【RIZIN DEDADE】大晦日からRIZIN2025年の展望を柏木さんに訊く─01─「神龍選手は絶対に強くなる」
【写真】これも日本を強くするためです(C)MMAPLANET
RIZIN DECADE、大晦日は1年の集大成であり──新しい年のプロローグだ。
Text by Manabu Takashima
特に昨年9月から本格的に海外未知強勢の来日が始まったRIZINフライ級戦線に元UFCファイターというブランドをもってホセ・トーレスが乗り込んできたことは、2025年の──いよいよGPが実現するのではないかと噂される──フライ級の序章といえた。そんなフライ級の2試合から、柏木信吾氏に大晦日を振り替えてもらった。
柏木氏が、ホセ・トーレス×神龍誠=59キロ契約戦とRIZINフライ級選手権試合=堀口恭司×エンカジムーロ・ズールーの2試合に込めた想いと感じた手応えとは。
──今更ながらですが、明けましておめでとうございます(※取材は16日に行われた)。本年も宜しくお願いします。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
──大晦日大会まで本当にお忙しかったかと思いますが、年始は休めましたか。
「ハイ。おかげさまで1週間ほど休暇があり、家族で旅行に行かせてもらいました」
──それは良かったです!! 大晦日、RIZIN DECADEの前にFight & Lifeで2025年フェザー級の展望という取材をさせていただいたのですが、フェザー級と同様にMMAPLANETではフライ級戦線に注目をさせてもらってきました。6月からのフェザー級、9月以降のフライ級はUFCも含んだMMA全体の世界観のなかにある。従来のMMAPLANETの読者の皆さんも、絶対に好きなところだと感じています。
「おお、そうですか。見てくださっている方が、強さのベクトルで選手を評価してくれることは凄く良いことですよね。SNSの評判とかでなく、実際に試合で感じた強さで選手のことを評価してくれるようになった。それは本当に嬉しいです」
──あぁ、それは感じます。今は映画でも実際に見ていないのにSNSの評価が独り歩きする。それは格闘技を語るMMAファンにも感じられる部分ではあります。
「YouTubeのコメントも、最初のコメントをした人の意見がコメント欄の方向性を決めるってありますよね。皆、マジョリティでいたくて同じようなことを言う人が多い。それって僕も感じるところです。匿名でとりあえず流れに乗って、自分は多数派だ──みたいな」
──匿名でもマイノリティになれないのかと(笑)。
「ないんですよ。自分のXを見返していたら中村優作選手のヒロヤ戦後の会見で、高島さんの言った『負けたと思っていました』という言葉が切り抜かれて、ボロンチョに書かれていたところに目が留まって(笑)」
──あぁ、ありましたね(笑)。高校生の娘から「学校で友達から、お父さん大丈夫って言われたけど。何かしたの?」って尋ねられましたよ(笑)。
「あの時、高島さんを擁護した投稿をしたら僕まで凄く攻撃されて……」
──それはスミマセンでした。えっ、でも擁護してくれたのですが。それはありがとうございます。
「めっちゃしましたよ。切り抜きですし、選手と記者さんはちゃんとした人間関係があるから、そういう質問だってできる。切り抜きで評価はできないですよって。それでボコボコに叩かれました(笑)」
──いやあ、本当に申し訳なかったです。自分はXを見る度胸はないのですが、Xを読んでしまわないだけの気持ちの強さは持ち合わせているみたいで。本当に読まなかったんですよ。気持ちが良いモノでないのは絶対なので。
「ハハハハ」
──ただ、知人に「追従して俺のことを悪く言った関係者。俺を庇ってくれた業界の人間の名前だけは教えてくれ」って頼んで。その時は川尻(達也)さんと大沢(ケンジ)さんが庇ってくれたと聞いて、一生忘れないでいようと思いました。
「えぇ、僕の名前なかったですか。なんで? 僕が絶対に一番擁護していますよ。めちゃくちゃ頑張ったのに。普段、こんなに返信しないのにってぐらいに返信をして」
──重ねてありがとうございます。自分も今になって、凄く嬉しいです。そんなところで話を戻しますと、強さで選手が評価される世界観があるRIZINフライ級でホセ・トーレスが神龍誠選手に勝ちました。最終回、神龍選手が足関節を2度仕掛けた。これが本当に残念な敗戦の要因になったかと。
「あそこまで本当にイーブンでした。つまり、勝てた試合ですからね。変な話、ユニファイドの裁定基準ですらイーブンだったじゃないですか」
──ハイ。初回が神龍選手で、2Rがトーレスでした。
「本当に勝負の最終回でした。これは試合後に神龍選手本人にも伝えたのですが、イーブンだから何かインパクトを残す必要があって、流れを引き寄せようとした判断は正しかったです。フィニッシュ・ストロングということがありますし、何かしないといけない。それが分かっていた神龍選手は偉いです。ただ、その選択肢が足関節だったというのが……」
