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お蔵入り厳禁【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:4月:ヴォルカノフスキー✖ジョン・チャンソン

【写真】ここ最近の水垣氏の言葉深みは一体どうしたことか……(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。3人の論客から、水垣偉弥氏が選んだ水垣偉弥氏が選んだ2022 年4 月の一番。4月9日に行われたUFC273で組まれたUFC世界バンタム級王座統一戦=アルジャメイン・ステーリング×ピョートル・ヤン戦から──UFC世界フェザー級選手権試合=王者アレックス・ヴォルカノフスキー✖挑戦者ジョン・チャンソン戦について語らおう。

<月刊、水垣偉弥のこの一番:4月:アルジャメイン・ステーリング×ピョートル・ヤン戦はコチラから>


──チャンピオンに近い選手と、チャンピオンになる選手の違い……とは、ズバリ何になるのでしょうか。

「ジョン・チャンソンはタイトルに挑戦するまでも勝ってはいるのですが、こうやって戦績を眺めてみると、どこがピークだったか分からないところがあります。ジョゼ・アルドに挑戦したが8年8カ月前なんです。

UFCの世界王座に2度挑戦した。それは、もう本当に凄いことで。多くのファイターは1度すらない。だからチャンピオンに近い選手が決してダメだということじゃないんです。ただし、チャンピオンになる選手はそれ以上だということで」

──ハイ。分かります。

「明確に何かということはできないのですが、明らかなのは気持ちでは埋められないということかと思います……」

──そこはもうメチャクチャ実感がこもっていますね。その言葉にここまで重みがでるのは、日本では岡見勇信と水垣偉弥だけではないでしょうか。

「いやか……。ジョン・チャンソンって負けもあるけど、とにかくあのスタイルでトップを張り続けた。だから、もらう度に弱っていった。今回の試合に関しては3Rで止めてほしかったです。

セコンドもタオルを投げられない空気があったんでしょうね。これが最後のチャンスだって。そんな状況でヴォルカノフスキーが凄まじかったです。打撃をまとめていればTKOだっていうシーンは何度もあったと思います。そこをサクッとテイクダウンにいく。

これだから負けない。チャンピオンに君臨できるんだと感じました。エグいです。パプニングの一切が起きないように戦う。一か八の正反対にあります。そこからのパウンドもリーチを生かして……ジョン・チャンソンの良さを全て封じ込むと戦い方でしたね。

スタンドで仕留めにくれば、ジョン・チャンソンもワンチャン──逆転の可能性が出てきます。そうはさせないという完璧な戦い方をしました。隙を見せない。ヴォルカノフスキーのレコードが良いのが理解できますよね」

──そんなUFCフェザー級タイトル戦線、次は7月2日にマックス・ホロウェイの挑戦を受けます。2020年7月以来、3度目の対戦ですね。

「ほとんど差がない試合でしたよね。あそこからホロウェイはカルヴィン・ケイター、ジャイー・ロドリゲスにファイト・オブ・ザ・ナイトを取りながら、危なげなく勝っている。めちゃくちゃ強いです」

──いうなればチャンピオンになれる者同士の世界戦ということですね。

「フェザー級はこの2人が抜けちゃった感がありますね。ブライアン・オルテガが、その線に入って来るかと思ったら、半歩下がったので。やっぱり抑えるところを抑える……そこは大きいのかもしれないです。攻撃力の強さは当然として」

──そう考えると、コンテンダーシリーズから契約した選手は、フィニッシュ至上のファイトをしないといけない戦いを引きずると、安定した成績は残せないような気もします。

「結果として、それも出ていますよね。コンテンダーシリーズの戦い方だと、ある程度までいくとスタイルを変えないとダメだと思います。インパクトを残した選手が、上まで上り詰めることができていない。

それこそコンテンダーシリーズからは、防御力があって隙のないファイターは生まれないと思います。よほど、あの場だけと割り切ってスタイルチェンジをしないと」

──とはいえ、MMA業界がLFAのタイトル戦といいコンテンダーシリーズ・ファイト化していないでしょうか。

「UFCと契約するためには、そこが必要なわけですからね。ただ、ずっとあのままではなくてプレリミの間に、勝ちながらスタイルを変えていかないといかないです」

──いやぁ、めちゃくちゃ難しいことですよ。評価される勝ち方をしていながら、アジャストする。

「だから最初から、そういう設計図を書いておく必要があるかと思います。コンテンダーシリーズの戦い方で勝っても、それを自分のスタイルの軸にするのではないという風に。

それはこの2年間、ほぼ国際戦がなかった日本の選手にも当てはまることだと思うんです。僕が実際にそうだったので。日本で戦っている間は3Rの間、打撃戦を続けていればKO勝ちができるし、少なくともダウンを取って優勢に進めることができるという絶対の自信がありました。

でもミゲール・トーレスと戦った時に『あぁ、コイツは倒れない』と実感しました(苦笑)。何かが根本的に違う。そこからアジャストして、次のジェフ・カーラン戦なんかは打撃でリードしても、トップで漬けるという展開に持っていきました。それでも最後に三角絞めを貰いかけたのですか(笑)。

そういう別の引き出しを持っていないと、WECで勝つことはできないと最初の試合で思い知らされたんですよね。自分が得意なところだけで勝つことはできないことを身をもって体験して。

だからひたすらレスリングを頑張るという……。それがゴールとして正しかったのか分からないですけど、今思えばもっと柔術的な動きだってやるべきだったかもしれないと感じています。

だから僕はアルジャメインにテイクダウンをされるとバックを取られる戦い方をした。そこで背中をマットにつけても勝負できるなら、アルジャメインとの試合展開も変っていたはずです」

──下になるとラウンドを落とすという状況では、なかなかそこに時間を費やすことはできなかったかと思います。

「そこなんですよね。まぁ難しいです。でもアラン・ナシメントみたいな選手もいるわけで。関節技とスイープ、スクランブルに持ち込んで上に居続ける。下になっても、必死に上になる。いやぁ、本当にMMAは難しくて面白いですね」

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