【JBJJF】九州柔術オープン 鹿児島の柔術界をリードする上谷田幸一「道場は皆が強くなるために存在する」
【写真】昨年の九州オープン時のチーム鹿児島の集合写真 (C)KOICHI KOMITANIDA
15日(日)、鹿児島県にある鹿児島アリーナで日本ブラジリアン柔術連盟(JBJJF)主催の「第10回九州柔術オープントーナメント」が開催される。
鹿児島県で開催される貴重な大会に出場するのは、ねわざワールド桜島&がらっぱ柔術の顧問を務める上谷田幸一。ワールドマスターを2連覇中の鹿児島柔術会の――59歳のリーダーが、大会への思いと柔術界の理想像を語る。
Text by Takao Matsui
――上谷田選手は鹿児島のレジェンドという印象が強いですが、もともとの練習拠点はねわざワールド桜島ですか。
「練習拠点は、チーム鹿児島です(笑)。自分は、鹿児島にねわざワールドを13年前に立ち上げて、その後もがらっぱ柔術を創設して全て代表の座を譲り、今は顧問という立場になっています。最初は鹿児島に黒帯が自分しかいなかったのですが、ここ5年くらいで6人になりました。道場も数えたら12まで増えて、とても感慨深いです。
トラスト柔術アカデミーができた10年前にも、生田堅固先生とよく話をしましたが、鹿児島は決して閉鎖的にならずに仲間みんなで応援していきましょうという流れができまして、それは今でも継続しています。
だから、鹿児島はどこのアカデミーでも自由に練習ができます。これから先、門外不出の技術を大事にするアカデミーが進出してきたらどうなるかは分かりませんが、そこは自由に交流ができるようにお願いをしに行こうと思っています」
――大会に出場するときの所属はどうなるのですか。
「所属は各アカデミーになります。でも、練習は自由です。自分も費用を払って様々なアカデミーで汗を流しています」
――各アカデミーで月会費の支払っていると、かなりの高額になってしまいませんか。
「ねわざワールドは、会員が一日300円です。会員以外だと500円になります。あとは、ご指摘のように練習費用はアカデミーごとに違いますので、一日いくらとか日割りで払うこともあります。トラスト柔術アカデミーは月謝制なので、自分は1回1000円を払っています」
――では、トラストの選手はアカデミーへ月謝を払い、さらにねわざワールドで1回500円の練習費を払うと。
「単純に計算すると、そうなります。でも、どこで練習をするのかは自由ですし、強制されるものではないですから。料金的なことでいえば、鹿児島県武道館で開催されている昼柔術は無料です。誰でも参加自由ですし、やりたい人が集まっています」――小さい損得論ではなく、鹿児島の底上げのための大義があるわけですね。大河ドラマの西郷ドンではないですけど、ロマンを感じます。
「道場は、なんのためにあるのかと言えば、皆が強くなるために存在しています。ならば、できるだけオープンになった方が全体の力は上がっていくと思います。そのためのチーム鹿児島です。みんな仲が良いですし、飲み会とか垣根を取り払って参加しています。県外の人に、その話をすると羨ましがられますね」
――大会ではライバルになると思いますので、技術を隠したがる選手もいるのでは。
「もちろん、そういう選手もいるでしょう。でも自分の考えだけかもしれませんが、技術を公表することによって、さらに上のレベルに行けるような気がします。人間は向上心がありますし、そこまでのレベルに達した選手ならば、可能性はたくさんあると思います。
カイオ・テハもオンラインテクニック講座で、惜しげもなく披露していますよね。自分自身が向上するだけではなく、全体の底上げにつながっていると思うんです。互いに高め合ってこそ、技術レベルは飛躍的に向上していくと信じています」
――実証されてきた方の言葉は、説得力がありますね。上谷田選手は、昨年、一昨年とワールドマスターで世界一になっています。なぜ、九州オープンに出場されているのでしょうか。
「基本的にIBJJFの主催大会がメインです。ワールド、パンナム、ヨーロピアン、インターアジアと、最高峰の大会やポイントが獲得できる大会に絞って出場しています。昨年は世界ランキングが3位で、優勝して2位になりました。最初はパンで2位になり、40位にランキング。そこから16位に上がった時は意識して、大会に出場するようになりました。
でも、九州オープンは鹿児島で開催される特別な大会なんです。福岡、北九州、大分、鳥栖などで大会が開催されることもありますが、車で数時間かかりますからね。鹿児島で開催する九州オープンを盛り上げたいと思っています」
――ただ今年は、出場選手が少ないようですね。
「そうなんです。残念ですが、大会やセミナーが重なってしまったようですね。トライフォースの選手は、ちょうど芝本幸司選手のセミナーがあるようで、断念されたと聞きました。前回は120名くらいの選手が出場していたんですけど、今回は80名くらいですかね」
――第一人者としては、もっと盛り上げなければいけないという気持ちが強いでことでしょう。
「それはありますね。チーム鹿児島を最高のチームにするために、地元を盛り上げていきたいです。自分はもう歳なので、IBJJFの大会は旅行も兼ねていますし、鹿児島を盛り上げて行くためにも後継者をつくっていかなければいけません。みんなが柔術をやりやすい環境を創っていきたいです」
――ご自身の柔術家としての目標は、どこに設定しているのでしょうか。
「まだまだ学ぶことは多いですからね。青帯の若い選手に技術を学ぶこともありますし。柔術のテクニックは日進月歩なので、終わりなき世界で楽しいですよ。
競技としては、ワールドの階級別では優勝したので、オープンで勝ちたいです。準優勝した時は、2秒で試合が終わりました。自分よりも大きな選手が相手だったんですが、投げられるのが嫌だったようで飛びついてきたんです。ヒザの上に乗っかってきて、足が反対に曲がって続行できませんでした。あれは、悔しかったですね」
――オープンへ拘るのは?
「小さい人が大きい人に勝つのは、カッコ良いじゃないですか。海外だと、大きな選手を投げに行った試合を見て、敗者になっても握手を求めてくる観客がいました。なんか、いいなと思いまして」
――競技柔術からの引退を考えることはありませんか。
「できるまで、体が動くまで続けたいですね。自分は柔術を始めたのが45歳で、黒帯になったのは54歳です。ヒクソン・グレイシーと同い年なんですよ。黒帯の選手と一緒に歳をとっていくので、マスターのレベルが上がって新設されていきます(笑)。
なかなか対戦相手を探すのが大変なんですけど、がんばります。今があるのは、大賀(幹夫)先生と出会えたからです。その事に感謝して、自由な柔術を……フランクな柔術を目指されている大賀先生のお力になるように励んでいきたいと思います!」