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【JBJJF】全日本選手権展望の後で桑原、新明&安井─02─MMAと柔術を、柔術側から考える

Shinmyo, Yasui & Kuwabara【写真】話題が柔術論になっても、桑原氏はしっかりと持論を展開してくれた(C)TAKAO MATSUI

6日(日)、東京都大田区の大森スポーツセンターで、第18回全日本ブラジリアン柔術選手権が開催される。

連盟の桑原幸一理事、トライフォース柔術アカデミーの新明佑介ゼネラルマネジャー、IF-PROJECTの安井佑太代表の3氏が黎明期を振り返りつつ、今年の全日本選手権の見所を語った鼎談後編。

全日本の展望から、話題は青木発言へ。それぞれの柔術観、MMA観、格闘技観があるなかで桑原氏が熱弁を振るってくれた。
Test by Takao Matsui

<桑原幸一、新明祐介、安井佑太鼎談Part.01はコチラから>


―なるほどぉ、歴史の承認の見所は説得力もタップリです。

新明 ちなみに澤田は、今年4月に公務員を辞めて専業の柔術家になりました。

安井 それは楽しみですね。

桑原 あとは、アダルト黒帯オープンクラスですね。過去に例を見ないほど、重量級の選手が集まりました。これまでのオープンは、軽いクラスの選手も出場していましたが、ライト級の細川顕選手が体格的に小さく見えてしまうほどのメンバーです。関根選手がケガで欠場するかもしれませんが、この階級が日本一を決めるに相応しいといってもいいかもしれません。

――意外とアダルト黒帯ライト級が話題に出ませんね。

安井 ライト級は、カルペディエムの岩崎選手、細川選手の二人が抜けている印象がありますよね。しかも同じアカデミーですから、独占のイメージが強いです。

桑原 シェイン・スズキ選手がどこまでやれるのかということと、後藤悠司選手、高本裕和選手が2強に食い込めるかですが、過去の実績を見ると厳しいかもしれません。

――他にも、ミドル、ミディアムヘビー、ヘビー、ウルトラヘビー級と好勝負が続出しそうなので、注目しましょう。最後に話は大きく外れますが、MMAPLANETでは柔術家の方々には青木真也選手の柔術&MMA論についてどのような印象を持ったかを尋ねています。

新明 来ましたね、その話題。では、両方の競技をやっていた僕から答えさせていただきます。やはりMMAで使えるブラジリアン柔術の技術はたくさんあると思っていますし、これまでの歴史でそれを証明してきたのがホイスやヒクソンですよね。

MMAがあったからこそ、グレイシー柔術の強さが証明されたと思っています。そうした影響を受けて僕は柔術を始めました。MMAがあるから、ブラジリアン柔術をやれているともいえます。なので青木選手の意見は、すごく心に響きました。

――競技としての上下関係はあると思いますか。

新明 強さで言えば、MMAの方が上だと思っています。ですが、いろいろな人ができることや世界への広がりについては、ブラジリアン柔術の方が上だと思っています。特殊な人しかできない競技がMMAで、誰にでもできるのがブラジリアン柔術です。子ども、女性、それこそ障害のある方でもできる競技ですし、格闘技の中の一番はブラジリアン柔術だと思っていますので、それを広めていきたいですね。

安井 ……。

桑原 ……。

新明 なんか僕、ヤバイことを言いましたか……(苦笑)。

安井 いやいや(苦笑)。でもMMAとブラジリアン柔術で考えれば、冒頭で言いましたけどヒクソン×中井戦を見て、ブラジリアン柔術の凄さを知りました。だから、自分も新明さんと同じ考えですね。ブラジリアン柔術の技術で言えば、この状況だったら殴られないよなとか、考えてポジションを取るようにしています。

マウントを取れば、殺されることはないだろうとか。トップだったらパスガード、マウントを取る意味とかも考えます。ボトムの場合は、殴られないように、踏みつけられないようにとか考えながらブラジリアン柔術をやっています。

