【Special】日本の現実を知る。ヘンリー・フーフト&鈴木崇矢対談─01─「20歳は、若いということはない」
【写真】すでに父と子のように見るヘンリーと鈴木崇矢。合理的なオランダ人でいて、タイでの生活えアジアのウェットさが分かるヘンリーは、日本人が北米で生き残るための欠かせない──抜群の感性を持っている(C)MMAPLANET
昨年12月中旬、東京と大阪で3度のセミナーを行ったキルクリフFC総帥ヘンリー・フーフト。東京でのセミナーを終えたヘンリーと、キルクリフFCに拠点を移しUFCを目指す鈴木崇矢に──これからのステップアップ方法を尋ねた。
Text Manabu Takashima
鈴木の育成方法を語るうえで、ヘンリーは日本のMMAの現実とUFCの現実を冷静に話してくれた。その言葉は、あまりにも冷酷に聞こえるほど日本のMMAに手厳しいものだった。ただし、そんな現実を目の当たりにしてフロリダで汗を流す20歳の若者がいる。
UFCを絶対の存在とするMMAであるならば、ヘンリーの言葉に耳を傾けるしかない。
──まず本題に移る前に2つ、時節柄に則した質問をさせてください。まずZFNでの佐藤天選手の敗北について、どのような印象を持ちましたか。
鈴木崇矢 そうですね……今の判定基準では、相手についてもしょうがないかとは思います。ただ要所で展開を創ろうとしていたのは天さんだから、天さんが勝ったという意見があるのも分かります。テイクダウンからの明確なダメージが取れなかった分、ジャッシの評価が相手に傾いた。シンプルにそう思いました。
ヘンリー 接戦だった。タカシも私も一致しているのは、フィニッシュしないとジャッジはどう判断するか戦っている側ははコントロールできないということ。勝つ可能性はあっても、相手に持って行かれる可能性もある。タカシは打撃では劣勢だった。ただテイクダウンをした。打撃で劣勢なら、組みに行くのは当然だ。そこからタカヤが言ったように、ダメージを与えるかサブミットしなければならない。
ジャッジが試合を止めて、試合をスタンドに戻したことからもそれは分かる。と同時に、対戦相手がスタンドで何をしたということでもない。ただ立ち上がって、数発ほどクリーンヒットがあっただけだ。3Rにテイクダウンをし、ダメージを与えていればタカシは勝っていた。
多くの人が、タカシが勝っていたと言ってくれた。でも、意味はないんだよ。「勝っていた」では。勝たないと。タカシは長いブランクがあった。色々と個人的な悩みもあって、あの場に立っていたんだから。
──ジャッジの裁定基準は変わりました。そして以前から存在するダメージ重視……ただ佐藤選手にもダメージはなかったです。打撃の攻勢点はダメージ、組みはそうでないというのはどうなのかとは感じます。ヘンリーが言ったように打撃の局面で居心地が悪いなら、組みに行けば良い。それがMMAかと。あの夜、打撃で不利なのに打撃で戦い続け、KO負けする。そんな試合もありました。
ヘンリー そうなんだ。それで負けていれば、キックボクシングだ。あの試合はボクシングか、キックボクシングのジャッジがスコアをつけていたのかな? とにかくMMAは選択肢が多い、その選択を間違えずに戦うべきだ。そして君が言ったようにパンチが当たっても、別にダメージはなかった。
私がジャッジなら、そういう見方はできる。ただ、もう過ぎたことだ。裁定は変わらない。それなら、この経験を生かして前を向くしかない。タカシの身にこれまで何があったか。誰も知らない。でも、私は知っている。あんなに不運が重なって、でも彼は常に前を向いている。ならば、私もタカシと前を向いて進む。
タカシにはそれだけの力がある。タカシはUFCで勝てなかった。2勝5敗だ。そのうちの1人はベラル・モハメッド、今の世界王者だ。グンナー・ネルソン、とてもタフな相手だ。彼がどういう相手と戦って来たのか。イージーファイトは一つもなかった。そのかで、KO勝ちもしている。そんなこと言うのはおかしいと指摘する人間もいるかもしれないが、ファイターには運も必要なんだ。そしてタカシはことごとく不運に見舞われてきた。私にとってタカシは欠かせない人間だ。これからもタカシと戦っていく。