──しかも、2度です。1度目に防がれて、下に留まることがなかったことを良しとし、もう下になってはいけなかったはずです。
「そこで2度、同じことを仕掛けて。2度目は下になって、マウントを取られて殴られてしまいました。いや、勝てた試合ですよ。だから勿体ない」
──初回と同じことをしなかったのは、競り負けたのだという理解に落ち着きました。ただし、それは神龍選手個人の問題でなく、高次元での競り合い不足に陥っている日本全体の問題ではないのかと。
「そこも本人に話しました。最後の2分で競り負けた。これは扇久保(博正)戦と同じですよ──と。本当に差はなかったです。差がなくて、対等に立派な戦いができていた。でも、最後の2分で競り負けた。それがファイトIQによるものなのか、チーム力なのかは分からないですが……。繰り返しになりますが、何かをしないといけない状況で自分から創ろうとしたことは評価したいです。
それが足関節でなかったら。あるいは足関節でもキャッチまで入っている。自分を優位に置くことができれば勝っていた。そこの紙一重の差で負けました」
──テイクダウンして殴る。その選択でも構わないですか。
「良いと思います。それができていたのであれば」
──確かに2Rからテイクダウン狙いは、少なくなっていました。ホセ・トーレスの距離で打撃に応戦していて。
「本人は敗北後でも、足関節には自信を持っているようでした。『結構、良い感じだったんですよ。自分ではもうちょいだと思っていたんですよ』と言っていましたし。だからもう1度仕掛けたと。結果的にマウントを許してしまった。本当に微妙なところで負けている。マウントを許していなければ、勝っていたかもしれない。自分から仕掛けたけど……本当に難しいです。本人がどう思っているかは分からないですが、それを経験できたことは今後に大きく生きてくると思います。あのギリギリの攻防を試合で身をもって知ったので。ホセ・トーレスに競り負けた経験で、神龍選手はここからどんどん強くなれると思います」
──とはいってもRIZINのフライ級が2025年により盛り上がるには、神龍選手には勝利が必要だったかと……。現状の日本トップ3にはトーレスの上、他の日本勢がトップ3に挑むならトーレス越えが必要ですよという基準になるというか。そういう状態になってほしかった。
「そうなんですよね……。ここは勝っておくべきだった。そういう意味でも、勝ってほしかった。ただ本当に競り合っていたので、今言われたような位置にトーレスはいるという見方もできるかなと」
──「俺はトーレスに勝って神龍、扇久保と戦う」という選手に出てきてほしいということですね。
「でもホセ・トーレス、簡単じゃないですよ。あの2Rからも盛り返し、2Rの展開は面白かったです。初めて日本に来て、最後の調整にしても勝手が違ったはずです。何も分からない手探りの状況で、アレができるってさすがです。見事に流れを変えましたからね。
こういうと怒られるかもしれないけど、トーレス×神龍が一番面白かったです。MMAとして」
──おおおお。
「MMAの試合の完成度としては、ぶっちぎりでした。そうじゃなかったですか」
──堪能できました。と同時に59キロ契約です。トーレスはあと2キロ落ちるのか。
「いけそうですよ。本人はバンタム級でやってきたので不安もあったと思います。でも、全然大丈夫。アンダーできました。だから57キロの話をするのは現実的です。
トーレス自身が61キロで戦うと、渾身のパンチが当たっても効かないと言っていました。彼もフライ級でやっていきたいでしょうし。BRAVE CFで戦ってきたバンタム級、南アフリカのフィジカルモンスター(=ンコシ・ンデンベレ)には、そりゃあ効かないですよ。
だからフライ級に戻したいという意志をトーレスが持っていて。それはタイミング的にはRIZINとしても良かったです」
──そのフライ級のタイトル戦。ズールーが強く、また堀口恭司選手が強かった。
「堀口選手は強かった。それが試合というか、作業をして強いという印象を持ちました。その作業に対して、一つずつ対処していたズールーも評価したいです」
──ハーフで、あの効かせるパウンドを落とせるのは堀口選手がATTでやってきたことの表れかと感じました。立たせないで、コントロールをしている。それでいてダメージを与えることができる
。「なるほど、そうですね。ズールーはスクランブルに持ち込める力があるファイターですしね。その技術も体力もある。でも堀口恭司は抑えながら殴って、削ることができた」
──日本でUFCを目指すと言っている選手、あるいはレスラーの誰にアレができるのかと。と同時に打たれ弱くなったという指摘も試合後には出ていました。
「ハイ。どう思います?」
──自分は逆に打たれ弱いとは思わなかったです。あの見えないところで左フックを被弾しながら、すぐに組みにいけたのですから。
