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【Special】ヘンリー・フーフト&鈴木崇矢対談─03─「夢を追い求めるなら、より良い環境に身を置くこと」

【写真】フーフト夫人は、日本人の感覚からいうとはっきりと言葉を口にするように感じる。それも彼女が英語を話す努力をし、英語を話すときは英語脳になっているからだと思う。ヘンリーは英語を使うことについても、言及してくれているので──是非(C)MMAPLANET

キルクリフFC総帥ヘンリー・フーフトと鈴木崇矢の対談P最終回。UFCで勝つためのキャリアアップに続き、米国と母国のどちらの拠点を置くのか。ヘンリーは絶対的に米国に住むことを推奨した。
Text Manabu Takashima

自分が何を目指すのか。この間、常に書き記してきたUFCを軸にしたMMAにおける練習環境。なぜ、米国に住むべきなのか──その想いの強さ、決意が人生を切り開くというヘンリーの熱い激を感じ取ってほしい。

<ヘンリー・フーフト&鈴木崇矢対談Part.02はコチラから>


──あくまでもUFCで勝つことを目標として、ということを想定した場合ですよね。全選手がそうでなくて。UFCを目指すうえでは、最近LFAの中継でも「UFCに辿りつくためじゃない。UFCで戦い続けるため」という言葉が聞かれます。

ヘンリー UFCもそのファイターが、誰と戦ってきたかをチェックするからね。私はキックで世界チャンピオンだった。ただし、K-1チャンピオンにはなれなかった。世界チャンピオンより、K-1チャンピオンが真のグレート・ファイターだ。ピーター・アーツ、アーネスト・ホーストのような。ベルトじゃない。一番レベルが高かったのがK-1だったんだ。

と同時にオランダ、ベルギー、ドイツではタフなファイトが常に行われ、K-1で戦う機会がなくても強かったキックボクサーは存在した。私たちはK-1で戦いたいから、タフなローカルショーで試合をしてきたんだよ。

──それがLFAやCFFCということですね。ところで米国で練習する場合も、住まいを移している選手と2~3カ月の滞在で母国と行き来する2つのケースがあります。行き来するのと、ステイする。そのメリットとデメリットがどちらにもあるかと思うのですが。ヘンリーはどのように考えていますか。

ヘンリー 家族持ちなのか、そうでないのか。シャクハト・ラクモノフはカザフスタンに家族がいる。だから、ファイトキャンプの時にフロリダにやってくる。そういう選手は、そうせざるを得ない。家族がいるなら、一人でこっちにいるのは楽ではないからね。

ただ独身なら、ずっと米国にいることを勧める。そして、試合も米国でするべきだと思っている。君も言ったように、目標がUFCならね。キャリアを米国で積むことは大切だ。3カ月、試合のためにトレーニングをする。そして自分の国に戻る。そのたびにトレーニング・パートナーが変わる。練習相手から吸収できることも多い。この業界の生の情報が、米国中で戦っている仲間から耳に入ってくる環境も大切だ。それこそが、チームの一員になるということで。

鈴木崇矢 日本とこっちでの練習内容が違うと、こっちにきたときにケガをするリスクは高くなるかと感じました。トレーニングの強度が違うので。でも、こっちにいればそれが当然になるので感覚にギャップがなくなり、ケガのリスクは軽減するかと。

ヘンリー 私が初めてタイで練習をしたのは17歳の時だった。父に「冬の間、タイでとトレーニングする」って伝えると、「それはどこだ?」って言われたよ(笑)。

鈴木崇矢 ハハハハハハ。

ヘンリー 飛行機を間近で見たことすらなかったけど、24時間かけてタイに行った。タイでは1日7時間の練習ができた。それからタイを離れることはなかったよ。タイが拠点になったんだ。素晴らしいトレーニングと人生を得ることができた。妻がいて、孫にいる。本当に恵まれた人生を歩めている。それは全て、あの時にタイに行ったからだよ。