──ヘンリーは本当に選手を想う気持ちが強いですね。もう一つ、世界最高峰のUFCに初戦でタイトル戦を朝倉海選手が戦い、敗れたことを同じ場所を目指す鈴木選手はどのように思っていましたか。
鈴木崇矢 正直、どうでも良いです。朝倉海選手がやってきたこと、どれだけ実績を残してきたのかは理解しています。PPV大会のメインで戦うこと。そして世界戦だったこと、それは朝倉選手が持っているということ。ただ、取り切れなかった。それは実力が足りていなかったから。そして、パントージャが強かった。それだけです。なぜUFCでキャリアを積んでいないのにベルトに挑戦できるんだとかは、全く思っていない。
僕は自分がUFC世界チャンピオンになるためにやっていて。あの試合を見て、多くのことを学ばせてもらったという感想しかないです。ただ、やるだけなんです。
ヘンリー UFCが他の組織から、新しいファイターを投入して何か毛色の違ったことを試みたのは良いことだと思う。ただUFCはレベルが違う。過去14年間、そこを見て指導してきた。RIZINだけじゃない。他のプロモーションのチャンピオンでも、UFCのトップ10になるのは大変だという認識は必要だ。その事実を認めないと。
カイ・アサクラのRIZINでのパフォーマンスを見ると、彼がUFCのトップ10とやり合える力の持ち主で、その可能性があることは明らかだ。そして、ベルトを手にすることも。ただし、パントージャとの力量の差は大きかった。それは経験の違いといえるだろう。それでも日本のファイターが、段階を飛び越えて世の常識を打ち破ろうとしたことは素晴らしいよ。
ただUFCは他のどこのプロモーションとも違う。Bellator もPFLも良い大会だ。RIZINは常に素晴らしいショーをしている。見ていて、本当に楽しい。でもUFCのチャンピオンは別モノなんだ。
ただし、いつの日か──タカヤは、あの場に立つよ。
鈴木崇矢 Yes !!
──ところで鈴木選手がフロリダに行って、どれぐらいになりますか。
鈴木崇矢 5カ月ですね。
ヘンリー 毎日跳ねまくって、ハッピーマンだよ。常に大声で自分の名前を叫んでいて、最初は「誰だ? この日本人は?」って感じだったファイターたちも、すぐに名前と顔を覚えた(笑)。もちろん、それだけでなく優れた才能の持ち主だ。前回のセミナーで彼の動きを見て、キルクリフに来ないかと思っていたんだ。
とにかく一生懸命に練習をしていて、ポジティブなエネルギーを発散させている。それでいて、まだまだ若い。だから、急いでいない。タカシとユーサク(木下憂朔)がいてくれるから、その若さが間違った方向に向くこともない。米国でも試合の機会はあったけど、正しい方向で育てていきたい。
タカヤは日本で5勝1敗だ。でも、米国で戦ったレコードじゃない。日本と米国は違う。ゆっくりと一歩一歩、ステップアップする必要がある。実際、最初のころはジムのロシア人たちのラフなトレーニングでボコボコにされていた。でも5カ月で、かなりの成長を見せている。
米国の実情でいえば20歳のMMAファイターは、めちゃくちゃ若いということはない。それにタカヤにはレスリングのバックグラウンドがない。米国のファイターは7歳の時からハイスクールまで、レスリングをやってきたような連中ばかりだ。
タカヤの打撃は相当なもので、何より目が良い。動きも速い。そして、行かないといけないときに行ける。キルクリフでは、それができないと生き残れない。ただしMMAだけでなく、レスリングも同時に強化しないといけない。二倍の練習量が必要だ。それでもたった1人で日本からやってきたタカシとは違う。既に日本人ファイターがいて、タカシの人間性があって皆、タカヤのことを可愛がっている。2025年は堅実に正しいステップアップをさせたい。
<この項、続く>