【Special】『MMAで世界を目指す』第4回:鈴木陽一ALIVE代表「MMAファイターの食事と栄養」─02─
【写真】練習も試合も屋内であることが多いMMAだが、それが栄養素にも関わってくるとは――(C)SHOJIRO KAMEIKE
世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。MMAPLANETでは「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく連載企画をスタート。公認スポーツ栄養士の牛島千春氏とMMAファイターの食事と栄養について考える第4回目の後編は、栄養素について学ぼう。
Text by Shojiro Kameike
<連載第4回Part.01はコチラから>
鈴木 そもそも「栄養とは何か」というところから説明していただけますか。
牛島 栄養の基本とは、まず「栄養の5大要素」ですよね。糖質(炭水化物)、脂質、たんぱく質がエネルギーに変わる栄養素で、3大栄養素とも呼ばれます。さらにビタミンとミネラルを加えたものが5大栄養素です。何をどれだけ摂取すればOKということはなく、一番大事なのは5大栄養素のバランス——3大栄養素をしっかり摂りながら、それらをエネルギーに変えてくれるビタミンとミネラルが必要になってきます。
鈴木 我々がやっているMMAというのは、まず体重制限がある。普段から練習で体を動かしながら減量しないといけません。またピリオダイゼーションとして、①試合がない時期の練習②試合が決まってからの練習③試合直前の練習と内容が変わってくるために、摂取すべき栄養も違ってきますか。
牛島 コンタクトスポーツですと、試合時のエネルギー源は糖質になると思います。すると糖質は減らしすぎず、脂質でコントロールしていくというアプローチをすることが多いです。それは①②③どの時期も変わりません。
鈴木 なるほど。いわゆる「運動性貧血」については、どう考えますか? 運動のしすぎで起こってしまう貧血のことですね。MMAもコンタクトスポーツだから、血液が壊れてしまうことが多くて。鉄分を含めたミネラルの摂取については注意していますか。
牛島 注意していますね。コンタクトスポーツとして体を動かした時に血液が壊れてしまうこともありますし、そもそも汗を流すと鉄分も一緒に体内から出てしまいます。そのため鉄分はもちろん、鉄分を吸収するためのビタミンCやたんぱく質も一緒に摂取しないといけない。こうした食べ合わせが大事になります。
それとコンタクトスポーツの場合は怪我も多くなるので、怪我をしにくい――あるいは回復が早くなる骨づくりも大切ですよね。骨の材料となるのは、たんぱく質とカルシウムです。ただ、カルシウムは吸収率が良くないので、ビタミンDと一緒に摂らないといけません。ビタミンDって紫外線によって生成される、少し変わった栄養素で。
鈴木 紫外線によって生成される、というのは……。
牛島 たとえば紫外線が少なくなる冬場は、ビタミンDが不足しがちになります。それと室内競技は紫外線を浴びることが少ないため、屋外競技よりもビタミンD不足になりやすいです。すると疲労骨折を引き起こしたりとか。そういった面でビタミンDは最近注目されている栄養素なんですよ。
鈴木 まさにMMAは、その室内競技じゃないですか。室内競技のほうが骨の生成は難しくなると。
牛島 さらに減量がありますから。大幅な減量、脱水を行うと、どうしても骨の生成に大きな影響を及ぼしてしまいます。
鈴木 結果、怪我しやすい体になってしまう。
牛島 ビタミンDはお魚に多く含まれています。お肉だけではなく、お魚もしっかり食べたほうが良いですね。お肉を食べる時でも、もう一品――しらす、ツナ、サバ缶でも何でもお魚を加えるようにはアドバイスしています。
鈴木 室内競技だとビタミンDが不足する……それは知らなかったです。盲点ですね。
牛島 コロナ禍はビタミンD不足になる方が多かったんですよ。家から出ないために紫外線を浴びませんし、ビタミンD不足が免疫力の低下を引き起こしたりとか。それと室内競技のアスリート、デスクワークの方、さらに日焼け止めを塗りすぎている方はビタミンDが不足しやすくなります。カーテン越しの紫外線では足りなくて、やはり外に出ないといけないです。
鈴木 昔から野球選手もそうですし、格闘家も「長時間のジョギングは必要か」という議論がありました。ビタミンDのことを考えると、日に当たりながらのジョギングやランニングも必要になってくるのですね。
牛島 必要だと思います。食事からの摂取と、日に当たって紫外線による生成も大事です。ジョギングやランニングを朝に行うのは、体内のリズムを整えることはもちろん、紫外線を浴びてビタミンDを生成することにも役立つことで。
鈴木 昔から人間が理論ではなく体験や習慣に基づいて行っていたことは、実は理に適っているんですね。たとえばトレッドミルで走ると、スピードや心拍数を管理できるけど、必要なのはそれだけではない。夜に走っている場合は体脂肪が減って、毛細血管は増えるけど、骨密度には関係なかったりとか。
牛島 そういうことになりますね。
鈴木 これが一番興味深いところで。スポーツトレーナーや理学療法士といった専門分野が違えば、観点も違うし意見も異なってくる。各々の意見が間違っているわけではなく、いろんな専門家の意見を聞き、取り入れるべきものは取り入れていかないといけない。
牛島 私もいろんな専門家の方々のご意見を聞きたいです。
鈴木 MMAファイターも栄養について学んでいる人は多いと思います。しかし個人では俯瞰で考えることができない。どうしても次の試合について考えることが優先になってしまいます。だからこそ学校で専門的なものを学び、牛島さんのような専門家の意見を聞いてみないと分からないですよね。
それと栄養素の摂取といえば、やはりいろんなものを摂取するべきですか。たんぱく質といっても肉、卵、豆類と様々で。
牛島 もちろんです。付加価値もあるので……。鈴木 付加価値というのは?
牛島 たとえばお肉の中でも牛肉は赤身が多いのは、鉄分が多いためなんです。だから牛肉を食べると、たんぱく質だけでなく鉄分も摂取できるのが付加価値になります。豚肉は他のお肉よりもビタミンB1が多いし、鶏肉はBCAAが多かったりアミノ酸バランスが良いので、筋肉づくりに効果的である、とか。
反対にお肉からビタミンDは、あまり摂れません。お魚はたんぱく質だけでなく、オメガ3など良い脂質が含まれていますし、大豆製品であれば食物繊維が入っています。だから、たんぱく質の付加価値も考えて、いろんな種類の食べ物を摂取したほうが良いですね。
鈴木 こうなってくると、もう本当に専門家じゃないと無理ですよ(笑)。トレーナーだけではなく、牛島さんのような公認スポーツ栄養士と一緒に考えたほうが良い。次回も牛島さんと、ファイターに必要な食べ物や食べる時間などを考えていきたいと思います。