この星の格闘技を追いかける

【ONE FF116】イ・スンチョル戦へ、箕輪ひろば「相手の土俵で戦っても勝てる。それが箕輪の土俵」

【写真】回転させるのではなく、結果として回転。削って勝つでなく、完全決着を狙った結果の削り。箕輪ひろばが変わった (C)MMAPLANET

18日(金・現地時間)にタイはバンコクのルンピニースタジアムで開催されるONE FF116で、箕輪ひろばがイ・スンチョルと戦う。
text by Manabu Takashima

昨年は9月と10月と2度に渡りサンジャル・ザキロフ戦が流れたことで、今回の試合は1年振りの実戦となる箕輪。この間、ユニファイドのフライ級で戦うことも考えた時期があったという彼が、ONEストロー級に留まる判断をした理由とは。

加えてこの間にパーツ・パーツを回転させて勝つMMAを標榜していた箕輪の意識に、とある変化が起こった。その変化は、今回のイ・スンチョル戦が箕輪ひろば第2章のスタートといえるほど大きな違いを彼にもたらすことになりそうだ。


僕は有名でなくても強くなくても良いから、一度世界チャンピオンになりたい

――1年振りの試合が近づいてきました(※取材は8日に行われた)。サンジャル・ザキロフとの試合が現地での負傷で流れて以降、色々と悩みがあったと伺っています。

「ザキロフ戦は僕自身はやりたかったです。最初の試合は向うがビザが取れなくて流れていたので。で、去年の10月に組まれ直したので」

――10月の出来事は契約上の守秘義務があるかと思いますし、話せる範囲で結構ですので。

「スミマセン。まぁ、こっちに過失があるわけでない状況でケガをした。それでも僕自身はどうなろうが試合をしたかったです。でもジムの代表から、その状態で戦うべきでないと話があって。今となってはやらなくて良かったと思います。ただ、2試合連続で試合が流れて、試合がしたいという声もなかなか届かなかったので色々と考えましたね。

正直、生活のこともありますしね。契約に関しても継続するか、そこも考えました。ぶっちゃけて1階級上げて戦うことも視野にいれた時期もあったので」

――それはONEフライ級、61.2キロで戦うということですか。

「いえ、ユニファイドのフライ級ですね。56キロで。自分の動きで判断すると、減量を少なくして1階級上で戦うのは問題ないです。実際、ONEストロー級がそういうわけで。本来は水抜き禁止だし、僕は馬鹿正直にそれを守ってONEでは戦ってきたから過剰に体を大きくする必要はないと考えてきました。

でも、ユニファイドのフライ級になると相手が絶対的に大きくなります。だからそうは言っていられないなとなって、通常体重を重くして筋量を増やすようになりました。実際に体もデカくなって、普段の体重が2キロほど重くなっています」

――そこまで真剣に考えていたのですね。結果としてONEのストロー級で戦うことになったのは?

「逃げたと思われたくないからです。それと……有名になりたいとか世界最強になりたいとか、MMAをやる理由は色々あると思うんですけど、僕は有名でなくても強くなくても良いから、一度世界チャンピオンになりたいんですよ」

――……。

「そりゃあ最強が一番良いですよ。じゃあチャンピオン・ベルトを巻いていなくて、何が最強なんですかって。世界って、つまりはUFCじゃないですか。でもストロー級はONEだと思っているので。形としてONEの世界を獲りたいです。『UFCにない階級の世界のベルトなんて、認めねぇよ』って言われると、それまでなんですけど(笑)」

――そんなことをいう人はいないと思いますし、例えいてもスルーをしておけば良いかと。

「ハハハハ。ただし、このままONEのストロー級で契約を全うするにも、自分のためにも試合機会を増やしたかった。でも今のONEはファイトナイトだけでは、試合数を担保してもらえない。だからフライデーファイツでも戦うことにしました」

――体を大きくして、ONEのストローでは減量にはより注意が必要になってくるのではないですか。

「今回は辛かったです。通常体重が63キロなのを1度、思い切り水をため込むような調整をして68キロまで上げたので」

――えぇ、それから56キロまで落とすのですか!!