――競技として切り離していないと。

安井 切り離していません。ただ青木選手の考え方は、『ものすごく鋭利な頂の世界』の限定された話だと思うんです。うちらの感覚だとブラジリアン柔術は幅の広さで楽しめている競技なので、その点では少し温度差があるかもしれません。

とはいえMMAからブラジリアン柔術の動きのヒントを見つけることもあるでしょうし、その逆もあるんじゃないですかね。

新明 うんうん。

安井 初期のUFCをビデオで見た時は、グレイシー柔術の技術はよく分からなかったけど、ホイスがケン・シャムロックを絞め落としたり、100キロ近い選手を倒している姿を見て衝撃を受けました。あの影響は、いまだに自分の中にあります。

新明 確かに。僕らはJBJJFの運営スタッフとして働いていますが、それこそ青木選手や五味(隆典)選手を会場で見つけると、連盟のファイスブックにアップするためにと言って写真をお願いすることもあります。そこは、ファン時代の思いやMMAファイターに対するリスペクトもあるからです。

安井 自分はそれこそ中学生の時に、佐藤ルミナさんとか桜井“マッハ”速人さんとか、憧れの存在として見ていましたので、やはりブラジリアン柔術とMMAのつながりを否定できません。

――なるほど。世界選手権の頂点を目指す選手とは違う感覚があるようにも思えますが。

安井 そこは違って当然かと思います。ブラジリアン柔術のトップを見ている選手、興味があって始めて見た人、健康やダイエット目的、うちらのような指導者、考え方はたくさんあって然るべきで、それだけ幅の広い競技だと認識しています。

――では、最後に桑原先生がうまくまとめてください。

桑原 えっ、それはプレッシャーですね(笑)。僕は2人とは、ブラジリアン柔術への入り方がまったく違います。たまたまキックをやっていたから、たまたま柔道をやっていたからではなく、最初からブラジリアン柔術をやりたくてPUREBED大宮に入門したんです。格闘技雑誌でエンセン井上先生がブラジリアン柔術を始めたのを知って、平直行先生の正道会館と迷ったのですが、家から近い方を選びました。

――つまり、MMAつながりのブラジリアン柔術ではないわけですね。

桑原 はい。最初からブラジリアン柔術です。もちろんPUREBED大宮は、シューティングジム大宮でもありましたので、そこでキックやサンボの技術を学びました。でもそれは、あくまでもブラジリアン柔術に活かすためだと思っていたんです。始めてから少し経った当時、疑問に思っていたのは、なぜブラジリアン柔術の大会が日本で開催されていないのだろうということだったわけです。

新明 当時はブラジリアン柔術の大会はなかったですね。

桑原 当時、白帯の私は、帯の階級すらも詳しく知らない状況でした。ただエンセン先生がブラジリアン柔術を学んだのがヘウソン・グレイシー先生だったので、グレイシー柔術の主催する大会に出場するのが当たり前だと思っていました。僕は、第1回全日本選手権が行われる以前の1997年に、ブラジリアン柔術のパンアメリカン(現在のパン選手権)へ出場しています。中井先生が、日本チーム招集を呼び掛けていまして、参加させていただいたんです。

安井 へえー。

桑原 その時に平先生もいましたし、骨法の大原学選手もいたと思います。僕はその大会で一回戦負けを喫してしまいましたが、会場の異常な盛り上がりを体験してしまったので、ここで勝ちたいと強く思いました。パンナムでこれだけの規模ならば、世界選手権はすごいことなると思ったからです。実際、1999年に世界選手権を見た時の盛り上がり方は、今の日本のどのイベントよりも熱かったです。

