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【Special】ヘンリー・フーフト&鈴木崇矢対談─02─「コンテンダーシリーズがベストとは思わない」

【写真】昨年春のABEMA海外武者修行の時のヘンリーと鈴木。既に良い空気感(C)TSP

キルクリフFC総帥ヘンリー・フーフトと鈴木崇矢の対談Part.02。話題は20歳、5勝1敗の鈴木のキャリアの積み方について──。
Text Manabu Takashima

世界トップのプロMMAファイター集団を率いるヘンリーの日本のMMA界の評価と、北米におけるUFCファイターへの道。禁断ではなく、UFCを目指すのであれば目を通すことが必須といえる──ヘンリー・フーフトの選手の人生を守る育成方法が明らかとなる。

<ヘンリー・フーフト&鈴木崇矢対談Part.01はコチラから>


──佐藤選手、木下選手がいることは心強いですか。

鈴木崇矢 ハイ。ただ、いない状況が分からないので。自分の想いとしては、すべて自分でやる。どのような状況でも、個人で乗り越える人間力のようなモノを海外で身に着けたいということもあったのですが……修行ですよね。でも天さんや憂朔さんがいてくれる状況は、絶対的に練習をする上で良いのだと思います。

ヘンリー 修行か(笑)。でも、自分と同じ言葉を話す仲間が周囲にいることは本当に助かっているはずだ。どれだけのパッションを持っていても、あるいは自信が備わっていてもハートが折れるときは必ずある。そんなとき、タカシは絶対的な力になってくれる。彼はあらゆる経験をした。フロリダに来てからお父さんを亡くし、お兄さんを亡くした。どれだけお母さんのことが心配か。

それでも、彼は常にポジティブな思考で戦い続けてきた。ファイターとしてどれだけ強いのか。そんなことよりも、人としてどれだけ強くあることができるのか。その方が、人生で大切だ。タカシはフロリダに来るまで日本でキャリアを積んできた。でも、今は共に人生を歩んでいるつもりでいる。

タカシは本当にデキた人間だから。タカヤはそんな人間が間近にいる。なにかあった時、自分の言葉で話せるんだ。同じ言葉を話すからこそ、悩みもより理解できる。ジムでは米国人は当然として、ロシア人やブラジル人、色々な国の違った文化や言葉を持つファイターがいる。誰も自分と同じ言葉を話さない集団のなかに1人ぽつんといる辛さは、私は30年も昔にタイで経験してきた。アカヤはそうじゃない。日本の皆と、同じところで住んでいることは絶対的にプラスになる。

ロシア人や米国人と考え方が、絶対に違うわけだし。迷ったときに、力になってくれるのは同じ国の人間だよ。タカシは試合で負けた。でも米国で正しい道を歩んできた。試合に負けて悩むことは、このスポーツの一部だ。私にもあったし、誰もが抱える問題だ。勝っていれば、人生は楽だよ。でも、勝ち続けることなんてない。そんな時にお手本となる人間が、近くにいることは絶対的にタカヤを良い方向に導いてくれるだろう。

──この若さと5勝1敗という戦績で、米国に拠点を移す。堀内佑馬選手に続く日本のMMA界でもレア・ケースです。そういうなかでキルクリフFC所属の鈴木崇矢選手が、米国でどのようなキャリアアップをしていくのか。非常に興味深いです。そもそも、UFCへのプロセスをどのように考えてフロリダに移ったのでしょうか。

鈴木崇矢 最初はLFAで2、3試合して2025年のコンテンダーシリーズで戦うことが目標でした。ただ、フロリダに住んで練習をするようになって「ちょっと、まだ早い」と肌で感じました。気持ちはそうしたい。それが最短ルートでUFCを目指すということになるので。

でも……こっちの5勝1敗とか6勝1敗の連中って皆、レスリングが当然にできてスペシャルな何を持っている。もうUFCが近いって奴らばかりで、「俺は、まだだ」って(苦笑)。どういう風に説明をすれば良いのか上手く言葉にできないのですが、もう僕の体と頭、気持ちが出した答えなんです。

そうしたら、ヘンリーにも同じことを言われました。まずはレスリング力をつけること。LFAで試合をするのは、まだ早いと。UFCのチャンピオンを育て、これだけの選手がいるジムのヘンリーが言うなら間違いないです。この5カ月で僕はヘンリーを信じています。ヘンリーと一緒に一つ一つ試合経験を積んでいくと1年半、2年後に安定したUFCへの道が見えてくるはず。なので、今は一つ一つ試合を勝っていく。そういう考えになりました。

ヘンリー これまで何をしてきたのか。米国の練習は、タカヤが日本でやってきたこととは違う。我々はハイレベルなファイターだけが集まり、1日2度の練習を日々繰り返している。既にUFCやBellatorで戦っている選手や、そこを目指しているファイターたち、経験豊かなファイターが揃っている。

タカヤは、そこでハイレベル・ファイターか同じレベルの選手とトレーニングをしているんだ。自分より下の選手はいないという状況だ。そうやって力をつけている状態にあるからこそ、キャリアアップに関しては真剣に考える必要がある。