「あの時はパンパンでした。そこから63キロに落ち着かせて……ここからですね、これまでよりも落ちなかったのは。60キロを割るまでがきつかったです。でもファイトウィークが近づいてくると、59キロとか60キロを切るぐらいには落ちています。ハイドレーションがあるので、デカくしたところをどこまで残せるのか。それはユニファイドとは違ってくるはずです」

――なるほどです。では今回の相手、イ・スンチョルの印象を教えてください。

「まず山上(幹臣)さんがGLADIATORで復帰して、フライ級で戦ったじゃないですか。あの時、高島さんが『グラジにいる韓国人選手で凄く強いファイターがいる』と話していて。それで覚えていました」

――……。それはきっとイ・スンチョルでなく、チェ・ドンフンのことかと。去年の春ごろのグラジではチェ・ドンフンとオトゴンバートル・ホルドバートルが図抜けて。可能性が感じられる選手だったので。

「えぇ、そうだったのですか……」

――ただイ・スンチョルも良い選手であることは間違いないです。同時に彼は本来ストロー級で、フライ級では本領発揮できないという認識でもいました。

「なら、丁度良い体重で今は戦っているということですよね。実際、めちゃくちゃ良い選手だと思います。万能で」

回転して勝つって言ってきたけど……潤滑させるって一つ、一つの強さがないと

――ハイ。そして箕輪選手と噛み合う相手かと。

「噛み合うっていうか、交錯する。良い選手だし、強いと思う。今回の試合結果がどうなろうが、今後も活躍していく選手だと思います。ボクシング、長い距離の打撃が得意だけど、打ち合いもできる根性の据わった選手です。スクランブルも上手で、きちっと仕留めにいく。スタミナもあって、決して流さない」

――本当に評価が高いですね!!

「強いですからね。でも、僕が勝ちます」

――万能で強いと認める相手と、どのように戦いたいと思っていますか。

「ストレート一発の精度、テイクダウンを切る巧さというと、それぞれでどっちが上かということはあると思います。でもMMAってそういうことじゃない。MMAとして、色々なことがあるなかでストレートが上手いのか。単純にボクサーとしてストレートが上手いのか。それって話は別ですよね。

だからグラウンドに持ち込むのか。打ち合いのなかでストレートを警戒するということもあると思います。そういう風にMMAとして立ち振る舞っていたいです」

――それは、これまでも言っていたことですね。

「いや、それが一つ違いがあって。MMAとして強くなるには独立した一つ、一つを強くしないといけない。MMAだけをずっとやるのではなく、そこの強化もやってきました。吉永力先生とグラップリング、大学生を呼んでレスリング。こないだスーパーバンタム級で日本チャンピオンになった石井渡士也とのボクシングも、週一だったのを二、三回に増やして。

各々のパーツを大きくして、それを潤滑させる。潤滑ばかり意識していても、個々のパーツが小さいと回転させても、小さな円にしかならない。10年以上やって、気づいたッス。

ボカン・マスンヤネやグスタボ・バラルトのレスリングのような一つ大きなモノがある相手に、回転して勝つって言ってきたけど……潤滑させるって一つ、一つの強さがないといけないって」

回転もパーツも意識しないからこそ、回っても一つの場面でも戦える。そういう試合にしたい

――回転させるのが目的でなく、結果的に回転していれば。何より回転しなくても勝てるほうが良いとは思ってきました。

「それも分かっているつもりだったんです。でも、本当に分かるだけでなく落とし込めた。1年間、試合をしないことでここが変わりました。俯瞰してMMAを見ることができるようになりました。

一つが強い人間に対して、別角度から僕は戦っていました。でも、そこと勝負して良いんじゃないかと。相手の強いところから、逃げない。長い距離が強いから打撃をしないとか、スクランブルが強いから抑え込んでいるとかではなくて。相手の土俵で戦っても勝てる。それが箕輪の土俵だと思っています。

同時に何でもやるってやっぱり簡単じゃなくて。ウチは内装屋なんですけどトータルリフォーム屋は水道屋や電気屋には勝てない。トータルリフォーム屋は、あくまでもトータルなんです。

俺はずっとトータルリフォームがあれば世の中回るじゃんって思っていたけど、水道屋は水道屋として残っていて。電気屋は電気屋として残っている。ガス屋はガス屋として残っているじゃないですか。何でだろうって、ずっと思っていたんですよ。でも、やっぱり太刀打ちできない。それが職人で。そういうことはアスリートにも当てはまるなと」