私は日本のことが大好きだ。全てにおいて整っていて、人々が親切。これほど美しい国はない。でもUFCで成功を収めたいなら、練習環境が整っている場所に住んでトレーニングをするほうが良い。人生で何を一番重視しているのか。日本に住んで家族を養うことが一番大切なら、そうすべきだ。日本で格闘技を続けたいなら、それで良い。でも、UFCでチャンピオンになりたいのであれば練習環境、UFCの目に留まる試合機会がある米国に来るべきだ。UFCで成功するのは、アメリカン・ドリームだ。なら米国に来ないと。

米国でやるべきことをやり、やっていける目星がつけば帰国するのも良いだろう。ただし、やり始めが大切だ。私の成功体験を若い選手に押し付けているわけじゃない。自分の夢を追い求めるなら、より良い環境に身を置くことを考えるべきだと言っているんだよ。多くの人は、その場に留まっている。でも、まるで違うキャリアの積み方が米国にはあるんだよ。

ホームシックなんて誰でも経験する。私もそうだった。今いる環境を大切にする気持ちは理解しているよ。ただし、本気で何かを追求するなら、ベストの環境を手にするために何かを失うぐらいでいないと想いは叶わない。

私はすべての職業に就いている人たちを尊敬している。ただし、私はファイターとして生き、ファイティングワールドに居続けたいと思ってきた。そっちの世界を私は選んだんだ。友達と一緒に遊びに行くこともなく、酒も飲まない。できないことだらだけだ。なぜか? この人生を選んだからだ。そして、今、ここにいる。

ジムには朝の7時半からいる。私は選手にベストになってほしい。選手が合わないと思うなら仕方ない。でも私は選手に対して、自分のベストを尽くしたいんだよ。

鈴木崇矢 ヘンリーが一番、ジムにいると思います。どの選手よりも、コーチよりも。

──成功したから言えるんだということでなく、その成功を目指す一歩のことをヘンリーは言っているのですね。若いうちは人生を修正できますが、年を重ねるとチャレンジは年々できなくなっていきます。特にファイターという人生を選択すると、その期間は全くもって短いわけですし。

ヘンリー そうでない人生だってある。そして、誰もが幸せを求めている。ただし人々がチケットを買って、試合を見たいと思われる場で戦うファイターは特別な存在だ。個人的な知り合いでもないのに、ファイトが視たいと思ってもらえていることは。つまりは、特別な人生を往くことになる。

そのためには、つつがない人生で得られる幸せを若いうちは、求めないで邁進するぐらいのエネルギーは必要だ。君という存在は、君でしかない。代わりを務める人がいるわけでなく、顔も知らない人々の期待を集めて生きるのであれば。そのために必要な環境を手にするよう生きるんだ。

ファイターは孤独だよ。チームの皆が支えている。でも、ケージのなかは1人だ。勝てば皆が喜んでくれるけど、負ければその事実を誰よりも深く受け止める。

試合前には凄まじいプレッシャーを感じる。ものすごく神経質になる。チームは支えてくれるけど、最終的には自分で乗り越えるしかない。もう無理だと思ったら、戦えない。こういうとアレだけど、私は練習では強かった。でも、プレッシャーに強い人間ではなかった。練習では負けないアーネストに、試合では勝てない。だからファイターでなく、トレーナーとして人生を歩んでいこうと決めた。

人々は最高の姿だけを求めて、チケットを買う。PPVを購入する。その期待に応えることができなくなると、身を引く。そして、戦っていた時間が本当に懐かしくてしょうがなくなる。それだけのことをやってきたのだから。そういう人生を歩むには、最初の決意が本当に重要になってくる。

日本で戦っていても、RIZINの選手なんてそのプレッシャーを常に感じているはずだ。皆が選手のことを知っているんだから。我々の頃はSNSがなかった。だから試合が終われば、人々の目やプレッシャーから解放される。でも今の選手は、試合が終わってもSNSで、興味本位な意見の標的になる。

