【RIZIN50】ダウトベック戦へ、鈴木千裕「こんなこともできるんだ、みたいな。ビックリすると思いますよ」
【写真】強者のシンプル&ポジティブマインド。周囲を幸せにする鈴木千裕の生き方が、MMAに通じている(C)TAKUMI NAKAMURA
30日(日)に香川県高松市のあなぶきアリーナ香川で開催されるRIZIN50にて、鈴木千裕がカルシャガ・ダウトベックと対戦する。
Text by Takumi Nakamura
昨年大晦日にクレベル・コイケに敗れて、RIZINフェザー級王座を失った千裕。試合後は「僕は変えられないものを変えようとするのが嫌いで、変えられるものを変えることが好き」と、敗戦のショックを引きずることなく、クレベルがいるボンサイ柔術での出稽古など、すぐに次なる戦いを見据えていた。
そんな千裕の2025年の初陣はダウトベックとの一戦。ダウトベックは大晦日のYA-MAN戦で効果的にテイクダウンを決めるMMAファイターとしての幅を見せたが、それはダウトベックと戦う千裕も同じ。強力な打撃を誇るダウトベックが相手だからこそ、鈴木千裕のMMAファイターとしての強さが引き出されるに違いない。ファンにも公開された合同公開練習後、千裕に話を訊いた。
変えられないものを変えようとするのが嫌いで、変えられるものを変えることが好き
――今日は合同公開練習後のインタビューですが、公開練習ではジムの後輩=佐藤カナウ選手を集まったファンに向けて紹介されていましたよね。
「カナウはクロスポイント吉祥寺で一緒に切磋琢磨して練習している後輩で、ちょうど3月23日のDEEP TOKYO IMPACTで試合だったんで、人前に出ることに慣れようよということで、みなさんに紹介させてもらいました。やっぱり同じジムの選手はみんな仲間だし、みんなで活躍しなきゃいけないと思っているんで、試合に近い雰囲気というかイメージを作れたらなと思いました」
──千裕選手はクロスポイントでは先輩が多い印象がありましたが、最近は後輩も増えてきましたか。
「そうですね。昔は全然いなかったんですけど、ここ最近は後輩も増えてきて、僕が先輩にやられて嫌だったことはやらないようにして、先輩にされて良かったことをしてあげようと思っています。部活の先輩にいじめられたら、後輩も同じようにいじめるみたいなことがよくあるじゃないですか。僕はああいうのは大っっっっ嫌いなんで。そういうくだらないことは絶対にやらないって決めています」
──千裕選手も若手時代に先輩のセコンドについたり、バックステージのサポートに入って刺激を受けることも多かったですか。
「多かったですよ。例えば自分が20歳で、チャンピオンの先輩が25歳くらいの時は『あと5年後に俺はこういう風になっていればいいんだ』と思ったり、大きい大会に出ると控室とかバックステージはこんな感じなんだと思ったり。基本的に僕らは華やかな表舞台しか見ることが出来ないですが、バックステージに入ると、選手サイドも運営サイドもたくさんのスタッフがいるじゃないですか。ああいうのを見ると改めて一人じゃ強くなれないし、戦う舞台は用意されないんだなということに気づきますよね」
──公開練習ではそういった千裕選手の温かさを感じたので、質問させていただきました。それでは試合のことについて聞かせてください。大晦日にクレベル・コイケ選手に敗れてRIZINフェザー級のベルトを失いました。試合後はすぐに気持ちを切り替えることが出来たのですか。
「僕がいつもよく言うことなんですけど、僕は変えられないものを変えようとするのが嫌いで、変えられるものを変えることが好きなんです。当たり前のことなんですけど、試合に負けた。その事実は何をどうやっても変えることはできません。だったらその負けのことを考えるより、もし彼ともう一度やったらどうすれば勝てるんだろうと考えた方がいい。クレベル戦は『彼に負けたんだったら、彼から学ぶことが一番。ヨシッ、彼のところに練習に行こう。終わり!』という感じですぐ切り替えましたね。自分の何がダメだったのか。何がよかったのか。クレベル選手がどんな練習をしているのか……それをすぐにでも知りたくて、試合後にクレベル選手の控室まで行きました」
