【ONE FN27】モン・ボー戦前、澤田千優に訊くMMAと重心「アトム級で一番MMAを体現しているのは私」
【写真】愛犬ゾーイ(オス/4歳)を従えてダブルピース(C)SHOJIRO KAMEIKE
11日(土・現地時間)、タイはバンコクのルンピニースタジアムで開催されるONE FN27で、澤田千優がモン・ボーと対戦する。
Text by Shojiro Kameike
プロデビュー以来無敗の澤田はONE参戦後も3連勝を収め、現在ONE女子アトム級ランキングで3位に。ベルト挑戦も近いポジションを得たなか、今回はモン・ボーと対戦する。同じ大会では王者スタンプの負傷による戦線離脱を踏まえ、2位デニス・ザンボアンガと4位アリョーナ・ラソヒーナによる暫定王座決定戦も組まれている。澤田がモン・ボーを下せば、3月に予定されている日本大会でベルト挑戦もあるのか――そんな澤田に、前回のノエル・グホンジョン戦で見せた変化と進化について訊いた。
試合のオファーはありました。6月のタイトルマッチで
――澤田選手のインタビューは前回の試合から7カ月振りとなります(取材は2024年内に行われた)。これだけの期間、試合がなかった理由は何かあるのでしょうか。
「もう言っていいことだとは思うんですけど――実はグホンジョン戦のあとに試合のオファーはありました。ただ、それが6月のタイトルマッチで」
――えぇっ!?
「オファーを頂いたのが大会の2週間前でした。チームで相談し、その試合間隔ではタイトルマッチの5分5Rで勝つための準備をするのは難しいと判断したんです。だから『次のオファーを待っています』とお答えして。すると試合間隔が空いてしまったのですが、私も一度オファーを断った手前、自分の都合ばかりを言うことはできなかったです。だけど私も年内にもう1試合したくて、ONEにアプローチしたところ『1月の大会でよければ』というお話をいただきました。結果的に試合間隔は空きましたけど、1月に試合が決まってよかったです」
――なるほど。もともと2024年6月のONE167で、スタンプ×ザンボアンガの女子アトム級タイトルマッチが予定されていました。しかしスタンプが半月板断裂のため負傷欠場に。結果、その1カ月前に澤田選手に敗れているグホンジョンが、ザンボアンガとのノンタイトル戦に臨んでします。澤田選手がザンボアンガとの暫定王座決定戦に出場していた可能性もあったわけですね。では5月のグホンジョン戦について、感想を聞かせてください。
「一戦一戦、ちゃんと考えていかないといけない。それはもちろんですけど、特にこの試合は落とせなかったです。だから全ラウンド、圧倒できたことは私にとって良い経験になりました。最後にストップしてくれなかったことも含めて(苦笑)」
――アハハハ。最後はバックマウント、さらにマウントからパンチを落とし続けてグホンジョンも動きが止まりましたが、レフェリーストップまでには至りませんでした。
「それも私が未熟だったためだと思っています。その悔しさをバネに、次は絶対に仕留めるぞっていう気持ちを体現していきたいですね」
――グホンジョン戦で気になった点が2つ、まず体つきが変わりました。
「体が大きくなったね、ってよく言われます。特に筋トレを増やしたわけではなく、いつもどおりなんですけど。でも追い込みも含めて、試合に向けて疲弊しすぎないよう練習メニューを考えました。それで必然的に体つきも変わってきたのかもしれないです」
――そうですね。ただ体が大きくなっただけではなく、今の動きに必要な肉体に近づいてきたのかと思います。気になった点はもう1つ。「今の動き」に繋がることかと思いますが、重心が変わりましたか。
「重心? そうですね。打撃やミットのおかげで変わってきたのかなって思います」
――これまでより重心が低く、スタンスも広い。結果として左右に回りやすいし、レスリングの重心で打撃を出すことができ、そのままの重心でテイクダウンに行くことができる。
「はい。練習でも常々言われていることではあるんです。腰が浮いてしまうと、どうしても打撃の効果が薄れてしまいますよね。良太郎さんや松嶋こよみさんは、私のバックボーンや普段の練習も理解してくれているので、『もっとこうしたほうが良い』と修正を加えてくれていました。それが『テイクダウンに行くための打撃』と『MMAのためのレスリング』をミックスする形に繋がっていると思います。
特にグホンジョンはパンチが強くて、思いっきり打ってくるタイプです。いかに相手のパンチをもらわず、自分の良い攻撃を出してテイクダウンできるかどうかが課題でした。だから、いつもより重心を落として――『腰を落として』という表現になります。腰を落とすことで、相手によって自分の打撃やテイクダウンが見えない位置を取ることができる。さらに相手の弱いところ、外側を動けるようにしていました。近づきすぎず、でも遠くなりすぎず、ということは意識していましたね」
――おかげで相手の打撃に対するカウンターでしっかり組むことができ、テイクダウン後のコントロールも安定していたように見えます。
「確かにそうですね。レスリングではローシングルって、あんなにうまくは決まらないんですよ。相手も前傾姿勢で構えているので。だけど打撃があるMMAだからこそ、ローシングルで入ることができる。それはしっかりレスリングの練習をやってきたおかげで。MMAの練習のほかに、レスリングは日体大へ出稽古に行かせてもらっています。そこで練習したことを忘れず、試合で出せたんじゃないかと思います」
