【ONE172】モライシュとフライ級王座決定戦。若松佑弥「アドリアーノでなく、自分を打ちのめすこと」
【写真】覚悟という意識が、無意識となっている感もある若松だ(C)MMAPLANET
23日(日)に埼玉県さいたま市中央区のさいたまスーパーアリーナで開催されるONE 172「 TAKERU vs RODTANG」でアドリアーノ・モライシュとONE世界フライ級王座決定戦を戦う若松佑弥。
Text by Manabu Takashima
今大会はキックのビッグショー、そして初参戦となる日本を代表するキックボクサーも多い。そんなONE日本大会をONEでキャリアを全うしてきた若松は、どのように思っているのか。この疑念を抱くことこそが、雑念だと捉えることができるほど彼は自分と見つめ合っていた。
鼻毛も伸ばしています(笑)
――ONE世界フライ級選手権試合まで3週間弱(※取材は4日に行われた)、もう試合のこと以外は気にしないルックスになっていますね。
「ハイ。鼻毛も伸ばしています(笑)。試合まではこのままです。髪型も。目にかかるところだけ切ってもらっています」
──今も家族とは?
「離れて生活しています。試合に集中するために」
──出来上がってきていますね。ところで若松選手は3年ぶりのアドリアーノとの戦いです。前回の敗北から、戦ってきた積み重ねがあって王座決定戦を戦う。対して、キック勢は各プロモーションの看板選手が集まった。ONEの看板を掲げたオールジャパン・キック連合のようなイベントのように感じています。
「そういう声が、分かるファンのなかにあるというのは聞いています。正直、自分はONEのなかで鎬を削ってきた。自分にしかできない生き方をしてきました。色々なチャンスをもらって、でも生かすことができなかったこともあります。そのなかで学んだことが多くあって。実力主義というか、とにかく強さを求めてやってきました。
今回、凄く華のある試合が多いです。そのなかで、王座決定戦が組まれた。これまでやってきたことが、ここにつながった。全ては試されていることですけど、まるで雑音は気にしないです。これまでの経験で行きついたのは、自分自身に集中するということだったので。
それこそキックの大会だろうとかっていう意見が気になるのも雑念で。リベンジという考えになるのも、雑念です。自分ができることは、シンプルにひたすら自分と向き合うこと。それが正解だったら、ベルトを巻くことができると思います。全てを賭けることができるタイミングで、言葉では伝えづらいですが、覚悟やら全てが一致しています。
3年前の自分の覚悟とは違う。あの時は、『ベルトを巻くことができるのか?』とか考える未熟な自分がいて。対して、今は自分自身に集中して答が出るだけという気持ちでいます。そこが3年前とは違います。日本大会ということで、お膳立てが整っています。そこで自分がどういう自分であるのかと問いただしてみたら、ドンとしている。『あぁ、大丈夫だな』と思えています。
正直、日本大会だからという思い入れもないです。これまで全力で、一切妥協をせずに戦ってきました。その部分は今までと変わらない……それ以上に自分と向き合えています。だから会場がさいたまスーパーアリーナだろうが、ルンピニーだろうが関係ないです。
ただ周囲の声援も全て自分のパワーに変えることができるようになりました。3年前は、その声援がプレッシャーになっていたのが、今はプラスにできます」
日々、明日生きられるのか分からないと思って
──では3前と一番違う部分はどこだと感じてしますか。
「3年前も技術的には、極めはなくても他の部分は全て備わっていました。ただ、それが全て出せるメンタルがなかったです。120パーセントを出せるメンタルが……。と同時に疲れている時に自分をセーブして後のことを考えることができるようになったり、あの時のように雑でなく冷静に戦うことができます。入れ込み過ぎないようにできています。
とにかく気が散って、色々なことが耳に入ってきて影響を受けることなく。今に集中しています。もちろんフィジカルも上がっていますし、一つ一つの技術も精度が上がり、打撃の幅も広がっています。技術的にも前より伸びています」
──最近の若松選手は覚悟という言葉に収まり切らない、一つ一つに魂がこもった動きをして、戦っているように見えます。
「あぁ……それは日々、明日生きられるのか分からないと思って全力で取り組んできたからだと思います。本当に全力で生きてきて、そのなかでいつ何があるか分からないと思っています。試合中に腕が折れたり、眼窩底をやったりとか。なんでも起こりえます。そのなかで最後はしがみついても勝つ。相手も殺しに来て、自分も全てを奪いにいく。技術の攻防でなく、生死を賭けたせめぎ合いになる。
