと3Rのインターバルで最後のラウンドがあると思っていたら野村(駿太)さんから『夏暉、終わりだよ』って言われました。
自分のなかでは記憶がないからやり切った感もないし、映像を見て『もっとできた』と思って。悔しさしかないです」
――記憶が残っていない。そんな状態で、オルニドのあの打撃を受けて最後まで勝負を諦めなかった。打撃も組みも勝負に行っていたことで、より熊崎選手の今後に期待したくなります。
「ありがとうございます。でも、全く記憶がないんです。試合が終わった直後は、もう少しあったかもしれないですが、今は本当に何も覚えていなくて。オルニドと向き合った記憶すらないんです。
だから試合後もまだ戦えたという気持ちが残っていたのですが、その気持ちをどこに向ければ良いのか分からなくて。
『カーフやボディが効いた?』って聞かれても、痛かった記憶もないんですよ。記憶がないって、ここまでまるっきり消えるんだと。人生で初めてのことですし、ちょっと怖いです。オルニドに関しては、計量の時と試合前の控室の記憶だけですね。計量の時に凄くこっちを見ていて。試合前も控室のパーテーションから頭を出して、ガン見してきたり。チラっとかでなく、はっきりとこっちを向いているんですよ。ちょっと、変わった人なのかと……(苦笑)」
――……。それは……。ところで試合後の周囲の反応はどのような感じでしたか。
「宮田先生は『よく頑張った。ちょっと休んで』と言ってもらえました。他の人も『良い試合だった』と言ってくれましたけど、やり切れていない気持ちがあります。だから、そういう言葉を素直に受け入れることもできなくて。
それに映像を視ると、もっとできたと思っています。強い選手と戦うのが初めてで、思った通りの戦いはできなかった。それが課題です。逆にそういう試合ができたことが、デカい経験になったと思います」
――2年2カ月ぶりの来日となったオルニドが、相当に成長していました。
「ここで勝って(神谷)大智さんと(伊藤)空也さんにつなげようという気持ちと、ここから上に行くために国際戦で勝つことが凄く大切だという気持ちで練習の時から、追い込んでいました。
あそこまで追い込んでいたから、記憶がなくなるような試合でも最後まで戦えたのかと思います。勝ちたかったですけど、大きな経験になりました」
――そもそも熊崎選手がBreakthrough Combatで戦おうと決めたのは、どういう理由だったのでしょうか。
「Breakthrough Combatって連れてくる外国人選手が、結構強いじゃないですか。あのシンバートル(バットエルデネ)とか。彼を見た後、僕は今年の1月に初めてGladiatorで試合をしました」
――ハイ。秋田良隆戦で3分06秒肩固めによる一本勝ちでした。
「あの試合で思ったのは、Gladiatorだと最初のうちはあまり強い選手と戦えないということでした。でもBreakthrough Combatだと、国際戦をキャリアが少なくても組んでくれる。しかも、強い外国人選手と」
自分が勝てるだろうと思う選手と試合をしても、強くなれない
――誰もがということではなく、そこは熊崎選手が期待されているからだったかと。ともあれ熊崎選手は、国際戦を求めての参戦だったのですね。
「日本人とはリズムが違う戦いを外国人選手はします。そういう部分でも駆け引きが必要な戦いができる選手がBreakthrough Combatにはいました。やっぱり強い選手と戦いたくて、その時に野村(駿太)さんも『やってみるのは良いことだよ』と言ってくれたんです。
それでBreakthrough Combatで戦おうと思いました。自分がBraveで『この人みたいになりたい』と思うのが、野村さんで。野村さんもずっと強い選手、自分の壁になるような選手と戦い、勝ち上がってきたから今がある。自分もそういう風に強い選手と戦って、勝っていく。そうすれば経験もそうだし、得られる強さが全然違うと思います。
自分が勝てるだろうと思う選手と試合をしても、強くなれないし評価もされないです。強い選手と戦うから、練習も必死になって成長できる。結局、その部分を積み上げないとこないだのRoad to UFCみたいになってしまいます。
勝てる選手とばかり戦っていても、壁にぶち当たる。あの場に出て壁にぶち当たると、戦績を積みなおすにも時間が掛ってしまいます。そういう風になりたくないので、強い選手とどんどん戦っていきたい。だからBreakthrough Combatで戦おうと決めました」
――いやぁ、そのような想いがあって試合に臨んぞでいたからこそ、オルニド戦が記憶に残っていないのがつくづく残念ですね。
「本当にそうなんですよ(苦笑)。でも試合中は考えて、自分ができる動きをしていたと思うんです。今は覚えていなくても、あそこで見せた力が今の自分で。試合の動画を視ると自分の悪い癖が、より大きくなって出ていました。それに普段ならできていることができていなかったです」
――アハハハ。ところでBreakthrough Combatのバンタム級の海外勢といえばオルニド以外に、シンバートル。それと2月大会で熊崎選手が対戦予定だったチェ・ハンギがいます。チェ・ハンギとの試合も見てみたかったです。
「そこは自分がケガをして欠場してしまったので……。シンバートルは強いですよね。いずれ、ああいう強い選手と当たることになる。なら経験をしておかないと。彼のような選手に勝てないと、上にはいけないと思います」
――ではオルニド戦を経験して、今後はどのように戦績を積んでいきたいと思っていますか。
「Breakthrough Combatで外国人選手や強い選手……そうですね、DEEPやパンクラスでも強い選手と戦っていきたいです。勝てる相手を当てられる……そういう試合はしたくないと思っています。自分は海外、UFCを目指しているので。朝倉海選手がRIZINからUFCという道を創ってくれたけど……そこも、他の選手にもあてはまるのか。
僕は負けてしまったのですが、オルニドやシンバートルに勝てないとRoad to UFCだって勝てないと思います。この間の公開処刑みたいな試合を見ていると、日本人として悔しかったです。オルニドに負けた自分が言うのはなんなんですけど、俺がやらないと……頑張らないといけない。そういう気持ちです」