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【Special】『MMAで世界を目指す』第7回:鈴木陽一ALIVE代表「体組成とMMAのスポーツ化」─01─

【写真】ALIVEクラス終了後ーー遂に体組成計がそのベールを脱ぐ!(C)SHOJIRO KAMEIKE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。この連載では「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく。
Text by Shojiro Kameike

5カ月の休養期間を経ての連載第7回目は、これまで何度も取り上げてきた「体組成」の測定について紹介したい。今回は理学療法士の所澄人氏が体成分分析装置『InBody(インボディ)』でALIVE所属選手の体組成を測定し、体づくりについて指導する現場に伺った。ここではALIVE鈴木社長と所氏に、体組成を測定する意義について訊いた。


鈴木 今回は『インボディ』という機器で、成長期にある選手の体組成を測ります。インボディというのは簡単に言うと業務用の体組成計で、体組成を測ることで選手にとって適正な階級を調べるために行います。そのために今回は、2度目の登場となる理学療法士の所澄人君に来てもらいました。

 よろしくお願いします。

――よろしくお願いします。この連載では以前から体組成について説明してきましたが、今回は実際の測定風景をご紹介することとなりました。

鈴木 インボディでは、左右の手足の筋肉量の差を測ることができます。その結果から、体の問題の原因を考えることができる。所君には選手の動きも見てもらい、理学療法士の視点から「こういった怪我をする可能性がある」とチェックしてもらうんです。

株式会社インボディ・ジャパンの体成分分析装置『インボディ』。医療用、専門家用、家庭用など様々なタイプがあり、多くのトレーニング施設で導入されている(C)SHOJIRO KAMEIKE

――左右の筋肉量に差があった場合、問題となるのは差の大小なのでしょうか。あるいは、そもそも差があってはいけないのか。

 大事なのは「差があることを理解しておく」ということですね。どのスポーツでも競技特性から必ず左右の筋肉量に差が出てきます。当然、使っている筋肉のほうが肥大しますし、必ず右利きと左利きでも差は出ますから。筋肉量に差がある箇所に怪我の既往歴があるなら、怪我しないように強化していく必要がある。インボディで、怪我対策のための一つのデータを得ることができます。

普段から何となく、ただ練習メニューをこなすだけでなく、より強化すべき箇所にフォーカスすることで怪我予防に繋がります。それが結果的に選手寿命を長くして、パフォーマンスを上げることにも繋がってきますよね。

――なるほど。筋肉量の左右差には、ある程度のパターンがあるのか。それとも個々で全くことなるのでしょうか。

 競技によってパターンがあり、その中にも個性が出てきます。筋肉量に差が出てくるのは、動きに依るところが大きいわけですね。当然のことながら、ずっと同じ動きをしていたら筋肉が肥大する箇所も同じです。その部分で、競技特性によるところは大きいです。

――競技特性と、ファイトスタイルも。

所 MMAの競技特性を考えると、ファイトスタイルの違いも大きいですね。

鈴木 ストライカーかグラップラーか、というだけでも変わってくるからね。

 その選手に、どういう持ち味があるのか。僕たちは一つの動きを要素分解していくんです。たとえば右のパンチ一つに対してリーチ。上半身のスピード、下半身の強さ、柔軟性とか。そのなかからウィークポイントを探し、穴を埋めていく。それがフィジカルというものであり、フィジカルを強化していくためには体組成を把握しておくことは重要です。

――なるほど。インボディのような体組成計でないと、それだけパフォーマンスを強化するだけの参考データを取得することはできないのでしょうか。

 そうですね。右腕、左腕、右足、左足で何キロの差があるというところまで出るので。

鈴木 以前にも紹介した「インピーダンス法」ですね。両手両足の四方向から電気を通して測ります。一般的に見られる――足からだけ測る体組成計だと、両手や上半身については正確な数値が出ませんから。

――その数値を測ることができる機器だけに、価格も高いかと思います。他のスポーツやジムなどには、どれだけ普及しているのでしょうか。

両手両足の4点から電流を流した際に発生する「インピーダンス」から、人体を構成する成分を測定する(C)SHOJIRO KAMEIKE

鈴木 今はスポーツクラブやパーソナルトレーニングジム、なかには整骨院で導入している場合もありますね。オリンピックスポーツと提携している整骨院もありますから。

 一般企業さんでも普及していますね。測ってみると面白いといいますか(笑)。インボディでは体脂肪率ではなく、脂肪の量が表示されるんですよ。たとえば60キロの体重に対して、一般的な体脂肪計では「33パーセント」と出る。しかしインボディでは「20キロ」と出る。そのリアルな数字を見ると結構ショッキングですし、「このままではヤバイ」と考えますよね。一般の方にはリアルな数字を見せて衝撃を与えるという有効活用ができます。

アスリートの場合は、また違います。筋肉量が思ったよりも少なく、意外と体脂肪が多いとか。逆に筋肉量が突き抜けていて、体脂肪が低すぎるとか。そういった個々に特性があるので、体組成と比較しながら課題を見つけていきます。

スタミナがない場合は、体組成としては下半身の筋肉が弱かったりします。であれば、その部分を強化したほうが良い。こうして体組成を調べた結果をトレーニングメニューに組み込むことができるので、練習プログラムの改善のためにも重要になりますね。

――ALIVEでは、この体組成計を使い続けているのですか。

現在の体調や測定結果などシートに記入し、鈴木社長と所氏でチェック。選手の指導に生かす(C)SHOJIRO KAMEIKE

鈴木 今回は取材のために、ジムに持ってきてもらいました。いつもは選手一人ひとりを所君のジムに連れていき、インボディで測定してもらっています。ウチでもしっかりと体組成を測り始めたのは、ジムに高校生の選手が増えたからなんですよ。

これは脳のダメージにも関わる問題であって。仕事柄、産業医さんや栄養士さん、理学療法士さんたちと関わることは多いじゃないですか。そのなかで聞くのは――脳や頭蓋骨って、22歳までは柔らかいままで。形成されるまでに思ったより時間が掛かるということなんです。だから中高生が頭にダメージを受けると、後々に影響が出てきてしまう。

 うん、そうですよね。

鈴木 以前、ウチのジムにもいたんです。小さい頃にハイキックで失神した経験のある子は、大人になっても失神しやすかったり、倒れやすくなる。脳が形成される過程で、ハイキックを受けた時に出来る傷が残っているので。あとは一つのスポーツを長く続けていると、いわゆる「野球肘」や「テニス肘」のように組成や骨の形状が変わってきます。そういったことがあるから高校生の選手のために、しっかりと体組成を測るようになりました。

――その効果は……。

鈴木 効果が有る無いの前に、まずは本人が自分の状態を知ることなんですよ。怪我の予防だから。効果という部分で言えば、一番は本人と親が納得してMMAを続けてくれます。それが一番大事なことだと思いますね。MMAをスポーツ化していくためには。

<この項、続く

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