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【Special】月刊、青木真也のこの一番:2月─その弐─中島太一✖フェドロフ「ボディロック&襷掛け」

Pancrase312【写真】ボディロックの攻防を改めて、振り返ると──MMAの妙をまた感じることができる (C) KEISUKE TAKAZAWA/MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年2月の一番、第2 弾は16日に開催されたPancrase312から中島太一✖ボリス・フェドロフの一戦を語らおう。


──2月の青木真也が選ぶ、この一番。2試合目は?

「パンクラスであった中島太一とボリス・フェドロフですね。中島の試合は技術体系的に凄く面白いです。まずストライキングをやりたいという傾向があったけど、彼の一番の強みはクリンチからテイクダウンだと思います。

そういう戦いで田村一聖選手に勝ったりして。ACBでは相手が悪くてアルマン・オスパノフにソバットを食らったり、レコード自体は綺麗じゃないけど、力があることは確かなんです。実際スプリットで負けたり、勝ち星に恵まれていない部分もあったけど、ロータス世田谷の所属になって八隅(孝平)さんがセコンドに就くことで、ファイトスタイルも少し変わってきました。凄く良くなっています」

──ロータスではグラップリング練習を一緒にすることなどありますか。

「いや、僕らとどうこうっていうのはなくて、八隅さんに師事している感じで。それでも僕と八隅さんの中島に関する見立てが同じなんです」

──その見立てというのが、クリンチとテイクダウンだということですか。

「ハイ。ただし彼はボディロックなんです。ボディロックはどこまでいってもボディロックでしかない。テイクダウンはできても、フィニッシュに至らない。ボディロックにいく、バックにいく、立たれる。それをずっと繰り返す、無限ループになります」

──ハイ。

「そもそもボディロックって目的ではなくて、手段なんです。ボディロックし、テイクダウン。ボディロックし、パスガード。ボディロックし、バックとってフィニッシュ。そのための手段です。

ただし中島の場合はボディロックが最終目的になっているので、しんどい試合になるんですよ」

──そこが八隅さんを師事することで、変化は見られるのでしょうか。

「それが八隅さん曰く『フィニッシュがあれば取れるよね。でも、フィニッシュがないから仕方ないやん』って」

──仕方ないやん(笑)。放任主義ですね。

「ハイ、そうなっちゃうんです(笑)。『フィニッシュは必要だよね』っていうところに落ち着いちゃうんですけど、そのままで(笑)。

でも、それが良いんだと思います。僕はそこで教え過ぎるから、それは決して選手のためになるとは限らない。八隅さんは選手の良いところを本当に見ているから、あれこれ教えたがらない」

──なるほど。では中島選手はこれからもボディロックで勝利を目指し続けると。青木選手もボディロックは非常に研究していましたよね?

「ハイ。ボディロックは襷掛けより、コントロールできます。そういう教え方を僕もしていました。でも、それは一長一短なんです。襷ができる人間がボディロックをするから良いということで、襷ができていないとボディロックで終わる。

バックコントロールになるとボディロックは、コントロールが弱い。そこは襷掛けと連動させないといけない。例えば岩本(健汰)選手とグラップリングのスパーをしていて、バックからボディロックだと前転され2人で回る。そこから極まらない足関節の攻防になり、最後はスクランブルから離れるっていう展開が続きます。

そこを止めるには、次の技術のターンとしては襷掛けに戻ることになると思うんです」

──なるほど!! 一周回ってという、MMAの技術変遷がまた起きるのですね。

「スクランブル時代の前は襷掛けでした。でも、それだとスクランブルで逃げられてしまうからボディロックが必要になった。そうしたら、前転されてしまうから襷も要る。そういうことなんじゃないかと」

──では中島選手も襷掛けを取り入れるべきだと。

「理想論ではそうです。襷にならないとフィニッシュできないので。今回の試合は、相手が無名のロシア人だからあまり伝わらない部分がありますが、中島は日本人相手に戦っているなら、ボディロックで大丈夫です。それで勝てます。ただし、そこから上を狙うにはフィニッシュを取って、評価を高める必要がありますよね。

ボディロックで疲弊させているので、フィニッシュにも行ける。半面、フィニッシュがないと相手が分かると、ボディロックからのコントロールでも余裕を持たれてしまいます」

──ただし、八隅さんはそこを求めてないと?

「ハイ。フィニッシュに行くことが、勝つために絶対じゃない。それは人それぞれ。でも、僕はフィニッシュにいけってしてしまうから……。バックで足をフックして──と教えてしまう。そうすると彼の良さが死んでしまうかもしれない。

それをやる僕はあくまでも技術者で、そうじゃない八隅さんは指導者なんです」

──いやぁ、面白いですっ!!

「ですよね(笑)」

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