【Special】月刊、青木真也のこの一番:5月─その壱─ジャスティン・ゲイジー✖トニー・ファーガソン
【写真】青木の好きだったゲイジーは、このゲイジーではなかった?! (C) Zuffa / UFC
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年5月の一番、第一弾は9日に行われたUFC249からジャスティン・ゲイジー✖トニー・ファーガソンの一戦を語らおう。
──2020年5月度、世界的見るとUFCが4大会、そして日本で修斗、韓国でARCが行われました。そのなかで青木真也が選ぶ、この一番。最初の試合は?
「ジャスティン・ゲイジー✖トニー・ファーガソンですね。UFCがあれだけ大会をやっても、米国中心なので印象がやや薄い感じがしてしまって。そして、このPPV大会ではこれまでと比較して、ゲイジー✖ファーガソン戦、ヘンリー・セフード✖ドミニク・クルーズ戦と揃ってストップが早かったと思います。
ゲイジーの試合に関しては、本来はタイミングもジャストで良いストップでした。でも、倒れていない。だから観客がいたら続いていたんじゃないかと。セフードとドミニクも歓声があったら、もう少し見ただろうなって。レフェリーも人の子なので、観客がいると見ちゃうと思います。
と同時に盛り上がるが欠けるなかで、客の声に影響されないから判定が割れないのかとも感じました。ONEのフィリピン大会みたいなことはないですよね。無観客はデメリットとメリットがあり、デメリットの方が多いですが、ジャッジが目の前のコトに集中できるメリットがあることが分かりました」
──逆にマイクアピールは味気ないですね。
「無理ですよね。客がいないのにマイクは。そのなかで、あのセフードの空気の読まなさは凄いです。あの場で引退を言ってしまう。アレはちょっと壊れていますよ。良くも悪くも」
──試合内容についてはどのように思いましたか。
「試合前はワンサイドでファーガソンかと思っていたのですが、ゲイジーの圧力を侮るとダメだ……格闘技だなって」
──攻めすぎることはないスマートさが出ていました。
「それでもローをパカパカ蹴っていましたけど、お前のスネは大丈夫かって思いました(笑)。あれだけ蹴っていたら、ファーガソンはチェックもするし、自分のスネが痛いときもあるはずです。特にカーフキックとかでは……どうしちゃったんだって。ムエタイだと相手がカットしてくると、危ないから緩めたりするけど、ゲイジーは全くなかった。
そういう攻防も、も客の声がないからパンパンやっていたとしても──悪く言うとスパーリングのようにも見えてしまいます」
──と同時にファーガソンがあそこまで、一方的にやられるとは思いもしませんでした。要因はどこにあったと思いますか。
「タッチボクシングが凄くて距離感が良い、攻撃を貰わない選手なのでゲイジーは触ることができないと予想していたんです。それが思った以上に、ずっと近い距離で試合が展開されましたよね」
──ファーガソンは、ヌルマゴメドフ戦が流れた影響は心身ともになかったでしょうか。
「それは当然あります。ファーガソンはずっとヌルマゴドフとやる予定で、ゲイジーに変わってしまった。さらに試合の日程も変わった。体重のこともあるだろうし、もう体のフレッシュさがなかったかもしれないです。ゲイジーの方がフレッシュで。こういう違いっていうのは、選手にしか分からないところかもしれないです。まぁファーガソンは運がなかったですね」
──しかし、ゲイジーがUFCで世界王者になるファイターという風には正直なところ見ていなかったです。「いやっ、本当にそうなんですよ。僕らがゲイジー論を語ると超面白い、普通じゃないって話で。ブライアン・コップをローで蹴りまくって勝った。
ルイス・パロミーノと意味不明な殴り合いをした。 体重オーバーのメルヴィン・ギラードに分の悪いスプリット判定勝ちだった。そういうことだったわけじゃないですか?」──だからUFCではエディ・アルバレスとダスティン・ポイエーに殴り負けたと。
「そこから3試合連続で1RKO勝ちをしちゃって、謎でしたよね。嫌らしいのはチャンピオンシップだと、勝ちに来たってことです。強烈な打ち合いじゃないし、テイクダウンのフェイクまで入れて。なんか面白さがなくなりましたよ」
──アハハハハ。
「なんだろうなぁ。ゲイジーは休憩明けとかで『OK、KO』みたいな」
──それは俺だけのゲイジーが、皆のゲイジーになってしまったという感じではないですか(笑)。
「そうなんですよ。WSOFでギャアギャアやっていた時のゲイジーが一番面白かった。メインストリームにいない価値というのか。この試合ではスマートになっちゃいました。エディ・アルバレスとかもUFCに来たらスマートになっていましたし、UFCのレベルがそうさせるんでしょうね。そういうゲイジーになったのだろうけど、だからって次にガビブ・ヌルマゴメドフとかっていう想いを馳せることができないんですよ」
──ゲイジー✖ヌルマゴメドフは楽しみではない?
「勝負論まで行き着かない。ヌルマゴ先生には敵わない。それならファーガソンの方が、何ができたと思います。だから、ゲイジーのことを穿って見ているのかもしれないですね」
──ゲイジーのレスリング力が真価を発揮するかもと思います。
「いやぁ、でもヌルマゴメドフは誰でもテイクダウンしますよ。だから、テイクダウンの攻防を楽しみにしたいのは分かりますが、ヌルマゴメドフは抜けすぎています。それならゲイジーはマクレガーかな。マクレガーとは見たいです。お祭りファイトなら、そっちの方が良いです」