【Bu et Sports de combat】 武術空手と武道空手。西山空手の伝承者アビ・ロカーを訪ねる─番外編─
【写真】半月という型を披露してくれたアビ・ロカー師範。この型には空手の歴史、叡智が詰まっている(C)MMAPLANET
MMAと武術は同列ではない。ただし、通じている部分が確実に存在している。そして、如何に武術の叡智をMMAに落とし込むのか。AACCでMMAファイターが習う剛毅會空手──武術空手とは何なのか。さらにいえば、空手なのは何のか──を剛毅會空手・岩﨑達也宗師に尋ねる、この企画。
岩﨑氏が6月初旬にカリフォルニア州ロサンゼルスを訪問し、武術の原理・原則と戦略と戦術と競技──このパズルを埋める作業として、アビ・ロカー空手、マチダ空手という2つの空手道場を現地で訪ねた。これまでMMAPLANETでは、西山英峻先生の教えを受けたアビ・ロカー氏と岩﨑氏の武術空手&武道空手対談と掲載してきたが、ここでは番外編としてアビ先生にスティーブン・トンプソンの空手について尋ねた。
■『トンプソンはオリジナル。型には世代を超えた叡智が詰まっています』
UFCを席巻するアメリカン空手の雄、MMAで効果的な動きを見せ続けるトンプソンの空手とは? 柔術とレスリングを学び続けるアビ先生が西山空手との違いを語ってくれた。
──UFCで活躍しているスティーブン・トンプソン。米国空手、ローのないジェントルマンキックなどで活躍した彼の空手をアビ先生はどのように見ているのでしょうか。彼の空手は技術的、フィロソフィーにしても西山空手とはまるで別モノだと思います。そしてMMAで結果を残してきました。
「スティーブン・トンプソンは素晴らしいです。彼はタイミングも距離の取り方も優れている。私より上でしょう(笑)。色々な攻撃に繋がっています。ただし、その間合いは習って身に着けたものではないと思います。
2度に渡るタイロン・ウッドリーとの試合でもトンプソンは、その優れたタイミングと距離の取り方を見せていました。倒すには至らなかったですが、一つ、一つの動きを繋げて。この動きを繋げるという部分で彼は優れています」
──トンプソンのカラテをUFCで見た人は、あれこそ空手だと思いアビ先生の空手は空手だと思わない可能性もあります。UFCで勝利するということは、それだけ影響力を持っていると思います。
「彼の空手は、その空手を習いたいと思っている人達の全てが習得できるモノではないでしょう。スティーブン・トンプソンの動きは原理・原則に戻づいているものではないと私は考えます。彼はフィジカルを鍛え抜いたスーパーアスリートではないし、多くの人は彼の空手を身近に感じることができるはずです。そしてタイミングと距離で勝ってきました。
トンプソンの動きができる……生徒はいるのでしょうか。あのタイミングと間合いを指導し、それを習得できる道場生がいるなら、それは大したものです。トンプソンがあのタイミングと距離を取れるのは、素晴らしい個の才能なんです。そこが西山先生の空手との違いだと私は理解しています。
西山先生の空手は、教えを受けた人間の全てが身に着けることができるモノなのです」
──原理・原則があって、普遍だということですね。
「実際に指導を見たわけではないので断言できないですけどね。スティーブン・トンプソンの空手は、彼自身の経験から生まれた……感覚的な動きです。なので普遍性だけでなく、再現性、客観性は存在しないかと思います。あくまでも私の見立てですが、そのように思います。繰り返しますが、スティーブ・トンプソンがUFCで見せている動きは非常に素晴らしいモノです。それは間違いありません。
スティーブン・トンプソン・オリジナル……彼自身がその動きの源です。彼が培ってきた経験を生かして動く。型は逆ですね。型によって、その動きを身に着けることができ、そこから経験を積んでいくものなので。型にはそれ以前の長い歴史が詰まっています。世代を超えた叡智なのです。スティーブン・トンプソン云々ではなく、また良い悪いでもない。先人が培ってきた原理・原則を伝える術、それが型に詰まっています。そういう空手を私は西山先生が指導してもらいました」