【Shooto2025#05】修斗世界バンタム級暫定王座を獲得。無敗の20歳、永井奏多と「殺しのMMA」
【写真】新暫定王者の若い爽やかな笑顔(C)SHOJIRO KAMEIKE
5月25日(日)、大阪市住之江区のGORILLA HALL OSAKAで開催されたShooto2025#05で、永井奏多がダイキライトイヤーに1R TKO勝ちを収め、修斗世界バンタム級暫定王座を獲得した。
Text by Shojiro Kameike
プロデビュー以来、タイトルマッチまでの戦績は7勝1分。無敗街道を突き進む20歳の永井が、アウェイとなる大阪大会でベルトを巻いた。試合後UFCのベルトを目指す。もっと強くなって格闘技界の頂点に立つ」と宣言した永井に、これまでのファイトスタイルの変遷とダイキ戦の内容について振り返ってもらった。
萩原京平さんは近い距離でカーフを蹴るのが上手いので、参考にしています
――修斗世界王座の獲得、おめでとうございます。ベルトを巻いてから約1カ月が経ちましたが(※取材は6月20日に行われた)、何か大きな変化はありましたか。
「ありがとうございます。みんな普段の試合でも勝ったら喜んでくれますけど、ベルトを巻いたことは大きくて。『次も頑張ってね』と声をかけてもらうことが多いです」
――暫定とはいえ、所属するTRIBE TOKYO MMAにとっては初の修斗世界王者となりました。試合直後、長南亮TRIBE代表も満面の笑みで永井選手を抱きかかえていました。
「すごく喜んでくれていましたね。良かったです」
――試合は1R決着でしたが、試合前から早い決着を目指していたのでしょうか。
「いえ、3~4Rぐらいまで削ってから倒すイメージで練習してしまいました。もちろん早い決着が一番良いですけど、急ぎ過ぎて力んだり、パンチも大振りになったりしてしまうので。でも心のどこかには『早く倒したい』という気持ちはあったと思います」
――その気持ちが表に出てしまったのか、開始早々から前傾姿勢になっていました。
「そうですね、分かりやすいぐらいに(苦笑)。相手は身長が高いので、できるだけ近づくこと。まず自分から近づいて、自分の距離にして攻撃を当てたいという気持ちが出たかもしれないです」
――試合スタイルの変遷でいえば、修斗初戦の頃は自分から距離を詰めて組んでいました。それが中間距離で戦うことが多くなり、最近はまた自分から距離を詰めて打撃で戦うようになっています。
「最初の頃はあまり考えずに打撃をやっていたために、前傾姿勢で組みに行っていました。そこから後ろ重心で、なるべく相手の攻撃をもらわないようディフェンスを意識した戦いを目指すようにして。最近は後ろ重心でも前に出てジワジワ距離を詰めてから、強い打撃を効かせていくことを目標にしています。今、憧れているのはイリャ・トプリアのようなスタイルです」
――スタイルチェンジの変遷に右カーフは影響を及ぼしていますか。後ろ重心で構えるようになった頃から右カーフを効かせることができ、現在に繋がっているという印象です。
「はい。後ろ重心になった頃、遠い距離からバシーンと当てられるようになりました。さらに最近は近い距離でカーフを蹴ることできるようになっています。ストレートのフェイントからカーフを蹴ったりとか。
今TRIBEで練習している萩原京平選手が、近い距離でカーフを蹴るのは上手いんですよね。だから萩原選手の真似をしたり、直接教えてもらって自分も蹴るようになりました」
――おぉ、萩原選手の影響でしたか。
「カーフって前足に体重を乗せるから、そのぶんバランスを崩しやすかったんです。だから一度、体を起こしてから蹴らないといけない。でもその動きがスムーズでないと、カーフを蹴る時にカウンターを合わされてしまう。そんななかで萩原さんは近い距離でカーフを蹴るのが上手いので、参考にしています。
おかげで、だんだん自分の形が出来上がっているようには感じます。でもまだディフェンスとか苦手な部分も多いので、そこは修正していかないといけないですね」
序盤で相手のペースに飲まれなかった――それが一番のポイントです
――左ジャブと右ストレート、さらに近い距離でもカーフを打てる。そんななか今年3月の藤井伸樹戦ではスクランブル勝負も含めて、3R動き続けることができていました。しかもフルラウンド戦ったにも関わらず、まだ戦い続けられそうな雰囲気で。
