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【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。チェ・スンウ✖エロサ「前足の足の裏」

【写真】確かに『ぶん殴る』という意志が伝わってくるようなチェ・スンウ(C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たチェ・スンウ✖ジュリアン・エロサとは?!


──今回の試合は私どもから解説をお願いした形ではなく、岩﨑さんからチェ・スンウを取り上げたいという話でした。

「はい。この試合もチェ・スンウとエロサでは、質量に差がありました。ただし、日本人選手にあの試合ができるのかということなんです。日本人と韓国人、フィジカルもそこまで違わないのに、なぜ彼らはアレができてUFCと何人も契約しているのか」

──契約選手の数の差は市場の差もあるかと思います。一昨年12月のプサン大会はプサンの観光局がバックアップしていました。UFCを韓国が受け入れている状況が、契約選手との違いでもあるかと思います。もちろん、UFC好みのストライカーが多いのもあると思いますが……。

「その戦い方において違いの一つが、チェ・スンウの試合から見て取れることができました」

──違いというのは?

「それは足の裏なんです」

──……。足の裏ですか?

「はい。特に前足の足の裏です。日本人選手の多くが前足が、パタパタと動く。なぜ、そんな風に動くのか。それは足を止めないため。足が止まると、パンチを被弾するからという発想ですね。もう、この時点で防御の発想になっています。チェ・スンウはそんなに前足を動かしていないです。それは最初からぶん殴ろうという気持ちでいるからで。足の裏もパタパタと浮くことがないです」

──前提として、エロサという相手がそれを許しているという見方ができるかと思います。

「はい、相手は力不足です。そしてチェ・スンウはフィニッシャーです。前回のグレゴリー・ホドリゲスとの違いですね。だから、これもホドリゲスと同じように相手のレベルが上がり、さらにフィニッシャーの欧米人、ブラジル人を相手にしたときにできるのか──それは分からないです。しかし、エロサにはできています。

エロサは石原夜叉坊に敗れている選手ですが、それでも日本人でUFCという場でああいう風に戦えることができるのか……そこを考える必要があります。体格的にも骨格的にも、筋肉的にもそこまで差のない韓国人選手ができていることを、すぐにできる選手がどれだけいるのか」

──できない要因というのは、どう考えておられますか。

「韓国という国土は、常に大陸からの侵略に備えていたと思います。同じアジアでも中央アジア、あの地域の選手たちは土地を奪いあい、国家を形成してきた。そういう血生臭い歴史……今もロシアとウクライナの間でクリミア半島を取り合っています。取らないと取られる。そういう意識が根付いている。結果、やられる前にやってしまえという風潮が、日本人は彼らより欠けてしまっているのです。

日本では侵略されるかもしれないという背景を持っていたのは、沖縄だけだったかもしれないです。大和から侵略されるかもしれない。中国から侵略されるかもしれない。そこで空手が生まれたのは、偶然とは思えないです。少なくとも日本人と韓国人は、日本人とブラジル人や米国、ロシア人より近いです。だけども韓国人ファイターは臆さない。基本的に攻撃のことを考えている。

防御を第一に考える場合と攻撃のことを考えている場合では、質量は圧倒的に変わります。向かい合っているとエロサは、チェ・スンウのパンチのほうが強いことが分かっている。チェ・スンウも自分のパンチのほうが強いことが分かっている」

──フィニッシュの左フック。エロサも左を打って当たっているにも関わらず、チェ・スンウはガードをせずに打ち込んでKOしています。

「ようは韓国の選手とはDNAが違う。だから韓国人選手と同じことをしても、ダメなんです。チェ・スンウもロシア人にこれができるか。やって勝てるかといえば、また違ってきます。ただし、差があるのは筋力でないんです。それは呼吸です。これは断言できます」

──息を吸う、吐くの呼吸でない……阿吽の呼吸などの呼吸ですね。

サンチンで追及している呼吸ですね。日本のプロ野球とMLBも、この呼吸が違います。バットの振り方も違う。それは呼吸の違いなんです。だから、真似をしないで結果を残す選手が野球には存在しています。彼らのやっていることをやるのではなく、日本人には日本人のやり方があります。日本人のやりかたは、多くの欧米人は分からないはずです。彼らのやることを無視するのではなく、研究をしてどこを取り入れて、どこを取り入れないか。なんでも真似をしていてはいけないと思っています」

──つまりチェ・スンウは左フックでKOしましたが、見るべき点、真似るべき点は左フックではないと。

「左フックに着眼して、それを真似ても真似ることはできていないと思います。彼は前足をパタパタと動かしていないです。つまり、チェ・スンウは打つ重心です。前足を500グラムでも重くする。それだけで変わってくることは、多いです。見違えるほどです。ただし、その500グラムを置くことができない」

──それは?

「怖いからです。被弾したくない。ただし、その500グラムがあれば相手も無暗に出てこられなくなります。だから攻撃は最大の防御という言葉が生まれたんです。パタパタと動く、防御のため防御は却って危険です。間も相手になってしまいます。

空手でもMMAでも、どこを見るのか──左フックでKOしたことではなくて、なぜそうなったのかを見る。そのシーンから、動画を巻き戻してもらえると要因が見てくるはずです。結果でなくてプロセスを把握すると、自ずと理解できることは増えてきます。日本人選手は肉体的に近い韓国人選手ができていることを理解し、生かしていくべきだと思います」

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