【Special】月刊、青木真也のこの一番:7月編─その参─住村竜市朗×長谷川賢―02―「努力と運で勝利した」
【写真】この試合をきっかけに青木はJ-MMAの問題点、そしてMMAを見る楽しさについて自論を展開。参考になる意見も多々あった(C)TAKUMI NAKAMURA
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ7月の一戦=その参(後編)は7月15日のDEEP CAGE IMPACTから住村竜市朗×長谷川賢を起点にJ-MMAを語らおう。
格闘技マスコミの在り方に言及した青木、日本のMMA界に立ち入っていないとした彼の意見に我々は耳を傾けるべきだろう。
<青木真也のJ-MMA論Part.01はコチラから>
■『しっかりとした記事がないのも、格闘技界にとっては危ういということ』
――コタツ記事?
「取材もしないでネットで調べて書く記事ですよ。取材していないだろ――この記事っていうのが氾濫している。あんなの俺から言わせればWELQとかと同じですよ」
――いやぁ、頭が痛い話です。
「物理的に無理なことがあっても、やっぱり自分で思ったことを書けば良いじゃないですか。記者会見がありました。リリースが届きましたっていう報告ばかり。コタツ記事ですよ」
――それぞれの媒体はそれぞれの事情があるのですが、しっかりと心に受け止めたいと思います。
「しっかりとした記事がないのも、格闘技界にとっては危ういということなんです。同時に批判記事だろうが、団体側も選手も触ってもらえるうちが花って思わないと。もう触れられなくなったら最後です。終わり。そうなると無関心ですからね。リリースがそのまま乗る、それは無関心に近づいているし、記者としてプライドがないのかって」
――……。
「PV数競争のために記事数を増やす、格闘技ライターというか格闘技記者としてのプライドはないのか、と」
――私個人のことでいえば、これが自分の職業なのでプライド云々以前に自分の好きなことを伝える。そこをいかにビジネスとして成り立たせるのかという葛藤はあります。PV数勝負をするつもりではなくても、もっと読んでほしいという気持ちは持ち続けていますしね。
「それは、コレをやっているってことに通じると思いますよ。自分が書いていることは最高なんだという信念がないって、それはどうなんだろうって」
――それだけの気持ちをもって戦っている選手に対して、メディアの方が追い付けていない。いや、正直なところMMAPLANET批判なら、ここでしてもらって自分も自分の責任において活字化することは大丈夫なのですが、格闘技マスコミ全般になると、やはり腰が引けるわけです。
「もっと触ってくれよと。格闘技ライターとして名前が立つ記事を書けよと。選手だってそうですよ、名前を立たせるために努力している。だから村上春樹的にいえば文化的雪かき。誰かがやらないといけないのだろうけど、格闘技マスコミは雪かき以下」
――……。満員電車に乗らないでいられる生活を選んだ。なら、しっかりと考えないといけないです……。ぐうの音も出ません。
「反論されても良い、構わない。それぐらいの存在感のある記事を格闘技マスコミにも書いてほしいです。まぁ、住村×長谷川に話を戻しましょう(笑)」
――……。
「あの試合に関しては長谷川陣営が頭突きだったとアピールするのも疑問なんですよ。お前、頭突きも含めてぶっ倒されたんぞって。これは岸本とトム・サントスの試合と同じで、僕の中では長谷川は喧嘩で負けた。ジャッジが3-0で負けと言ったんだから負けなんですよ」
――長谷川選手陣営はあの試合の裁定をノーコンテストにするということでなく、UFCに対して頭突きがありました。その結果なのです、というアピールではないでしょうか。
「そうですね。パンチではなくて、頭突きがあったんだよっていうね。一つ残念なのはそのことばかりが注目されて、住村の勝利の印象が薄らいでいる。あの勝利は住村が頑張ってきた結果なのに。
住村が結果、トーナメントで一番。で、長谷川は頭突きがあったって文句を言うんじゃなくて、『もう一丁』っていう気持ちをこれにぶつけてほしい。こういうことになったんだから、自分の強さを一番アピールできる方法はもう一度戦って、勝つことしかない。
その気がないなら、MMAなんて戦えない。僕は判定に対して文句は言わないですから。長谷川だって、DEEPというプロモーションで戦っていることを理解して戦ったんだろう?ということなんです」
■『楽しむっていう観点からいえば――』
――青木選手はJ-MMAのからくりのなかで戦う時は、そのやり方に従ってきたではないですか。今はそうでないので、D日本のMMAに対してスポーツ性を求めるということなのでしょうか。
「一つは僕は僕で、DEEPに尽くしてきたというのがあります。だから、言っちゃうよと。前の話でいうと無関心ではないわけです。
別に偉そうにJ-MMAの脆さ、危うさに対して警鐘を打ち鳴らすなんてつもりじゃないです。体重差のある試合も仕事だったらやってきました。これからも、仕事だったらやります。
でも、今の立ち位置はそこにない。利害関係の外にいます。国内でやっていると、国内のプロモーションを批判できないじゃないですか。何かしら絡み合っているので。でも、僕は絡み合っていないから、面白くないものは面白くないって公言できるので。
逆も然りで。23日の修斗の後楽園ホール大会とか、満員御礼っていう大会じゃなかったですけど、佐藤将光がルーベン・デュランに勝った試合とか、本当に面白かった。大会自体も良かったですよ。だからってね、その日の午前中にストリーミングでチェックできたUFCと技術を比較しちゃうと、そうならない」
――私事になるのですが、青木選手が言った通りの状態でした。まずケージレスリング、スクランブルの展開になると、UFCの選手の仕掛け、後楽園ホール大会に出ていた選手の仕掛け、その引き出しの数の差がずばり文字量の差になった。そこに恐怖を感じたのです。
「それは仕事柄、海外も日本のMMAにも絡み合っているからですよね。強さを求めるのとは別に、楽しむっていう観点からいえばUFCと修斗に出ている選手の技術を比較してしまうと……、サッカーでも英国やスペイン、ヨーロッパのトップリーグしか楽しめないって話になる。
分かりますよ、危機感っていうのは。ただし、僕はそこも立ち入っていない。それが僕の立ち位置だから。あの修斗は十分に楽しい大会でした。だから面白かったと言えるし、逆にDEEPの住村×長谷川に関しては何をやっているんだって言えるんです」
――いや、おべんちゃらでなく今日は青木選手と話していて、色々と考えさせてもらっています。
「結論として住村は彼の努力と運で勝利を手にした。だから、主催者に感謝の気持ちを持つ必要もない。勝ち取ったのは自分の力。住村には日本のしがらみに縛られることなく、騙されることなく堂々と生きていってほしい。
勝った選手に見返りがないと。住村がRiZINに出たいんだったら、出られるような業界であってほしい。勝てばUFCに出ることが決まっていた長谷川に勝った。その選手がRIZINで戦いたいなら、戦えないと。住村はそれだけのことを成し遂げたのだから。回りもそのために働きかけてあげてほしいです。
で、長谷川は長谷川でまた頑張れば良い。誰にも搾取されることなく、誰にも考えを邪魔されることなく。長谷川にも生きてほしい。以上です」