「確かに『まだやれるな』という感じはありました。だいぶ疲れてはいましたけど……」
――あの試合内容で全く疲れていなければ、何か別のことを疑われます(笑)。
「ハハハハ! 全てTRIBEという練習環境のおかげです。TRIBEに『寝技しかできない人』や『打撃しかできない人』はいなくて。強い人たちばかりのなかで揉まれているから、自然とスタミナもついて藤井選手を上回ることができたんだと思います」
――なるほど。タイトルマッチの話に戻します。試合が始まるとまず永井選手が距離を詰め、ダイキ選手はケージを背負って左に回りました。永井選手としては打撃と組み、どちらで捕まえようとしたのでしょうか。
「打撃ですね。あまり自分から組むことは考えていなかったです。でも自分が一気に距離を詰めすぎて、相手にとっても距離が合ってしまいました。警戒していたのに、右をもらったりとか。メッチャ効いたりはしなかったけど、ヤバいとは思いましたね。
もともと打撃はガードをしておけば大丈夫だと思っていたんですけど、『このタイミングで打ってくるのか』とビックリして。ただ、ギリギリで致命的な被弾はなかったし、ボディも入った時に『これは大丈夫』と思ったので、ドンドン前に出ていきました」
――それでも序盤は永井選手のほうが被弾は多いように見えました。それだけダイキ選手が永井選手のことを研究し尽くしていたように思います。
「そうなんですよ。だから、あの展開で自分がビビッてしまうと、また試合内容も変わっていたとは思います。序盤で相手のペースに飲まれなかった――それが一番のポイントです。とにかくケージに詰めて殴ることを目標にしていて、あそこで下がったり中間距離で戦うことは考えなかったです。そのぶん被弾は多かったので、反省点でもありますね(苦笑)。
いつもよりコンディションも微妙というか、あまり動けないなと感じていました。それは初めてアウェイで戦うからなのか、ちょっと不安なところもあるなかでケージに入っていたんです。だから自分としては、だんだんギアが上がっていったような感じでした」
若松佑弥さん、黒部和沙選手の試合から僕の中でもフィニッシュのイメージは固まっていました
――初めてアウェイで戦うのが、初めてのタイトルマッチで。
「実は大阪に行くのも初めてでした」
――えっ、そうだったのですね。タイトルマッチのオファーが来た時、東京で試合がしたいとは思いませんでしたか。1週間前にはニューピア大会も開催されますし。
「ダイキ選手のほうがランキングは上でしたから。もちろんベルトが懸かった試合は初めてだし、東京でやれないのは残念でした。でも20人ぐらい大阪へ応援に来てくれて、本当にありがたかったです。それに初の大阪というのも楽しみにしていて。
大阪は東京よりも応援も激しく、すごいヤジが飛び交うとか聞いていたんです。僕も試合中、ものすごい悪口を言われるんじゃないかと覚悟して会場に行きました。全然そんなことなかったですけど(笑)」
――アハハハ、大阪の会場は温かい雰囲気でしたか。
「やっぱりダイキ選手の応援は、すごく多かったですよね。試合前にダイキ選手がSNSに『こんなにチケットが売れた』って、すごく分厚いチケットの束を投稿していたんですよ。それを見て『これはヤバイ』と思いました(笑)。実際、ダイキ選手がケージに入ってきた時も、試合前に向かい合った時も応援の声が凄かったですし。本当に会場が揺れるような感じがありました」
――しかし、その声に臆することはなかったのですね。
「考えていたよりも大丈夫でした。その声もダイキ選手の応援じゃなくて、この試合の応援だと思って。だから『盛り上がっている!』としか考えなかったです」
――それはかなりの強心臓です。試合ではフィニッシュシーンの直前に、ダイキ選手が背中を着けたままで永井選手がスタンドの状態にあった時、スタンドでの戦いを要求しました。
「やっぱり蹴り上げとか下からの三角が巧い選手ですからね。その前にボディは効いている感触があったので、これは立たせたほうが良いかなと思いました。でもセコンドの長南さんから『いいから行け!』みたいなことを言われて……」
――あの展開でグラウンドに行こうとすれば、確実にペダラーダが飛んできます。長南代表の指示に対して「えっ、嘘でしょ!?」とは思わなかったですか。
「ちょっと思いました。『ここで行くのかぁ』って(苦笑)」
――アハハハ!
