【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番：12月 パントージャ×朝倉「世界規模でファンとアンチを巻き込む」
【写真】朝倉海というファイターにしかできなかった挑戦。次戦でどんな相手が用意されるか？(C)Zuffa/UFC
過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura
大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣偉弥氏が選んだ2024年12月の一番──12月7日に行われたUFC310のアレッシャンドリ・パントージャ×朝倉海、日本の朝倉がUFCのタイトルに挑んだ一戦を語らおう。
――12月の一番はアレッシャンドリ・パントージャ×朝倉海をセレクトしていただきました。色んな方がこの試合についてコメントしていますが、ぜひ水垣さんの見解もお聞かせください。
「一本負けという結果でしたが、朝倉選手がやることはやった上での敗戦だったかなと思います。1Rにテイクダウンされたところからは立ち上がることが出来て、2Rにスタンドでバックを取られた場面、あそこでスタンドに戻せるかどうかがキーポイントだったと思うんです。結果的にあの攻防一発で勝負が決まってしまいましたよね。
朝倉選手は相手に打撃で恐怖を感じさせる・警戒させていると強さが出ると思うんですよ。相手が中に入りたくない状況を作って、そこで自分から攻めるみたいな。でもパントージャは自信を持って打撃をやるからどんどん中に入ってくる。朝倉選手としては組まれたくないところもあって、パントージャに下がらせられる展開が続いて、それで上手くいかなかったのかなと思います」
――朝倉選手は飛びヒザ蹴り・テンカオを狙っていたと思いますが、クリーンヒットしたのは1R中盤の左のテンカオくらいだったかもしれません。
「あれはタイミングが良かったし、最初の飛びヒザ蹴りもタイミング的には紙一重だったと思います。ただパントージャはネジが外れているというか、全く朝倉選手の打撃を恐れないんですよね。むしろ自分の打撃に自信があるからガンガンいっていました。もちろんパントージャ陣営が朝倉選手のことを警戒して研究と対策を練っていたからこそ、あそこまでいけた部分もあると思います」
――先ほど勝負を分けた場面として挙げてもらったスタンドバックの攻防について。今のMMAではガードポジションでトップキープされるよりも、背中を見せて立ち上がった方がいいという判断をすることが多いです。しかしパントージャのようにバックコントロールが強い相手に対してはリスクが大きい。水垣さんはそこのバランスはどう考えていますか。
「僕はスタンドでバックをとられるのはしょうがないかなと思います。テイクダウンされて下になる時間が長いと、結局順を追って（寝技を）作られてしまうので。それだったら背中を見せてもいいから立つ方が大事かなと思います。ただ2Rにスタンドバックを取られたとき、朝倉選手が対処するまでに間があったんですよね。もし打撃で手応えがあったらすぐに対処してスタンドに戻そうとしたと思うんです。でもあの場面で一息ついてしまった。
これも結果論になってしまいますが、もしかしたらスタンドの攻防に戻るよりも、あそこで一息つきたいと思ったかもしれない。それもフィニッシュに持っていかれた一つの要因だったかもしれません。特にお互い汗もかく前の時間でしたし、パントージャのような一流の柔術家はああいうチャンスは絶対に逃さないですよね。僕もあれから何度か試合を見返したのですが、パントージャはパンチも当てていたし、やはり差はあったのかなと思います」
――さて気になるのは今後の朝倉選手がどんな相手と試合をしていくかです。
「僕は朝倉選手の人気のスタンスとしてファンとアンチがいて、その2つを巻き込んで、試合で結果を出して価値を上げるスタンスだと思うんですね。今回はUFCデビュー戦でいきなりUFCのタイトルに挑戦するということで、日本だけでなく世界的にアンチを作ったと思うんですよ」
――ケージサイドにいたブランドン・ロイバルも試合直後に「レベルが違う」と発言していました。
「現役ファイターのロイバルがああいう発言をするということは、ロイバルのファンも朝倉選手に対しては否定的だと思うんですよ。でもそうやって世界規模でファンとアンチを巻き込む図式を作ったのはすごいと思います。朝倉選手が日本でやってきたことを全世界に広げたわけなので。だからこそ僕は次の試合が本当に大事だと思っていて、ここで勝てば一気に評価が上がるだろうし、負ければさらに評価が落ちてしまう。もちろん朝倉選手は絶対に勝ちたいと思っているでしょうし、その朝倉選手にUFCがどんな相手を用意して、最終的に誰と戦うのか。そこが非常に重要になると思います。
あと僕が驚きだったのが、試合前のコールで朝倉選手がRIZINチャンピオンとして紹介されたことなんです。通常UFCが他団体のタイトルを紹介するときはUFCが買収した団体だけなんです。WECだったり、Strikeforceだったり。でも今回はRIZINのタイトルが紹介されていて、どういうやりとりがあったかは分かりませんが榊󠄀原（信行）さんの力がすごいなと思いましたし、それができたのも朝倉選手がRIZINにいたからだと思います」
