【Special】月刊、青木真也のこの一番:6月─その壱─ジム・ミラー✖ルーズベルト・ロバーツ
【写真】ファイターが認めるファイター。これは一番の誉め言葉だろう (C) Zuffa / UFC
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年6月の一番、第一弾は20日に行われたUFC ESPN11からジム・ミラー✖ルーズベルト・ロバーツの一戦を、青木の近況説明後に語らおう。
──青木選手、今回は試合の話にいくまでに現状を少し聞かせてください。4月のRoad to ONE02の世羅選手との試合移行、最近は解説やジャッジ、仕掛け人での活躍はありましたが、MMAの活動の方はどのようなものでしょうか。
「格闘技に関しては何か、今は動かないと思っちゃっていますね」
──格闘技に関してはということは、格闘技以外は動いているということですか。
「プロレスなんかは無観客とか、後楽園ホールで500人の集客でも成り立たせることができるじゃないですか。チケットが6000円で500人入ると、300万のチケット収入があり、会場費とか放映料とか考えても回っちゃうんです。
それに僕も無観客とか放映料がないからギャラを下げてくださいっていうのがあっても、全て通していますしね」
──でもMMAはそういうわけにはいかないのではないですか。
「あっ、僕はもうソコも全然OKになっちゃっています」
──それでも一定のラインが存在しませんか、ファイトマネーに関しては。
「う~ん、そこですら抜けてしまっていますけどね」
──自分としては青木選手のファイトマネーに関しては、守って欲しい最低基準は持っていてほしいです。
「もちろん、そこもあるんです。僕がファイトマネーの減額を構わないと思っても、『青木ですら』という風にプロモーター側が持ちかけると、回りに影響が出てしまうじゃないですか。そうなると市場が崩壊してしまいますからね。そこは大事にしないといけない部分でもあります」
──その通りですね。でも、試合はしたいというのが選手であり、プロモーターも現状を乗り切る必要がある。
「いやぁ、難しいですよ。そこは……」
──この話題はまた別の機会に是非ともお聞かせください。
「ハイ、そうですよね……今月の一番をピックしないと、ですね」
──はい、2020年6月度の青木真也が選ぶ、この一番。最初の試合は?
「ジム・ミラー✖ルーズベルト・ロバーツです」
──おっ、ジム・ミラーですか。それは青木選手のミラー評が楽しみです。
「実際、この試合がどうこうではなくて……もうレコードがバケモノですよ。UFCに2008年からいて、最初は余り期待されたマッチアップはされていなかった。僕が注目し始めたのは、マーク・ボセックに勝った時かなぁ。ボセックって柔術好きにはたまらない選手で。ボセックに勝つって、相当強いんです。そうしたらチバウに勝って、その次にシャーウス・オリヴェイラにヒザ十字で一本勝ちしたんですよ。
そこからカマル・シャロルスをTKOして。僕がシャロルスと戦う前に、彼を研究するためにミラーの試合をチェックしましたね。それからベンソン・ヘンダーソンに負けて、でもメルヴィン・ギラードに勝って、で、次にネイト・ディアズに負ける」
──いやぁ、とんでもない相手と戦い続けていますよ。それは……えげつない。
「でもパット・ヒーリーに負けた時に、少し落ちてきたかなって」
──勝ったヒーリーが、マリファナで引っ掛かりNCになった試合ですね。
「そうです、そうです。パット・ヒーリーも強かったですよねぇ。Strikeforceから来て、出場停止が明けた後も厳しい相手を当てられて切られてしまいましたけど……。
ジム・ミラーはとにかく戦績が凄いですよ。相手も半端ないし」
──ドナルド・セラーニと並ぶUFCで35試合。しかも、セラーニと違い主役ではないですからね。
「セラーニの試合って、メインを張ってファン受けしUFCから気に入られる。それとジム・ミラーがずっとUFCで戦うのは僕のなかでは違っていて。だって、ずっと脇役ですよ。打撃系じゃないのにファイト・オブ・ザ・ナイトを5試合とか獲っているし。
ジョー・ローゾンとジム・ミラーって、だからダブります。なんだろう……、とにかくジム・ミラーは凄いです。UFCでこれだけ長い間戦ってきて、頑丈そうだけど壊れている部分もあるだろうし……ジョー・ローゾンほど壊れていないとはいえ。
3年前とかも、ダスティン・ポイエー戦からダン・フッカー戦まで4連敗して、そのなかにはアンソニー・ペティス戦もある。いや、やっぱりもう凄いって言うしかないですよ。それでも戦い続けることができているのは、コンディションが良いのでしょうね。
それとちゃんとサブミッションを取っている。18試合ぐらいで一本勝ちして……彼は選手がリスペクトする選手。ミュージシャンズ・ミュージシャンってあるじゃないですか、ミュージシャンが認めたミュージシャン。歌や演奏が上手い、売り上げじゃなくて。
そこでいえばジム・ミラーはファイターズ・ファイターです。選手が認める選手ですよ。今では今回の相手のようにコンテンダーシリーズから上がってきた選手と戦い、普通に腕十字で一本勝ちする。ちゃんと取れている」
──常にUFCライト級戦線のワキを固めてきたようなキャリアですね。
「その選手の居場所があるのも、またUFCで。脇役でもスターです。きっと、そこそこのファイトマネーを貰えますよね。これだけ戦い続けていると」
──このルーズベルト戦は、勝利ボーナスも含めて20万8000ドルという資料があります。
「10万ドル&10万ドルかぁ。そこはUFCの凄さであり、回転の速いUFCでここまで残っているジム・ミラーの凄さです。この試合で、また生き残れましたし。それに他のプロモーションだったらチャンピオン級の実力者であることも間違いないですからね」