【UFC317】展望ライト級王座決定戦 長引けば最多一本勝ち=オリヴェイラ×2Rまでなら驚腕KO=トプリア
【写真】打撃の特性が違う。故の短期決着か。トプリアの組みも見てみたい(C)Zuffa/UFC
28日(土・現地時間)、ラスベガス近郊のパラダイスにあるTモバイルアリーナにて、UFC 317「Topuria vs. Oliveira 」が行われる。王者アレッシャンドリ・パントージャにカイ・カラフランスが挑むフライ級タイトルマッチをコメインとするこのビッグイベントのメインは、フェザー級王座を返上したイリャ・トプリアと元王者のシャーウス・オリヴェイラによるライト級王座決定戦だ。
text by Isamu Horiuchi
この決定戦は、絶対王者イスラム・マカチェフのタイトル返上を受けて組まれたものだ。マカチェフは以前から一つ上のウェルター級への転向=2階級制覇への挑戦の意志を表明していたが、同級王者に君臨していたのが練習仲間のベラル・モハメッドであるためライト級で防衛を続けていた。しかし5月のUFC 315にて、モハメッドがジャック・デラ・マダレナと激闘の末に惜敗し王座転落。それを受けてマカチェフは、ウェルター新王者デラ・マダレナに挑戦するためにライト級王座を手放したというわけだ。
トプリアはプロ16戦全勝(14フィニッシュ)という驚愕の戦績を誇る28歳。2015年にデビュー以来、強力なテイクダウンと流れるような組み技の連携を中心とした高度な極めで一本勝ちを重ね、2020年10月にUFCデビュー。以後はスタンドで距離を詰めて放つ正確無比にして威力抜群の拳のコンビネーションでKOを量産し、トップコンテンダーの地位に昇っていった。
そして2024年2月、当時の絶対王者アレックス・ヴォルカノフスキーのフェザー級王座に挑戦。2R、トプリアは間合いを詰めながら目にも止まらぬ3連打を放つ。クリーンヒットはなかったものの一瞬で王者を金網側に追い込むと、次の瞬間角度を作り直して右フック一閃。顎を撃ち抜いて勝負を決めた。スタンドにおける距離のコントロールにおいては天下一品のヴォルカノフスキーの間合いを完全に制する衝撃的なKO劇をもって、トプリアは(15歳の頃から在住の)スペイン人初のUFC王座に輝いた。
長年ヴォルカノフスキーとともにフェザー級2トップの座に君臨してきた元王者のマックス・ホロウェイを迎えて初防衛戦へ。1R、ホロウェイの鋭いジャブをヘッドムーブメントでかわしながらプレッシャーをかけたトプリアは、パンチを放つ時と同様の上半身を動かすフェイントから一瞬でレベルチェンジしてシュートイン、見事にテイクダウンを奪った。
そして3R。スタンスを変えての関節蹴りを有効に使って距離を取るホロウェイがスイッチを試みた瞬間を見計らい(と本人が後に語っている)、思い切り踏み込んでの右をヒット。ぐらついたホロウェイに距離を詰めて上下の連打を浴びせ、最後は左フックで薙ぎ倒してパウンドの連打でTKO勝利。長年テイクダウンもノックダウンも取られていなかった不倒王ホロウェイを、その両方の形で倒すという圧巻の初防衛だった。
かくて、途轍もない威力と精度の拳で両レジェンドを一方的に屠ったトプリアは、僅か2試合のタイトルマッチをもって事実上UFCフェザー級を制圧し、新時代の到来を告げたのだった。このままフェザー級で絶対政権を築くかと思われ、実際にヴォルカノフスキーとの再戦にも前向きだったトプリアだったが、タイトルを返上し2階級制覇を目指すことを発表した。
人前に出る際には黒や白のスーツを着用することを好み、常に不敵な笑みを湛え、若くして映画の中のマフィアの大物幹部の如き風格を漂わせながら、(自らにとっては第三か第四言語であるにもかかわらず)流暢な英語で「僕はすでに一つの山の頂上に到達してしまった。だからその冒険は終わりにして、次の山に挑戦することにするよ」と静かに語る。新世代の帝王トプリアの言葉に、異論を挟むのは難しい。