タカヤは10代で、そのプレッシャーを経験している。そして、こっちの世界にジャンプインした。25歳になった時、彼はどれだけ成長していることか。そして、次の5年を考える。厳しい言い方をすると、今の日本で5年間やり切った時に次の5年が見えるのか。

──……。

ヘンリー そういうことなんだよ。20歳の若い選手が、UFCでチャンピオンになりたいというのであれば。どれだけ強い意志を持ち、才能があっても日本にいるのと米国で過ごす5年間は違うモノになる。

鈴木崇矢 ハイ。

──冗談でなく。フロリダでガールフレンドを見つけるべきですよ(笑)。

ヘンリー このルックスなら、好きにできるはずだ。それが私の若い頃との違いだ。アハハハハハ。私の娘も「あのボーイは誰?」って気にしているよ(笑)。

鈴木崇矢 いやいやいや、勘弁してください(苦笑)。

──そこも含めヘンリーの下で、鈴木崇矢選手がいかにキャリアを重ねていくのか、楽しみにしています(笑)。

ヘンリー とにかく正しいタイミングで、正しいファイトを戦わせる。と同時に英語をマスターする必要がある。この国では自分の意志を言葉にして、人々に伝えることができる方が良いからね。成功したいという強い気持ちもあるし、ファイターとして素質もある。戦うハートも持っている。だから、英語を話せるようになってほしい。

彼の同い年でメキシコからやってきたファイターがいる。パスポートを失効しながら練習しているダゲスタン人ファイターもいる。彼らはただ強くなるために、トレーニングをしている。実際、米国という国はそういう人間だらけだ。

いつ放り出されるかもしれない環境下で、強くなることだけ、生き残ることだけを考えるメンタルの強さを既に備えている。そんな連中が、いくらでもいるんだよ。米国人なら野球、フットボール、バスケットボールと多くの選択肢がある。でも彼らにはない。ファイトしかないんだ。

彼らの状況と比較すると、タカヤは恵まれている。その恵まれている状況をプラスにしなければならない。そういう連中と同じだけのメンタリティを備えないといけない。

鈴木崇矢 ハイ。とにかく英語は本当に勉強しないといけないと思っています。もっと意思の疎通ができるようにならないと。

ヘンリー 最初の頃より、ずっと良くなっているよ。

──全然完璧でなくて良いと思いますよ。「お前の英語は何を言っているかわからない」と言わると、多くの日本の人は委縮してしまうと思います。そんな時「お前の日本語より、俺の英語の方がずっとマシじゃ」って思えば(笑)。

ヘンリー その通りだ(笑)。妻は米国での生活が始まったころ、英語が下手だと気にしていた。これじゃ、誰からも相手にされないってね。「何を言っている。飛行機で20時間も離れた国から、一人で僕について来たんだ。この寒くて、ご飯が不味い国に。それだけでも尊敬されるべきなんだよ」って伝えたよ。彼女は今、完璧な英語を使いこなせるようになんて思っていない。でも、自分の言葉で自分を表現している。大体、キルクリフFCで完璧な英語を話す人間がどれだけいるか(笑)。

──確かに、そうですよね。

ヘンリー しかも英国からやってきた選手の英語の理解は、誰もが苦戦している。英語なのに(笑)。文法なんて、構わない。何も言葉だけじゃない。体を使って、自分の意志を伝えれば良いんだよ。

──ヘンリー、英会話のあり方まで話してもらって本当にありがとうございます。今日は本当に貴重な、そしてMMA界にいるなら心に刻むべき言葉をいくつもいただき感謝しています。

ヘンリー いつだって、大歓迎だよ。少しでもUFCを目指す日本のMMAファイターの役に立てるなら、嬉しい限りだよ。

──崇矢選手も、ヘンリーの下でどのような戦いを見せてもらえるのか期待しています。

鈴木崇矢 ハイ。ありがとうございます。凄く良い話を僕も聞くことができて良かったです。

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