【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ホドリゲス✖フレムド「意識レベル」
MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。
武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは間、質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。
武術的観点に立って見たグレゴリー・ホドリゲス✖ジョシュア・フレムドとは?!
──今回の試合もジョシュア・フレムドは以前、ブルーノ・オリヴェイラと対戦して「勝つという気持ちで優り、技量や質量を跳ね返した」とこの項で取り上げられた選手なのですが、今回はグレゴリー・ホドリゲスに成すすべなく敗れました。
「ホドリゲスはしっかりと打撃が見えています。フレムドは基本ジャブ、ワンツーで前に出ていきます。対してホドリゲスは少し距離を取って、下がりながら対処をします。これは腹が据わっていて打撃でやり取りする自信がないと出来ない行為です。ホドリゲスの打撃は独特で、スッと距離が詰まります。そこからワンツー、スリー、フォーと打つ。アレはボクシングではないです。あんな打ち方はボクシングにはなく、あっという間にケージに追い込んでいました。ホドリゲスはボクシングのボクシングではない。
ワンツーでなく、3発、4発、5発となると凄いダンプカーが突進してくるみたいになってフレムドは下がる一方でした。そして、ビビるから頭の位置が後ろになる。そうなると、前に出ていく選手の間になります。下がっても頭が、後ろになっていない場合は意外と下がった方の間になるんですけどね。フレムドは完全にホドリゲスに制されて下がっているので、余計にパンチを効かされていました。もうセコンドも計算できたという感じでいられたと思います。あの状態では、もうフレムドのパンチは当たりはしないです」
──フレムドは組みついても押し込めず逆に押し込まれヒザ、エルボーを被弾しました。前の対戦相手のオリヴェイラは漫然と攻めていた。そこで左フックを当てることができましたが、ホドリゲスはビジョンを持って戦っていたのでそういう反撃もできなかったということですか。
「見えていますからね。ちゃんと見えていて、見ている。ホドリゲスは精神的にも慌てていないです。特別なこともせず、フレムドの隙に対して入ってパンチを入れた。フレムドは入られていても、対応も反応もなく倒されました。作戦とかではなく、自分のやるべきことをホドリゲスはしていたのでしょうね。ホドリゲスが所属しているサンフォードMMAでは、試合はパンチを被弾するもの。そういうものだと理解しているうえで、もらわないで入ることを考えて打撃を練習しているのではないかと思いました。
今回の試合に関しては、ホドリゲスはもうオイシイというぐらい差がありましたね。ただし彼も想定しないといけないのは、『ここでやられると、どうしよう?』、『これ、やって来るんじゃないか』ということです。良いパンチを打った時には、もう危機が始まっている。だから良いパンチを打ったら、2、3と当たり前のように攻撃を続けるということを普段からやっておかないと、UFCで戦うのは不可能だということです。
フレムドでいうと、ビジョンのないオリヴェイラには勝ちましたが、ホドリゲスにはそうはいかなかった。前回の勝利後に、自分をどう見つめ直していたのか──ということですね。それはホドリゲスにもいえます。技術レベルでなく、意識レベルの差が今回は出ていたと思います。フレムドはLFAでチャンピオンになり、UFCに行けたら良いなというぐらいで戦っていたように映りました。
でもホドリゲスはUFCに絶対に行くという気持ちでいたはずです。サンフォードMMAという誰もがUFCを目指す場所で練習している。能力レベルでなく、意識レベル。ここが一番難しいところなんです。ゴング格闘技のインタビューを読ませていただき、佐藤天選手がUFCで1勝して『夢が叶ったね』と言われると腹が立ったと話していましたね」
──ハイ。
「きっと佐藤選手が最も幸せになる瞬間は、UFCのウェルター級チャンピオンになった時でしょう。そこを想定して生きているように感じます。そして自分の意識レベルと、ウスマンの意識レベルの差が分かっている。サンフォードMMAにいるとそれが分かり、日本にいるとそういう意識レベルがボケやるということを彼は言っているのだと思います。素晴らしいことです。
佐藤選手はウスマンやサンフォードMMAの選手の意識レベルでやれば、自分も上まで行けると信じているはずです。これは本当に大切で、大変なことに気付いている。能力の差は補えるけど、この意識レベルの差を補うのは本当に難しいです。だから佐藤選手はフロリダに行ったのでしょうね。
つまりホドリゲスはそういう環境にいて、フレムドはそうではなかった。質量ではなく、意識レベルです。そして意識レベルの差は、質量に表れます。『どこまで深刻なのですか』という部分で、ホドリゲスとフレムドは違っていたんです」