そうしないとマネージャーはお金を手にするために、何の責任感もなく選手を戦わせようとする。いくらでも代わりはいるという考えだ。私はマネージャーでなく、トレーナーだ。ファイター、ファイターの家族、そしてジムに責任を持っている。勝つか負けるか、勝算50パーセントではケージに選手を送り込むことはできない。勝てる見込みが、もっと高くないと。

タカヤのレコードだけを見ると、米国でも良い試合機会は巡ってくる。ただし、私からすれば日本の5勝1敗は、米国では2勝1敗だ。それだけレベルが違う。だから最初の5カ月は、ゆっくりとタカヤの状態を見てきた。2025年は身の丈にあった試合を3、4試合させたい。彼は20歳だ。7勝1敗で21歳。凄く若いということはない。でも、経験は十分に積んでいる。キルクリフでハードな練習を日々、繰り返しているのだから。まずはコネクションがあるプロモーションで、彼が成長できるファイトを戦わせていきたい。

それでも米国にイージーファイトはない。そのなかでタカヤの可能性を伸ばす、彼が力をつけることができるような試合を戦わせたい。UFCの目に止まるファイターになるよう時にはストライカーと、別の機会にはグラップラー、レスラーと戦っていき、経験を積ませたい。

タカヤも言っているが、皆がコンテンダーシリーズに出てチャンスをつかもうとするが、それがベストとは私は考えていないんだ。

──えっ!! それはなぜですか。

ヘンリー タフな相手に、フィニッシュが絶対に必要。そのうえでダナ・ホワイトに気に入られる必要がある。そして手にする契約は、何も特別なモノじゃない。毎週4人、5人とサインするなかの1人だ。それならばLFAやCage Fury FCのベルトを狙わせる。LFAもCFFCもUFC Fight Passでの中継がある。コンテンダーシリーズのように、フィニッシュが絶対という条件はない。それでいて、ショートノーティス出場の候補になれる。

何もUFCと契約することが、ゴールではないはずだ。ただし、勝てないとリリースされる。すぐに契約が切られると、何も手元には残らない。それにコンテンダーシリーズで契約というルートは、安定した戦い方を忘れさせてしまう。

──鈴木選手は日本人なので、Road to UFCという選択もできますが。

ヘンリー タカヤはそうしたかったんだ。そのつもりで、最初はフロリダにやってきたんだよな。

鈴木崇矢 ハイ、そうです。でも出場できなかったです。

ヘンリー 私は良かったと思っている。米国のUFC Fight Passで試合がオンエアーされている大会で戦う方が、良いオプションだから。そこで印象に残れば米国のファンがSNSで発信する。あっという間に、皆に名前が広まるよ。

それと米国でキャリアを積む利点は、ここには市場があるということだ。スポンサーがつく。そういう場で戦える力をつけるために、その下のローカルショーで経験を積む必要がある。そこで実績を積めば、LFAやCFFCとサインをしてタイトルを狙うロースターになれる。それから4戦目でタイトル戦の機会を得たとして、まだタカヤは22歳か23歳だ。急がせない。急いで、早々に燃えつきた人間を多く見てきたからね。

──米国でUFCを目指すファイターたちを指導している身として、UFCファイターになるために日本のベルトは役に立つという見方はできますか。

ヘンリー 日本で日本人と戦って手にしたベルトは、UFCで勝つために役に立たない。必要なのは強くなるための経験だ。何も日本だけの話ではない。米国でも同じだ。そのベルトを取っても、どうなるというベルトだらけだ。UFCで勝つために、必要なレベルで試合をしているのか否か。その方が大切になってくる。

グラップラーと戦う。ストライカーと戦う。グラップリングで勝つ。打撃で勝つ。どのような戦いをしてきたのか。ベルトはUFCで戦える力があることを証明しているわけではない。

UFCで戦える力のある選手と、戦うことが重要だ。例えば元UFCファイターだとか。日本だと、海外で戦うことも手だろう。OKTAGONやヨーロッパで戦うことは、経験値をあげるに違いない。日本の若い選手が、ロシアのACAで行くのも悪くないだろう。イージーな相手に勝ってパーフェクトレコードを持っていても、10戦8勝2敗でその2つがロシアの強豪に喫したものなら、その方がずっと良い経験になっている。そしてUFCでやっていける可能性も上がる。UFCに行く前にタフファイトを経験しているからだ。そうでなく、ただベルトを持っていても意味はない。

実際、私はキックボクシングの世界チャンピオンだった。世界のベルトを持っていた。でも一体、どれだけの人間がキックボクシングでは世界王者になり、世界のベルトを手にしている?

同じ階級に10人の世界チャンピオンがいた。私がLFAとCFFCの名前を何度も挙げているのはマーケティングからの観点と、この2つのプロモーションでベルトを手にするということは、UFCで戦っていけるだけの力があることを示すことになるからだ。他の米国でのベルト、日本のベルトは……思い出に残る、ナイスな写真を撮るために巻けば良い。UFCで勝ち上がるためには、ベルトがなくてもしっかりと経験を積むことの方が大切だ。

鈴木崇矢 舐めているわけじゃないですけど、僕も日本のベルトはいらないです。

<この項、続く>

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