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【UFC ESPN52】UFC初陣を振り返る、中村倫也─01─「シミュレーションなのにめちゃくちゃドキドキして」

【写真】いつもと同じ入場、仕草。そして佇まい。それも何十というシミュレーションがあってこそ (C)MMAPLANET

8月26日(土・現地時間)にシンガポールはカランのシンガポール・インドアスタジアムで開催されたUFC on ESPN52「Holloway vs The Korean Zombie」で、ファーニー・ガルシアを相手に判定勝ちし、UFC初陣を飾った中村倫也。
Text by Manabu Takashima

試合から10日を経て、中村自身にオクタゴン初戦を振り返ってもらうと、その動きの一つ一つに彼が理をもって臨み、尋常でない周到な準備が試合前から技術だけでなく、メンタル面でもなされていることが分かった。


──UFCデビューから10日が過ぎました(※取材は7日に行われた)。デビュー戦のパフォーマンス、どのように捉えていますか。

「ギリ合格かなっていうラインですね。良かったところは、大枠としての作戦がハマったところです」

──その作戦というのは?

「遠い距離から蹴り中心で攻めて、テイクダウン。そして上四方からコントロールして展開を創っていく。そこは大枠として……できたことは良かったのですが、ただ後から試合を視てみると気になることがいっぱい出てきているので、今はそれをどう直していくのかを考えています」

──序盤から試合を創っていったのは、中村選手でした。

「これまで僕の試合をチェックしたガルシア陣営が立てる作戦は、前に出させてステップバックしながらパンチを打ってくることと考えていました。そこに入らないギリギリの距離で蹴っていく。間合いが近くなると、打ちながら入る。そういうつもりでいたのですが、想っていた以上に距離が合わなかったです。もう一歩、半歩いかないといけないところが、そこまでの距離の創り方に緩急をつけるという技術を自分は持っていなかった。

『俺のスキルじゃ、この間合いは潰しにいけない』と思い、大きな蹴りかフェイントをかけて相手を反応させてから入っていました。それしかないと思ったのですが、そういう試合をしていることで、なんかモゴモゴしてしまっていました」

──モゴモゴとは?

「距離を潰すスキルが欲しくて──。自分のやるべきことを、試合のなかで見つけられることができましたね」

──試合が始まる以前なのですが、あの大観衆の声援のなかでケージインする。いよいよUFCで戦うということで、平常心を保つことはできたのでしょうか。デビュー戦では入場する際に感極まるという話をよく聞きます。

「そこは、めちゃくちゃシミュレーションしました。UFCは日本の興行とは違って、自分のタイミングで出ることができないです。曲が流れだすと、係の人が『ファイブ、フォー、スリー、ツー、ワンッ!! ゴー、ゴー、レッツゴー』という風にカウントをして。向うのテンションで入場が始まるので、それがどういう風に影響を与えるのか──何通りもシミュレーションしていました。

最初はシミュレーションなのに、めちゃくちゃドキドキして。『こんなあがり方するのかッ!!』というところから繰り返して、どこに心を置いておけば良いのかを見つけて。だから、平常心で入場することができました。ただ、あの場で気持ちがあがるのはメチャクチャ分かります(笑)」

──シミュレーションの全てが外れる。そこで焦るようなことがあると、怖いですね。

「当然、全てがハマらないというシミュレーションもします。『どれもハマらない、どうしよう?』という気持ちになると、どういう状況でオクタゴンに立っているのか。そこも想定します。例えば試合の3週間前の時点、ハマらないまま試合をして負けることをシミュレーションして。そうなったら、負けた気持ちを引きずって飛行機に乗ったら、自分は何を想っているのか。

『3週間前に頑張り過ぎて、もう少しペースを落とすべき』と考えているかもしれない。どれもハマらないということは既にズレが始まっている。なら今、何をやるべきか。『まだ3週間ある』って、そこで頭を入れ替えると……何か見つかるんですよ」

──倫也選手、ひょっとして恋愛とか彼女に対しても、そこまでシミュレーションしているのですか?

「アハハハハ。そんなことしないですよ(笑)。試合だけです」

──良かったです。そんなヤツ、絶対に嫌なので(笑)。

「アハハハハ。最上級の自分、鉄壁バージョンをMMAでは求めているので。他はそこまでやらないです。試合に関しては徹底してシミュレーションをすると、少しでも迷っている時間を減らすことができるんですよ」

──それこそアーセン選手が言っていた、試合に向けてのシチュエーションの幅の広さということなのですね。

「ハイ、試合は徹底的に細かいところまで考えます。今回もシミュレーションをしているなかで、『来ない。こんなに来ないんだ』と状況もありました」

──そこまで……なのですね。対してガルシアの心理としては、とにかく右を一発当てて何とかしたい。結果、自分の戦いというよりも倫也選手の動きへの対応に追われて居着いてしまっている。そのように見えました。

「そうでしたね。向うからの仕掛けというのはなかったですね。これまでの試合では、ガルシアは自分でプレッシャーをかけるので、ギュッと空間が圧縮されている中で戦うということをイメージしていました。プレスをかけさせないように。ただ、実際にはこっちが重心を落とすと、スッとその圧を抜く感じでした。

自分の最初のプレスでガルシアを動かせているので、向うのリアクションに対して、攻撃を仕掛けていけば大丈夫だと思えましたね」

──その自分からの圧が左の蹴りでした。やや遠いように見えたのですが、足も腹も良い攻撃が入っていました。

「踏み込みは、思っていたのより少し遠い距離からでした。だからガルシアが外してくるなら、それで構わないという蹴りだったんです。外してこなかったら、バシッとインパクトのある蹴りになるという考えで」

──2Rですが、左ハイでスリップした場面もありました。

「初回にそういう攻防がなかったので、弱冠カウンターのパンチをまだ恐れていましたね。それで、重心が後ろで高い蹴りになってしまって。無理に距離を潰しにいったので、少し怖さがありましたね。そういう風に気持ち的に引いていたので、あの重心とスリップになったんだと思います」

──相手の攻撃へのカウンターアタックは、あのガルシアの戦い方では難しかった。そこで蹴りとダブルレッグを突破口に、自分の動きで打開したという理解で良いでしょうか。

「そうですね、ガルシアがサークリングをする際に奥手を引いていると狙いが分かるのですが、体を開いていたので重心の動きだけで、テイクダウンを仕掛けて良いと判断しました」

──つまり拳の圧がなかったと。

「ハイ、思っていたよりなかったです。最初のミドルとローが思い切り入って、声も漏らしていたんですよね。それで力が入らなくなったんだと思います。圧力が落ちました。『これは大丈夫だ』と感じていた一方で、やっぱりUFCファイターですしね。『ここで戦っているのだから、何かあるはず』という警戒心が最後まで抜けなかったです」

<この項、続く

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