「あれはズールーを評価すべきですよ。あのタイミングで打てるズールーを。しかも、アレは完全に狙っていました。見事に堀口対策を練ってきて、試合でも決めた。堀口選手にスクランブルを仕掛けることができるのもそうだし。
本当に対策を練ってきたんだなって。
テイクダウンをされてもハーフにして、そこからスクランブルを創って立つ。なんなら自分からテイクダウンを狙うとも言っていましたしね。なんでもできるんですよ。ただ、それから先に何があったのか。そこまでいかせなかったのが、堀口選手の強さでした」
──と同時にあれだけ組みで勝負する。やはり堀口選手のスタイルチェンジは感じられました。同時に軽量級ほど、耐久劣化は早いのではないかとも。
「それって反応とかの話ですか」
──ハイ。ズールーは年上でしたが、劣化がないようなキャリアの積み方で。だから国内の若い選手よりも、昨年の秋から始まった海外勢路線は堀口選手、扇久保選手も早々に巻き込んでしまうのではないかと。ただRIZINはふるい落とすためにあるフィーダーショーではない。日本人選手が勝たないといけない場です。
「そう、勝たないといけない。逃げられないんですから。だから、やるしかないんですよ。さっきも言いましたが、神龍誠はホセ・トーレスに競り負けた。でも、あの試合を経験したから確実に強くなる。いつも登山に例えて申し訳ないのですが、エベレストのヒラリーステップ(※エベレスト山頂付近の最後の難関といわれる絶壁)って、いくらイメージをしていても行かないと分からないじゃないですか。
富士山ばかり登っていても、想像もつかないわけで。予想はできても、実際にヒラリーステップに行ったのかと尋ねると、行ってないわけで。経験していないと、それに対する準備もできない。それがエベレストに行って、ヒラリーステップのヤバさを理解して登頂を断念する。でも、戻ってきて準備ができる状況になります。予想をしたときに、何が起こるのか見えている世界は現地に行った人間と、行っていない人間は確実に違う。
日本に戻ってきてから目に映るモノも変わっているだろうだし、生活習慣も変わると思います。目標が見えて、現実的に捉えることができるから。普段の練習、練習に対する向き合い方だって変わってくると思うんです。そういう変化がないなら、何を目指しているんだという話になるので。そういうことも踏まえて、やるしかないんですよ。もう逃げることはできないんですから」
──ホセ・トーレス×神龍誠、堀口恭司×ズールーはフライ級の選手に、世界と戦うということを真剣に見つめるきっかけになったのかと。
「考えるきっかけになってほしいです。ただ単に『強いから嫌だ』というのは違うだろうって。なんのために、格闘技をやっているのか。ヌルマゴがインタビューで『世界チャンピオンになるために、何よりも大切なことは犠牲だ』と言って話題になっているんですよね。『鍛錬じゃない。鍛錬では限界がある。犠牲を伴わないで強くなれる方法を俺は知らない』と」
──あぁ、凄まじい言葉ですね。
「ハイ。我々の求めるところじゃないですか。あれもやりたい、これもやりたいって誘惑の多い日本は、ご褒美も多いです。『家族に会いたいなら、会いに行けば良い。ここにいるべきじゃない』ともヌルマゴは言っていて。実際には彼はお父さんが亡くなって、お母さんの面倒を見るために引退しました。つまり自分は家族を優先した。もう戦うべきでないと、引退したんです。凄く一貫しているので、言葉が重いです。恰好をつけた口だけのセリフではない。鍛錬では補えないことがある。この言葉は日本人選手の皆に知ってほしいです」
──ハイ。その強さを求める、強さが評価されるフライ級の2試合ですが……大晦日にあってどのような評価を受けることができたのでしょうか。
「僕は凄く好きでしたけど、RIZIN内やRIZINのターゲットである世間様に、どれだけ突き刺さったのか。でも、あの2試合がしっかりとやれた。そしてワンサイドマッチでなかった。しっかりとしたMMAを15分間、見せてくれた。そこはすごく大きいと思っています。非常にマイノリティな意見かもしれないですが、RIZINの目指すフライ級はそこですから。『世界一のフライ級はRIZINじゃないの?』っていうロースターを創りたいです」
──パントージャ×朝倉海を見て、世界一がUFCであることは間違いないです。断言します。ただ、そういう気概を柏木さんは持っている。日本のフライ級を強くしてくれるのはRIZINではなく、柏木さんです。
「…………」
──非常に困った顔になってしまいましたが(笑)。
「まぁ強くなるのかどうか、それは選手次第です。自分は選手を育てる立場にあるわけではないので。ただ、そういう選手たちが世界イチになるためのしのぎ合いをする環境創りを自分はできる……そういう立場にいます。やっぱり格闘技を関わって、自分のことを格闘家と呼ぶなら強くなってほしい。強さを追求してほしい。現状に満足をしてはいけないです」
<この項、続く>