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【Special】『MMAで世界を目指す』第4回:鈴木陽一ALIVE代表「MMAファイターの食事と栄養」─01─

【写真】今回のテーマはファイターなら必見の「栄養」。特に若いファイターに読んでほしい(C)SHOJIRO KAMEIKE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。MMAPLANETでは「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく連載企画をスタート。連載第4回目は、公認スポーツ栄養士の牛島千春氏とMMAファイターの食事と栄養について考える。
Text by Shojiro Kameike


ALIVE鈴木陽一社長と公認スポーツ栄養士の牛島千春さん(C)SHOJIRO KAMEIKE

牛島 管理栄養士で、公認スポーツ栄養士という資格を持っております牛島千春と申します。現在は短大、専門学校、高校で栄養学の授業を受け持っています。

鈴木 公認スポーツ栄養士とは――なかなか聞きなれない名前ですが――どういった資格なのですか?

牛島 管理栄養士の資格を持っていることを前提とした、スポーツに関わる栄養士の資格です。管理栄養士といえば、病気を持っている方が対象であったり、学校や福祉施設でのお仕事が中心になります。そのなかでもスポーツに特化したお仕事をしたい方が、公認スポーツ栄養士の勉強をして、資格を取得していますね。

鈴木 管理栄養士と公認スポーツ栄養士の一番の違いは何でしょうか。

牛島 一番は対象ですね。スポーツでいえばアスリートの方はもちろん、お子さんがスポーツをされている場合や、健康のためにスポーツをされている成人の方も対象です。そういった方々に食事の摂り方をご説明しています。

鈴木 管理栄養士の資格を持っていないと、公認スポーツ栄養士にはなれないのですか。

牛島 はい。管理栄養士の資格を取得していて、かつスポーツの仕事に携わる、あるいは携わる予定がある人しか試験を受けることができません。資格試験を受けるにも最初に審査があるんです(※注)。

注:公認スポーツ栄養士の審査申請資格
1. 管理栄養士であること
2. 公認スポーツ栄養士養成講習会を受講しようとする年度の4月1日時点で満22歳であること
3. スポーツ栄養指導の経験があること、またはその予定があること
4. 日本スポーツ協会と日本栄養士会が認めた者
(公益社団法人 日本栄養士会 公式サイトより引用)

鈴木 受験のための審査があるのですね。

牛島 現状でスポーツ選手の食事や栄養に関わっていることが求められるので、「これから関りたい」と考えている人(上記『その予定があること』に該当する人)は審査に通らないこともあります。

鈴木 つまりスポーツや競技に関する知識や経験がないと難しい、ということですね。格闘技業界って、管理栄養士さんについてもらうケースは増えましたけど……。

牛島 公認スポーツ栄養士の資格を持っている人自体が、日本国内でも400人ぐらいで。まだまだ少ないですよね。

鈴木 私も公認スポーツ栄養士という資格の存在は知っていたものの、資格を取得するための段階については初めて聞きました。本題とは違うけど、スポーツ選手が引退後に管理栄養士を取得し、さらに公認スポーツ栄養士になるというセカンドキャリアも考えられるわけですね。

牛島 それは凄く良いことだと思います。引退後に栄養士、さらに管理栄養士の資格を取得するために学校へ通うことにはなりますが、スポーツの実体験があるのは強いです。

鈴木 一般の方への栄養指導と、アスリートへの栄養指導は内容も全く違いますからね。これまでの連載でもお伝えしましたが、まずMMAの場合は減量に伴う脱水があります。他の競技であれば、体重の4パーセント以上の脱水があった場合は、翌日の試合に出ません。しかしMMAは――10パーセントの脱水があった翌日に試合をすることがあって。

牛島 えぇっ!? 怖いですね……。

鈴木 そういう反応になりますよね(苦笑)。お医者さんや管理栄養士の方からすれば、絶対にダメだって言いますよ。

牛島 私も――格闘技について知らないと、「試合をしちゃダメだ」って言うと思います。公認スポーツ栄養士の基準だと、2パーセントの脱水があった時点でダメです。

鈴木 2パーセント!? もっと厳しかった(苦笑)。

牛島 医療施設で考える脱水と、スポーツにおける脱水は考え方も違ってきます。やはり御病気の方とアスリートでは筋肉量も違うので。

鈴木 確かに。しかも病気が要因の脱水症状と、自分から計量前日の一晩で10パーセントの脱水を行うのでも全然違いますし。

牛島 一晩で10パーセント……。いやぁ、凄いです(苦笑)。

鈴木 一晩でそれだけ水を抜くためのトレーニングや体づくりを、ALIVEの場合は2カ月ぐらい行います。要は「脱水の練習」をしているわけです。そういった点も公認スポーツ栄養士という専門家にお聞きしたいんですよ。

炭水化物といえば、ごはん。後編では栄養素の基本について学びます(C)SHOJIRO KAMEIKE

我々トレーナーが栄養について説明する時は、「PFCバランス」を考えます。Protein(タンパク質)、Fat(脂質)、Carbohydrare(炭水化物)ですね。さらに専門家の観点からビタミンとミネラル、それぞれの栄養素の吸収スピードについても教えていただきたいと考えています。

たとえばALIVEの場合、加藤久輝はお父さんが日本人で、お母さんがフランス人です。すると体質も違ってくるじゃないですか。最近は日本国内のMMAでもハーフ(ミックス)の選手が増えていて。さらに加藤の場合は元ハンドボール日本代表で、五輪合宿で遺伝子解析や腸内解析もしていた。彼からすれば、格闘技ではそういった解析をしないことに驚いたそうです。

牛島 その解析をすることで、アプローチの仕方が変わってきますからね。代謝しやすい遺伝子を持っているかどうか、など……。選手が寮で同じ食事をしていたとしても、すぐに身体が大きくなる選手と、そうでない選手がいます。吸収スピードは体質によって違うので。

鈴木 牛島さんは特に学生の栄養に携わっているから、その違いについて詳しいでしょう。

牛島 成長期のお子さんは特に、そういった体質の違いが大きく出てきますね。

鈴木 少し前置きが長くなってしまいましたが、そういった前提を踏まえて、今回は専門家に栄養の基本についてお聞きしていきます。

<この項、続く>

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