──そのぐらい気持ちは次に向かっていたんですね。
「どう次の勝ちにつなげるかを考えた時に、僕の中の答えがそれだったので。もちろんあの時点では次戦がいつ誰になるのか分からなかったんですけど、その誰か分からない相手が結果的にはダウトベック選手だったわけじゃないですか。だから僕はダウトベック選手に勝つために何が足りないかを見つけるためにクレベル選手のジムに行きました」
――公開練習ではクレベル選手と一緒に練習した感想を「シンプルなことが一番難しい」と言っていましたが、具体的にはどんなことを学ぶことが出来ましたか。
「練習の割合や向き合い方、そういう部分を見ましたね。僕はクレベル選手のジムに行かせてもらう立場、クレベル選手に教えてもらう立場だから、全て受け入れようと思ったんです。だから道衣を着て練習するんだったら僕も道衣を着るし、言われたことをすべて飲むのが筋ですよね。僕自身もアドバイスをもらうだけじゃなくて、クレベル選手と同じ練習をして、同じものを食べて、同じ環境でやりたいと思いました」
──柔術の練習だけでなく、クレベル選手がどういう練習・生活をしているのかも吸収してきたわけですね。
「そうです。出稽古の向き合い方は人それぞれで、練習以外の時間は距離を置く選手もいると思うんですけど、僕はそれは違うだろと思うんですよ。僕は出稽古に行くなら100パーセントで向き合いたかったので、最初の時点で『全て言うことは聞くので言ってください』と伝えました」
──その上で何が一番の学びになりましたか。
「練習への向き合い方ですね。今の僕がやっている練習ベースにおいて、どの練習の割合を増やして、どの練習の割合を減らすか。一週間のスケジュールだったり、練習メニューの組み合わせやバランスを考えるようになりました」
──MMAはやることが多い分、練習時間のバランス・配分が重要になってきますよね。時間と体力は無限ではないので。
「だからこそ簡単じゃないんです。たかだか2週間だけ練習に行って技を習得できるんだったら、今頃僕は世界チャンピオンになっていますよ。新しいことを覚えるのって年単位でかかるものだし、現段階で僕のベースに付け足せるもの、新しく吸収できるものは5個もないですよ。だから限られた数の技を取り入れて、試合で出せるように磨き続けるのが最善策かなと思います」
ダウトベックは凄く強い選手で本当に尊敬できる選手の一人
──今大会ではダウトベックと対戦することになりましたが、千裕選手の中では想定していた相手ですか。
「いや、何も想定していなかったですね。少しビックリしましたけど、本当に強い相手なんでいい試合ができると思います」
──改めてダウトベックのファイターとしての印象はいかがですか。
「純粋に強いですよ。打撃もできるしレスリングもできるし、寝技も出してないだけでたくさん種類があるだろうし。どう勝とうかなと考えていますが、少なくともクレベル選手より寝技は上手くないですし、ピットブル(パトリシオ・フレイレ)選手より打撃は上手くはない。だから僕がこれまで戦ってきた強敵に比べれば超えられる相手だと思っています」
──強い相手として認識はしつつ、必要以上に大きくは見ていないようですね。
「はい。リスペクトも持っているし、ダウトベックは凄く強い選手で本当に尊敬できる選手の一人だと思っています。だからこそここは勝たないといけないです」
──ダウトベックといえばスタンドの打撃が目立ちますが、鈴木選手には彼の打撃をどう見ていますか。
「打ち分けが上手いですよね。ボクシングをやっていたということで、相手からすると上と下、どちらにパンチが来るのか分からない。下を打ってこようとして、急に上に来るし、フェイントかなと思っていたらまっすぐ来たりと、打撃そのものが読めないですよね。あとは位置取りがいい。常にいいポジションにいるんで、そこをどう崩していこうかなと考えています」
──大晦日のYA-MAN戦を見ても、その打撃に加えてテイクダウンという武器もあります。
「僕もそこを楽しみにしていますし、僕がテイクダウンされた後にどうリカバリーをするかも見ていてほしいです」