科学、理論じゃない。魂をぶつけ合って、どっちが最後に立っていられるのか。そういう戦いができる漢になりたくて、そういう戦いがしたい。その気持ちがあるから、全身全霊で戦うことができる。技術はないとダメです。でも技術だけ磨いていても、そういう戦いはできない」
──若松選手はMMAで喧嘩ができるファイターです。ただし最近は以前と違って、精神的な部分も含めて喧嘩をしているというか。
「もう特攻はしないです。武器がないから、体当たりになっていました。科学的なこと。理論、そして技術があって、自分を抑えて戦うことができます。ただし技術の交換の中でも、明日を生きると考えていると甘さが出ます。拳が折れようが、今日のことだけを考えて戦う。魂の灯が消えるまで、戦い続ける。それには日々、自分と向き合い続けること。2連敗した時に、そこに気づいたんです」
──そんな若松選手が、全てをぶつけないといけない相手。それがアドリアーノ・モライシュかと。
「蓋を開けると自分の右が当たって倒れる。
そんな結果になるかもしれないですけど、それこそ結果論で。アドリアーノはこの世界にあって、写し鏡だと思っています。彼も色々なことを乗り越えて、今の境地にある。ただし、そこは自分も負けない。世界の頂には、そういう人間しか登頂できない。
だからこそ自分に勝てないと、アドリアーノにも絶対に勝てない」
自分以外に起きていることは他人の戯言。
──ATTという世界中から選手が集まるジムで。UFCとRIZIN、そしてONEの世界王者経験者がユニットを組んで準備をしてきた。若松選手も一度は米国のメガジムを経験しながら、国内でやっていくと決めた。世界の最先端✕国内で強さを追求するというイデオロギー対決でもあるかと。
「う~ん……それこそ以前の自分だったら、そういうことを考えていたと思います。そういうことを考えなくなったからこそ、キンガドに勝つことができた。結局のところ、自分以外に起きていることは他人の戯言。自分が創り上げた虚像を気にしてもしょうがない。ビビるのも自分が創った虚像に対してなんです。
米国のジムと比べて『ああいうことを取り入れよう』とか『どうしよう』と思った時点で、自分に勝てていない。相手も人間。アドリアーノもパントージャも皆、人間なんで。誰と練習をしているとか。どこで練習をしているとか。そんなことでなく、自分に勝つ人間が一番強い。そこを信じているので。アドリアーノでなく、自分を打ちのめすこと。
試合に向けて追い込んでいると、練習に行きたくないという気持ちになります。こういう格闘家路線から下りたいとか、色々と考えます。そういう自分を打ちのめさないといけない。そこに気づいた。これが正解かどうか分からないですけど、自分を信じています」
──お客さんに見てほしい姿、試合内容などももう考えないですか。
「そこは……自分を打ちのめしているところを見てほしいです。無我夢中で殴り続けて、相手の心を折る。それこそが自分が勝ったということで。少しでも、それが伝わる人がいてくれると今の自分は十分です」
■放送予定
3月23日(日)
午後2時30分~U-NEXT
■ONE172対戦カード
<キック・フライ級/3分5R>
ロッタン・ジットムアンノン(タイ)
武尊(日本)
<ONEキックボクシング世界フェザー級暫定王座決定戦/3分5R>
タワンチャイ・PKセンチャイムエタイジム(タイ)
野杁正明(日本)
<ONEムエタイ世界バンタム級王座統一戦/3分5R>
[正規王者]スーパーレック・キアトモー9(タイ)
[暫定王者]ナビル・アナン(アルジェリア)
<ONE世界フライ級(※61.2キロ)王座決定戦/5分5R>
アドリアーノ・モライシュ(ブラジル)
若松佑弥(日本)
<ONEキックボクシング世界女子アトム級選手権試合/3分5R>
[王者]ペッディージャー・ルッカオポーロントン(タイ)
[挑戦者]KANA(日本)
<ONEキックボクシング世界ストロー級暫定王座決定戦/3分5R>
ジョナサン・ディベラ(カナダ)
サムエー・ガイヤーンハーダオ(タイ)
<キック・フェザー級/3分3R>
マラット・グレゴリアン(アルメニア)
海人(日本)
<ムエタイ・アトム級/3分3R>
ラック・エラワン(タイ)
吉成名高(日本)
<ライト級(77.1キロ)/5分3R>
エドゥアルド・フォラヤン(フィリピン)
青木真也(日本)
<キック・バンタム級/3分3R>
ジョン・リネケル(ブラジル)
秋元皓貴(日本)
<ライト級(77.1キロ)/5分3R>
エイドリアン・リー(シンガポール)
小川健晴(日本)
<ムエタイ・フライ級/3分3R>
ヨードレックペット・オー・アトチャリア(タイ)
吉成士門(日本)
<キック・フライ級/3分3R>
ザカリア・ジャマリ(モロッコ)
陽勇(日本)
<キック・132ポンド契約/3分3R>
スリヤンレック・ポーイェンイェン(タイ)
龍聖(日本)