――重心の話でいえば、剛毅會空手で学んだことは意識していますか。
「意識していなくても、私の中で必然的に空手とレスリングがリンクするところがあるんですよね。自分のバックボーンであるレスリングを生かすための打撃や距離とか。やっぱり一番重心が乗っている時に技を出した時が、一番強いということとか」
逃がさない、漬ける――やることを徹底すれば、間違いない
――レスリングのバックボーンがあるからこそ、MMAレスリングもできるということですね。
「私のバックボーンや強みはやっぱりレスリングなので、そこは伸ばしていかなきゃいけない。同時に、貯金でMMAをやってはいけないと思っています」
――日本国内の戦いでは、レスリング時代の貯金で勝ててしまう面も大きいですか。
「そうですね。国内だと……それこそ力やフィジカルが強ければ勝てちゃう時もありますからね」
――一方で澤田選手の中では、自身のレスリングをMMAに落とし込めている実感があったのでしょうか。
「自分だけでは、自信を持つことはできないです。そんな私に自信をつけてくれる練習がありました。打撃からレスリングに繋げる、練習でやったことを出せれば試合も大丈夫というところまで、繰り返し繰り返し練習して」
――重心が変わったおかげか、グラウンドコントロールも安定感が増したのではないですか。体が強いグホンジョンをコントロールし続ける。殴る、ヒジ、嫌がらせ、さらにパスガードを同時進行で繰り返していて。
「そうなんです。寝技だけの練習というわけではなく、たとえばグラウンドのコントロールは練習でも試合中でも、松嶋こよみさんから指示してもらったりとか。セコンドの声を聞きつつ、今は何をすれば良いのか――それは練習の時から日常的にやっていることで。いざ試合になっても自分は動きつつ、相手を見ながら指示された動きをスムーズに出せる。グホンジョン戦は、とにかく一度こかしたら絶対に相手を立たせない、というイメージで削り続けました」
――ランキングの話に戻すと、現在はONE女子アトム級3位です。
「ONEではFriday Fightsを入れても、まだ3戦しかしていないです。それなのにランキングに入れてもらって、さらに暫定王座戦のお話を頂けるというのは――ベルトに手が届く位置にいるんだなって再確認できました。これからどんどん自分からもアピールしていかないといけないですね」
――女子アトム級5位には三浦彩佳選手がいますが、三浦選手のことは意識しますか。
「もともと上の階級の選手で、アトム級に転向してランキングに入ってくるというのは――日本人選手にとってアトム級は、ちょうど良い階級なのかなって思いますよね」
――澤田選手はONE参戦にあたり、階級を上げて戦っています。一方で今後はONEストロー級からアトム級に落とす選手と対戦することもあるでしょう。
「みんなフレームは大きいけど、言えば同じ階級ですからね。そこは特に考えていません。次戦うモン・ボー選手も身長は160センチでも、同じ体重で試合をします。フレームは違っていても、中に詰まっているものは負けていない。今の女子アトム級のランキングを見ても、一番MMAを体現しているのは私だと思っています.
モン・ボー選手はストライカーで、強い一発を持っている。そこは気をつけないといけないですね。自分は打撃をもらっても前に出るというスタイルではあるけど、油断しちゃいけないですね。自分のMMAスタイルを生かすためには、5分3Rずっと動き続けて、相手の心を折るぐらい削っていきたいです。逃がさない、漬ける――やることを徹底すれば、間違いないかなと思っています」
――同じ大会で女子アトム級の暫定王座決定戦が組まれ、さらに3月には日本大会が予定されています。もし日本大会で、新しい暫定王者とのタイトルマッチが組まれたら……。
「……(両手でサムアップ)」
■放送予定
1月11日(土・日本時間)
午前9時45分~U-NEXT
■ONE FN27対戦カード
<ONE世界フェザー級(※70.3キロ)選手権試合/5分5R>
[王者]タン・カイ(中国)
[挑戦者] アクバル・アブデュラエフ(キルギス)
<ONE世界女子アトム級(※52.2キロ)暫定王者決定戦/5分5R>
デニス・ザンボアンガ(フィリピン)
アリョーナ・ラソヒーナ(ウクライナ)
<ムエタイ・フェザー級/3分3R>
ルーク・リッシ(米国)
コディ・ジェロム(カナダ)
<ムエタイ・バンタム級/3分3R>
ランボーレック・チョーアッジャラブーン(タイ)
パルハム・ゲイラティ(イラン)
<サブミッショングラップリング・180ポンド契約/10分1R>
トミー・ランガカー(ノルウェー)
ダンテ・リオン(カナダ)
<ムエタイ・バンタム級/3分3R>
クラップダム・ソー・チョー・ピャッウータイ(タイ)
ジョン・リネケル(ブラジル)
<ストロー級(※56.7キロ)/5分3R>
和田竜光(日本)
サンザール・ザキロフ(ウクライナ)
<フェザー級(※70.3キロ)/5分3R>
アーロン・カナルテ(エクアドル)
エンフオルギル・バートルフー(モンゴル)
<女子アトム級(※52.2キロ)/5分3R>
澤田千優(日本)
モン・ボー(中国)
<ムエタイ・バンタム級/3分3R>
スーブラック・トー・プラン49(タイ)
ドミトリー・コフトゥン(ロシア)