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【ONE】2022年中に話が訊きたかったファイター。1人目、若松佑弥―01―「もう嫌だ。やっていられない」

【写真】覚悟のある言葉が、終始聞かれた若松佑弥 (C)MMAPLANET

2022年も最後の1日に。この1年もMMA界には色々な出来事があり、多くの勝者が誕生し、同じ数だけ敗者も生まれた。

2023年に向けて、MMAPLANETでは『2022年中に話を訊いておきたい』勝者、敗者を6人リストアップしインタビューを行った。

第1弾は3月にONE世界フライ級王座に挑戦するも一本負け。再起戦は対戦相手の体重オーバーで消滅。仕切り直しの11月19日、ONE163でのウ・ソンフン戦ではまさかの計量失敗TKO負けを喫した若松佑弥に――あの日を振り返ってもらった。


――2022年、若松選手は結果的に0勝2敗。何よりウ・ソンフン戦ではハイドレーションに失敗してキャッチウェイト戦になってしまったうえでの敗戦でした。試合前にインタビューを受けてもらった時は、当然のように負傷などあっても公言できるものではないですが、実際には何か体調不良でもあったのでしょうか。

「いえ、そういうことは一切なかったです。僕はこういうとアレですけど、普段から他の選手と比較しても体のことは考えている方です。酒も飲まないし、不摂生になるようなことはしない。あの試合の時も体重を抑え気味にして、普段よりも1キロぐらい軽い状態で調整していました。

コンディションもバッチリで、計量前には(品川)朝陽君や(平田)樹ちゃんのように慌てることもなかったです。これまで通りにできていて、過去にハイドレーションで引っかかったこともなかったので。トレーナーとも『問題なくきている』という風に話をしていた状態でした。

それなのにハイドレーションがオーバーしてしまって。体重はいつもリミット丁度に合わせていたのに対し、今回は万全を期してアンダーにしていたのですが……。そこから水分を補給しても、いつものような数値にならなくて。あの時は頭の中が真っ白になりました」

――これまで通りの調整だったから、対処のしようがなかった?

「ハイ。まさか……の何も想定していない状況でした。13時計量開始で、僕の順番は13時半ぐらいで。そこから4時までに体重とハイドレーションをパスしないといけないので、長南さんと部屋に戻って調整をして。2度、4時までに小便をしてハイドレーションを測っても無理で。3度目も……どんどん濃くなっていて。でも、本当になぜかが分からなくて……」

――ここ最近のONEは試合前日だけで、当日の再計量はないという方針です。

「ハイ、午後4時までにクリアしないとハイドレーションをパスした体重のキャッチウェイトになって……罰金を支払う形です。僕は最悪、当日になってもパスをするというつもりだったのですが……あの時から、計量方法が変わって」

――ということはセレモニアル計量とフェイスオフの時には若松選手はキャッチ戦が決まっていて、平田選手など試合がなくてもあの場に立たないといけなかったということですね。

「あの時点で樹ちゃんはもうないと思っていたはずです。体重をパスできないのはありますけど、試合がなくなって涙している彼女がアレをやるのはちょっと厳しいなと思いました」

――生理があっても落とすのがプロ。その生理が来ないようにしている選手もいる。そして平田選手が落とせかった理由がどこにあるのか、分かっていないです。そこも踏まえて、男子と女子は肉体特性が違う。そして女子には妊娠&出産があるという一点において、女性と男では計量のレギュレーションは違うモノがあっても良いかと思ってしまいます。

「……。ハイ、そういう風に考えないといけないのかもしれないですね」

――話を戻しますと、若松選手は頭を剃ってセレモニアル計量の場に立っていました。あれは禊の意味だったのでしょうか。

(C)ONE

「いえ、あれは少しでも体重を軽くするためです。

体重自体はアンダーでも、水を飲むので髪の毛の分でも軽くしようと長南さんと話して、剃りました。僕らも習慣的に体重を絶対にアンダーにしたいです。そうするとハイドレーションがオーバーするので、ハイドレーションがパスするまで水を飲むことになり、その時の体重で試合をすることになります」

――ONEではその結果が発表されているのかどうかは不明ですが、リカバリーも105パーセントまでという規定がって、試合後に体重を測る。これでオーバーしている選手は、勝者など試合結果は変更されないですが、罰金があるようですね。

「ハイ。僕だと62キロぐらいでパスして、64キロぐらいまでしか戻せないです」

――正直、ONEのハイドレーションは水抜き減量をしないためのモノですが、サウナスーツを着て汗をかいている時点でドライアウトなわけですし。それでもハイドレーションをパスする術をほぼほぼ出場選手とその陣営は持っているというのが、私個人の見解です。ほぼ皆が水抜きして、通常体重の選手の方が一握りだと。北米とリミットが違うからこそ、カラカラにならず体重を落として、水分補給をしてクリアする。でも、まだノウハウが確立できない部分もあるのですね。

「なんで……俺は……って。正直、そういう気持ちにもなりました。もう、どうしようもできないです。何カ月もやってきて、それが最後にああいう風になる。実際に水抜きより難しい面もあります。なら、それが起こったことで何か自分にとって意味があるんだと考えるようになりました。

天命じゃないけど、これも天が与えた試練。ここを乗り越えて強くなるんだって。結果としてキャッチウェイトになった経験を、今では受け入れています。

全ての規定を僕は知っていて。だから全ては自分の責任です。以前に樹ちゃんが計量オーバーをしたことに対して、批判をしました。でも自分が経験すると、彼女がどういう状況だったのか理解せずに発言していたなって。だから、ああいうことも言う必要はなかったです」

――今回のハイドレーション失敗を経て、現状で解決方法は見いだせたのでしょうか。

「とりあえず……通常体重を落として、水抜きにならないよう体重を調整する。それしかないと思っています」

――そうなると水抜きをして、上手くハイドレーションをクリアした選手との体格差が出てこないでしょうか。

「……。サウナスーツを着て、ウォーターローディングしてパスをする選手は確かにいると思います……。でも、僕はハイドレーションにパスしなかったので、『もう嫌だ』という気持ちになっています」

――今後にも関係している計量失敗ですが、試合に向けては気持ちを切り替えることは?

「それはしていました。これも運命だと受けいれていた自分がいて……究極に自分を追い込んで、でも正常を保つ。そんな精神状態でいられるようにしようと。だから試合前は、絶好調で、気持ちとしては『やるだけのことはやった。あとは勝つだけ』というぐらいでした。で、結局負けてしまったんですけど」

――……。

「正直、戦っている最中はプレッシャーとか、何も感じなくて。相手のパンチは一発も当たる気がしていなかったです。気持ちも乗っていて……『こいつのパンチなんか当たっても倒れない』とか感じてしまうぐらいになっていました。『俺は自分を越えるぞ』という感覚になっていました。

ずっと、ビビっている自分を変えたい。そう思ってMMAを戦ってきました。仙三さんみたいに、打たれても前に出る。倒れても立ち上がる。1秒でも早く勝つ……そんな風に気持ちが昂っていたのはあったと思います。戦略的に強いのではなくて――そうですね、スポーツとかでなく、心の中の何かを克服したい。ここで自分から行って、違う自分になるんだって。

それもあって試合後は……『もう嫌だ』と思いました。これだけ練習して、自分を追い込めるだけ追い込んで。でも、こんなに呆気なくやられるんなんて、もうこんなこと続けられない……って、MMAが嫌になりました。『もう嫌だ。やっていられない』と。でも、実際には人間は脆い生き物で。今から思えば、変なプレッシャーを自分に掛けていたのかなと思います」

<この項、続く

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