――逆に打・倒・極の回転という理念がなく、ウェルラウンディットでMMAを戦う外国人選手は、今回の相手であるイ・スンチョルも含めて個々の強化をして、つないできたと思います。結果的に回しているかと。そういう相手にどのように戦おうと思っていますか。

「今回は2パターンあります。より大きく、より速い回転で勝つ。これまでの箕輪の強化バージョンで勝つパターンですね。もう1つは回転させない、一つのデカいパーツの勝負になっても勝つ。それがデキるんじゃないかと思っています。加えてそういうことを意識せずに戦う。一つのパーツで戦うにしても、サークルの一部として戦えればと思っています。

打撃で勝負します――ではなく。漬けますってことでもない。全部のパーツをでっかく回して勝負できるから、一つ一つの場面でも勝負して勝てる。回転もパーツも意識しないからこそ、回っても一つの場面でも戦える。そういう試合にしたいですね」

――本当にイ・スンチョル戦が楽しみになってきました。回るけど、回すことを意識しないという話が聞けて。

「本当ですか(笑)。それを試すのに良い相手です」

――ところで11月には日本大会があります。

「日本大会は日本人として、出たいです。でも、今回の試合が査定だとは思わないで戦います。ONEから提示されたこの試合、ONEの期待に応えることで自ずと日本大会で試合をすることになる。それが世界戦になるのかも、全てはこの試合に掛かっています。

勝ってもグダグダなら、これまで通り。負ければ日本大会はない。完全決着デキるなら、日本大会で世界戦という目もある。ただ、僕は『目先の勝負にこだわるな』ということを言われてきて。アマチュアの時に『今やっても勝てないから出ません』という人がままいるなかで、『プロで勝つために、このタイミングで負けても良いから試合に出なさい』と代表から言われました。アマ修斗はそういうためにあるので。

でもプロになると、そうじゃない。将来のために負けても良いなんて言っていられなくなりました」

――その通りですね。

「でも、今はそれも違うんじゃないかと思うようになったんです。やっぱり最高の勝ち方、完全決着を狙うからしっかりと判定でも勝てる。これまでは最初から3R使って削って勝つなんていう意識だったから、向うの攻撃も受けてグダグダになっていた。

今回はきちっと完全結果を狙い、結果として判定にもつれこんだとしても良い試合だったと思ってもらえる試合をする。それを考えています」

■放送予定
7月18日(金・日本時間)
午後9時15 分~U-NEXT

■ONE FF116対戦カード

<ムエタイ112ポンド/3分3R>
アダム・ソー・ディチャパーン(マレーシア)
ナヒヤン・モハメッド(フランス)

<ムエタイ142ポンド/3分3R>
アンタル・カセム(ベラルーシ)
パンリット・ルーチャイオーマンサイワリー(タイ)

<ムエタイ130ポンド/3分3R>
トムヤンクン・パーコーポーンスリム(タイ)
ワチャラポン・シンマウィン(タイ)

<ムエタイ・アトム級/3分3R>
コーコー・モー・ラタナバンディット(タイ)
ティーアイ・PK・センチャイ(タイ)

<ムエタイ130ポンド/3分3R>
パンモルコル・CMAアカデミー(タイ)
シリチョーク・ソー・ポンニャモーン(ライ)

<ムエタイ122ポンド/3分3R>
ヨッドキティ・フェエット・パトゥム(タイ)
パモーイーデン・コー・カムヌアイチャイ(タイ)

<ムエタイ138ポンド契約/3分3R>
スーパーボール・ワンホンコーンMBK(タイ)
イブラヒム・アブドゥルミエジドフ(ロシア)

<ムエタイ117ポンド契約/3分3R>
谷津晴(日本)
イザック・モハメッド(フランス)

<キック・バンタム級/3分3R>
与座優貴(日本)
ペッタノン・ペットフォーガス(タイ)

<ストロー級(※56.7キロ)/5分3R>
和田竜光(日本)
アバスベク・ホルミルザエフ(ウズベキスタン)

<女子アトム級(※52.2キロ)/5分3R>
三浦彩佳(日本)
ジュリアナ・オタロラ(コロンビア)

<ストロー級(※56.7キロ)/5分3R>
箕輪ひろば(日本)
イ・スンチョル(韓国)

PR
PR

関連記事

Movie