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【AJJC2016】ルースター級出場、芝本幸司<01>「一番という評価は嬉しいですが、余裕はありません」

Koji Shibamoto【写真】ワールドクラスという言い方を用いるなら、芝本こそ日本柔術史におけるベストのワールドクラス柔術家だ (C)TURTLE SPRING

10&11日(土・日)に東京都足立区の東京武道館で国際ブラジリアン柔術連盟=IBJJF主催のアジア柔術選手権2016(Asian Jiu-Jitsu Championship 2016)が開催される。

世界と伍する、ワールド・ベストに肉薄する芝本幸司はアジア4連覇中。5連覇が掛かった今大会前に全日本でも5連覇を達成している。

全日本への想い入れとアジアへの意気込みを尋ねた。


――7月24日に開催された全日本選手権では、2試合を制し優勝。全日本5連覇を果たしました。国際的な実績も踏まえ、芝本選手の優勝が確実視されていたトーナメントだったと思います。ムンジアルから1カ月後、この全日本にどのようなモチベーションをもって臨んでいたのでしょうか。

「全日本へのモチベーションは、二つあります。一つは――これはいつも言っていることなんですが、次の世界選手権に向け、自分は日本で一番強いんだと自信を持って柔術に挑みたい。そこで毎年、全日本は新たな1年のスタートに置いています」

――はい。

「もう一つ、全日本はアジア選手権、ヨーロピアン、パンといった国際大会とは別の意味で重要視しています。私にとっては、世界選手権が最大の目標です。しかし、日本人として日本で柔術をやっている以上、全日本選手権というのは私のなかでも一つのステータスでもあるんです。

たとえ他の国際大会で勝てなくなる――つまりポイントが得られず世界選手権に出られなくなる時が来たとしても、1回でも多く全日本は優勝したいし、出場し続けたいと思っています。私は国内の大会に出ていないイメージを持たれていた時期もあったのですが、全日本だけはずっと出続けていましたから」

――芝本選手が国内の大会に出ていない……そういったイメージがあったのですか。

「そうなんです。ドゥマウさんをはじめ、JBJJF以外の大会に黒帯がたくさん出場し、盛り上がっていた時期に、私がそれらの大会に出ていなかったので、どうしても私が国内の試合に出ていないイメージがついてしまったのかもしれません。ただ全日本は出ていました。たとえ開催が世界選手権の直後であっても」

――そういえば2014年はムンジアルが6月1日まで行われ、全日本は6月22日に開催。インターバルは約3週間……まさにムンジアル直後でした。

「それでも私の中では世界選手権と全日本が二本柱であり、はずせない大会だったので出場しています(結果はルースター級優勝)」

――あの時は、3週間後の開催であったにも関わらず、ムンジアルに出場したメンバーの多くが全日本にもエントリーしていました。

「はい。最近はそうして全日本が盛り上がっています。日本の柔術のレベルが上がっていくためにも、強い選手が揃い、日本一を争うことは大切だと思うんです。皆さんが全日本に出場するのは、本当に良いことですよね」

――芝本選手はムンジアルの準々決勝でカイオ・テハに敗れ、直後のインタビューで「何か大きく自分の中で変えていかないといけないモノがある」と語っていました。今回の全日本は、その「何か」が見つかったか、あるいは気持ちを切り替えて挑むことができたのでしょうか。

「……なんて言うのでしょうか。あのカイオ・テハとの試合自体が、私の実力を押し上げてくれている。どうやったら世界選手権で優勝できるのか、ということとは別の意味合いで、柔術家として成長するための経験を積めたと思っています。

その経験を踏まえ、全日本でどのような試合ができるのか。去年の全日本に出た時の自分とは、また一皮違うはずです。それを確認したかった、という気持ちはありました」

――今回の全日本を振り返ると、試合内容は2試合とも圧倒的でした。

「自分のイメージ通りの試合ができました。世界選手権で試合をする時も、全日本の1回戦で試合をする時も、気持ちにムラが出てしまったり、相手によって心理的な部分で何か変わってしまうことがないように――。

逆を言えば、世界選手権で世界王者と戦う時であっても、同じような気持ちで戦えるように。今回はそんな精神面を課題にして取り組んでいたので、1回戦はすごく冷静に戦えたと思います」

――精神面、ですか。ゴング格闘技誌上では、全日本の前にメンデス兄弟との対談でメンタル面のアドバイスを受けていました。「試合では相手に対する敬意はいらない」と。そのメンデス兄弟からのアドバイスは大きかったですか。

芝本ですら、何気に上気しているように感じる。それがメンデス兄弟の貫禄か(C)MMAPLANET

芝本ですら、何気に上気しているように感じる。それがメンデス兄弟の貫禄か(C)MMAPLANET

「そうですね。今回はあのアドバイスの内容にフォーカスしました。メンデス兄弟からアドバイスをもらった“無心の状態”です。平常心、と言えるかもしれません。試合中もそうですし、次の試合を待っている時の心理状態にしても、やはり実際に試合に出なければ経験できない部分じゃないですか。

決してイメージだけでは片づけられない。試合会場の雰囲気、トーナメントの組み合わせなど、いろんな要素があるために、試合でも気持ちが揺れ動く。その精神的な部分を、実際の試合の中で、どれだけコントロールできるのか。実戦で試さないといけない、という想いはありました」

――これまで幾多の国際大会を経験している芝本選手でも、試合のたびにそれだけ気持ちが揺れ動くものなのですか。

「試合って、選手に合わせてスケジューリングされているわけではないですよね」

――はい。大会日程が発表され、選手がその日程に合わせて調整します。

「たとえば去年の全日本は、試合の直前にヒザを怪我してしまったんです。試合ができるか、できないか――という状態でした。しかし全日本の日程が変わるわけではなく、私が全日本のスケジュールに合わせて調整しなければいけない。その意味で条件は常に一定ではないし、自分にとってベストな状態で試合に臨めるわけではない以上、気持ちの揺れ動きというのは必ずあると思います」

――確かに。

「そうして、実力以外の部分でも色んな要素を抱えて試合を迎えるわけなので、その年のチャンピオンは、やはりその年のトーナメントに出て、実際に戦わないと決められないと思います。

『実績的に芝本が一番だろう』と言われていても、その評価は凄く嬉しいのですが、やはりそれは予想に過ぎません。本当に私が一番であることを試合に出て証明しなければいけませんし、証明することのプレッシャーも当然あります」

――……。

「私は道場で指導もしていて、会員さんも応援してくださる方も、たくさんいます。自分の中だけで何かを投げやりに済ませることはできない。周りの方々から期待をいただいていますし、自分自身も期待しています。これからの柔術人生に。皆さんが『芝本が勝つだろう』と思ってくださるのは、本当に嬉しいです。しかし、私自身にそんな余裕はありません」

――その芝本選手にとって、アジア選手権とはどのような大会といえるのでしょうか。

「例えばブルーノ・マルファシーニやカイオ・テハと比較した時、私は圧倒的に経験が少ないと思うんです。大きな大会の決勝で、お互いが緊迫した状態のなか、アドバンテージ一つを争うような試合の経験を積むために抑えておかなくてはならない大会を、全日本、アジア、ヨーロッパ、パンと決めています。

一方で全日本はポイントがつかない以上、アジアはしっかりと抑えておきたい、世界選手権に出場する権利を得るための大会です」

<この項、続く>

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