新明 世界選手権は、現在もかなり盛り上がっていますよね。

桑原 中井先生が黒帯になって初めての世界選手権で、ホイラー・グレイシーがレオ・サントスと対戦した時でした。疑惑の判定といわれた結果でホイラーが優勝した大会です。会場の地鳴りがするくらい熱気に包まれていました。そこを体験してしまうと、ブラジリアン柔術でやっていこうとしか思えなくなります。

ちなみに私がブラジリアン柔術を教わった時に、このポジションだと殴られる、ここではヒザが飛んでくるとか、MMAを想定して技術を修正されたこともありました。ブラジリアン柔術の試合だと勝てても、セルフディフェンスでは、こうした方がベターだと指導を受けました。

――やはり柔術とMMAは、密接な関係にあるのですね。

桑原 MMAというよりはセルフディフェンス、ケンカへの対処法とした方がいいかもしれませんね。例えば、バックからの裸絞めは、噛みつかれないように先に腕をアゴに極めてしまえと言われました。そういう技術をクラスにて自然に教わりました。

だから、まったく関係ないとも言えませんし、思ってもいません。でも僕は柔術が、MMA、セルフディフェンス、競技と分けられることに対して違和感があり、競技、セルフディフェンス、フィットネスだと思っています。セルフディフェンスの中にケンカの技術があり、その派生がバーリトゥードであり、その派生がMMAだと捉えています。

たしかに安井君が言うように現代のMMAが鍛え上げられたアスリートの世界となっていますけど、昔のグレイシー柔術は、治安の悪いブラジルという国で、いかに自分の身を効率よく守るための術が根底にあるのではないかと思います」

――MMA、ケンカ、ブラジリアン柔術、どれもが密接に関係していた時代があり、それぞれが離れていったのが現在かもしれませんね。

桑原 それを言い出したら、もともと柔道は護身術ですから、MMAとの相互関係はどうなってくるのかということになります。結局は、それぞれがどう解釈するかであって、僕らでも違うでしょうし、他競技の選手を呼んでくればまた違う解釈になるでしょう。

安井 桑原先生はMMAに興味はない?

桑原 興味はありますけど、必ずしも柔術とイコールではないということです。これは初めて話すことですけど、じつは昔、ある格闘技団体からMMAの試合オファーを受けたことがあったんです。

ある選手とたまたま一緒にいた時に、彼が試合のオファーを受けて『俺は出ないけど出る?』と僕に向けられました。『どんなルールですか?』と聞いたら『掌底で殴り合う試合』と言われ、『グラップリングまでならばできますが、MMAを専門でやっている選手に失礼なので』とお断りをいたしました」

新明 そんなことがあったんですね。見たかったなぁ。

桑原 そういう価値観を持っているので、青木選手の発言を知って、自分とは対極だなと思いました。ケンカとMMAも違いますし、MMAと柔術を比較することすら間違っていると僕は思います。

僕はサンボ、コンバットレスリング、合気道などの技術を学んだことがありますが、試合に出ようとは思っていません。あくまでも柔術に活かすために学んでいることなので。そこで、いいコミュニケーションが取れればいいのではないでしょうか。

青木選手はMMAの選手で僕は指導者の立場なので、違う解釈をしているのは仕方がないのですが、例えば本のジャンルの中で漫画と小説のどちらが優れているかとかは、判断できないですよね。

それこそ、それぞれの価値観でいいのではないでしょうか。ただ青木選手が一石を投じたことで、僕のように何も反応しない人間もいれば、心に何かを持っている人もいるでしょう。その意味では、とてもいいインタビューだったと思いますが、柔術とMMAに上とか下はないのではないでしょうか。

両方の競技をやっている関根“シュレック”秀樹選手や海外の選手もいますし、元はMMAを目指したけど事情があって柔術一本になり、世界を目指す岩崎正寛選手のような選手もいる。それぞれの世界の頂点に立てれば、それが答えだと思います。そのためにも、今回の全日本選手権やアジア選手権などで争い、世界を目指すことが柔術家の本分だと僕は信じています。

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