「ダイキ選手は前の試合で、野瀬翔平選手の極めを凌ぎながら蹴り上げを効かせて勝っているわけじゃないですか。手足も長いし、そこは警戒していました。練習でも蹴り上げ対策はやっていましたけど、絶対に食らわないという状態にはできていないですし……。なのに『行け!』と言われて(苦笑)」
――そこで行かなければ、あとで長南代表のほうが怖いと。
「はい。……いやいや、違います。アハハハ」
RTUは急ぎたいわけでもないです。今年チャンピオンになって、来年は修行して――
――ただ、永井選手がトップに回るとダイキ選手の力も弱まっていたように見えました。
「やっぱりスタンドのボディとかで削れていたんだと思いました」
――そしてパウンド連打へ。残り30秒であれば次のラウンドも視野に入れて、フィニッシュにはいかず削り続けてラウンド終了を待つという選択肢もあるとは思います。あるいは連打している時に「これは2Rに突入してしまうか」という考えも……。
「なぜか、その考えはなかったです。殴っていて『これはもう止まるな』という感じがあって、『まだ止めないのかな?』と思いながらパウンドを落としていました。
最近だと若松佑弥さんもモラエスを殴り続けて勝ったじゃないですか。自分の試合の1週間前にも、黒部和沙選手がマウントからヒジを連打してTKO勝ちしていて。そのためか僕のなかでもパウンド連打でフィニッシュ、というイメージが固まっていました。それが『殺しのMMA』というか。殴って倒し切るところまでのイメージが頭の中にあったんです」
――殺しのMMA!
「練習でもミットで、3分のうち2分は普通で残り1分は連打するという練習をやっていました。その成果が試合でも出ましたね。でも自分の中では、まだ『ヨッシャ!』という気持ちにはなれなくて。正規王者の齋藤奨司選手との統一戦で勝つためには、まだまだ足りないところばかりだと思います。しっかりと準備してから統一戦に臨み、正規王者になってから次のステップに進みたいです」
――試合後には「UFCのベルトを目指す」というコメントがありました。次のステップというのは、たとえば来年のRoad to UFCトーナメントでしょうか。
「そこまで急ぎたいというわけでもないんですよ。たとえば今年チャンピオンになって、来年は修行して――そのあとでも良いんじゃないかと思っています。海外で練習も試合もしてみたいし、しっかりと経験を積んでから勝負したいですね」
――今年のRTUでは初戦で、チームメイトのエフェヴィガ選手も敗れています。
「それもあって、今の自分ではまだ早いんじゃないかと思っています。最終的な目標はUFCチャンピオンです。その道に繋がる経験を――海外で戦うだけでなく、国内で強い外国人選手と戦えるなら、どこでも出ます。ただ、その前にまずは1試合、1試合を大切にしていきたいですね。何よりも齋藤選手との統一戦、正式決定を待っています!」