──個人的にはダウトベックと戦うことで千裕選手のMMAファイターとしての引き出しや強さが見られるのではないかと思います。
「そうですね。また変わった鈴木千裕、進化した鈴木千裕が見られるんじゃないですかね。こんなこともできるんだ、みたいな。試合を見てビックリすると思いますよ」
──千裕選手はKNOCKOUTのチャンピオンでストライカーではありますが、MMAのキャリアの方が長いですし、決して打撃だけの選手ではないですよね。
「スタイル的に打撃に絞っているんで、それが基本にはなっていますが、平均的に何でも出来ますよ。(打撃以外が)下手ではないです。普通の選手よりも少しできるイメージ。だからそれをもっとできるところまで変えたいんで、まだまだですね。今はどうしても打撃に比べると(打撃以外が)欠点になるんで。逆に言うと自分は常に進化しているし、大晦日にクレベル選手に負けて何も変わっていなかったら、格闘技に向いてないですよ。試合に負けて進化も変化もなかったら、前回の負けがそこまで悔しくないわけじゃないですか」
──負けて悔しいからこそ、それを変えるために色んなことに取り組む、と。
「結局負けが報われるのは成長することだし、負けは成長するための材料なんで。僕は悔しさは濃度だと思っていて、悔しさという原液があって、みんなそれを水で割るんですよ。負けて悔しくない人はどんどん水で薄めちゃうんです。で、気がついたらほとんど水と変わらないくらい薄まっている。でも僕は絶対に水で薄めないんです。ずっと原液のまま。
だから一週間経とうが一カ月経とうが濃いままなんです。試合に勝って悔しさを晴らすまでは、いつも昨日のことのように悔しさを思い出して、どうしてやろうかなって思っていますよ」
朝倉戦──。男にはやらなきゃいけない時が必ず来るんですよ。もしオファーがあるんだったら、それがその時なんじゃないですかね
――その悔しさの捉え方に千裕選手の強さの秘訣があるように思います。今はRIZINのベルトを失って、追われる立場から追う立場に変わりました。ベルトを獲る前の追う立場と追われる立場を経験してからの追う立場は違うと思います。2月のKNOCK OUT後楽園大会で挨拶した際には最短距離でRIZINのベルトを取り返したいということも話していましたが、今はベルトに対してどんな想いがありますか。
「全力ですよ、そこ(ベルト)に対しては。最短で獲るためにはどうしようかを考えているんで。とりあえず答えはシンプルで勝ち続けること。しかもただ勝つだけじゃなくて豪快に勝つこと。それが全ての証明なので。判定勝ちばかりじゃタイトルが遠のきますよ」
──内容的にも進化を見せた上で勝っていく、と。
「僕の中で判定勝ちは半歩しか進まない、KO勝ちは一歩進むんですよ。だから2試合判定勝ちして一歩進むよりも、2試合KO勝ちしてニ歩進む方がよっぽどベルトに近づく。僕はそういう風に考えていますね。やっぱりKOってサッカーで言ったらシュートが入る瞬間だし、野球で言ったらホームラン。判定で勝ち負けを決められるのは面白くないし、第三者に『あなたの負けです』って言われたら『うるせえよ!』ってなるじゃないですか。これは判定に文句があるとか、ジャッジに従わないという意味じゃなくて(笑)」
──分かります(笑)。
「だったらKOとか一本で決着をつけた方が誰もが納得するし、選手も言い訳が出来ない。判定決着になってネットやSNSで『あっちが勝っていた』『こっちが勝っていた』と言われるなら、倒すか倒されるか。僕は言い訳できない形で決着をつけるのが一番いいと思います」
──また5月4日、「RIZIN男祭り」に出場する朝倉未来選手の対戦相手として千裕選手の名前も挙がっています。現時点でそれにはついてはどうお考えですか。
「朝倉戦──。男にはやらなきゃいけない時が必ず来るんですよ。もしオファーがあるんだったら、それがその時なんじゃないですかね」
──わかりました。改めてダウトベック戦を楽しみにしています!
■視聴方法(予定)
3月30日(日)
午前11時30分~ABEMA、U-NEXT、RIZIN100CLUB、スカパー!、RIZIN LIVE