対するオリヴェイラのUFC初参戦は2010年。トプリアのプロデビューの5年前(そして彼のUFCデビューの10年前)から最高峰の舞台で戦い続けていることとなる。フェザー級における減量苦もあり長年勝ったり負けたりの激闘を繰り返していたが、やがて持ち前の極めの強さに加えて強力な打撃、そしてレスリング力を身に付け、階級もライト級に上げて2018年6月から8連勝を記録。
2021年5月にはマイケル・チャンドラーとの王座決定戦を2RTKOで制してライト級王座に就いた。しかしながら、2022年5月にジャスティン・ゲイジーとの王座防衛戦の際に計量失敗。僅か0.5ポンド、されと0.5ポンドのウェイトオーバーでタイトルを剥奪されることに――。
加えて2022年10月のイスラム・マカチェフとの王座決定戦では2R肩固めで敗れてしまう。それでもオリヴェイラは、翌年6月にはベニール・ダリーシュを1RTKOに葬って復活を遂げる。続いて2024年4月にはアーマン・ツァルキャンにテイクダウンから上をキープされて1-2で惜敗したが、試合開始直後にギロチンを極めかけ、試合終了寸前にもダースチョークをロックする等、実力を存分に見せつける内容だった。
さらに昨年11月のチャンドラーとの再戦では、打撃で圧をかけてからのテイクダウンを何度も決めて圧倒。最終回にガードが甘くなったところに強烈な左右のフックをもらいピンチに陥ったが、ガード&ハーフガードワークを駆使して試合をスタンドに戻すと、パンチに合わせて組み付いてバックを奪い勝負あり。判定3-0で完勝してトップコンテンダーの地位を守ってみせた。
世界最高峰UFCで14年間以上戦い、こなした試合は実に34試合。しかもここ何年もライト級トップ勢と激闘に次ぐ激闘を重ねながら、肉体の消耗も衰えも感じさせない。どころか、NCAA Division I オールアメリカンの実績を持つチャンドラーをレスリングで圧倒するという進化まで見せつけた驚異の鉄人オリヴェイラ。今回マカチェフの王座返上を受け、35歳にして3度目のライト級王座決定戦に臨むこととなった。
下馬評では、未だ強さの底を全く見せていない無敗のトプリアが大きく有利と出ているこの試合は、1R開始直後の攻防から見逃せないものとなる。ともにスタンドで前進し圧力を掛ける戦いを身上とする両者だけに、試合開始早々、オクタゴン中央でお互いの拳と脚が派手に交錯する展開になる可能性が高い。
試合前に決して多くを語らない(そして長年UFCで戦っているにもかかわらず、まるで英語を話さない)オリヴェイラも「良い試合になるよ。彼も僕も、どちらも前に出ることを好むから」と話している。
が、ともに前に出て打撃を放つタイプとはいえ、両者の打撃の使い方には大きな違いがある。オリヴェイラはガードを上げて前に出ては、前蹴り、ロー、飛びヒザ、ワンツー、アッパー、そして組んでのヒザ、ヒジと多彩な攻撃をとにかく凄まじい勢いで繰り出してゆく。こうして自ら被弾することも覚悟の上で、ウルトラハイペースの攻防に相手を強引に巻き込み疲弊させダメージを与えておいて、切り札のグラップリングで仕留めにかかるのがその常套手段。根っから激闘型のファイターだ。
対するトプリアの戦い方は、その種の「激闘」を否定するものだ。頭を振りフェイントも交えて相手の打撃を回避するトプリアは、瞬時にして相手との距離を詰め、左右のコンビネーションを炸裂させ倒してしまう。蹴りは右のカーフしか使わず、武器の種類はオリヴェイラより遥かに少ないが、射程距離に入るや否や瞬く間に相手を打ち倒す拳の正確さと破壊力において他の追従を許さない。激闘に持ち込ませることすら相手に許さず、一瞬で終わらせるのが真骨頂だ。
「1Rでフィニッシュするよ。シャーウスは前に出てくるタイプだから、こちらは今までの試合と違って距離を詰めにゆく必要すらないからね」と言うトプリア。今回は今まで以上に短時間で仕留められると自信満々だが、これまでの勝ち方に裏付けられた説得力のある言葉といえる。
前回のホロウェイ戦においてトプリアが、事前予告していた通り、試合開始と同時にリング中央で足を止めての殴り合いを要求したことも思い出したい。ホロウェイが相手にせず実現はしなかったものの、至近距離での打ち合いには絶対の自信があるのだろう。
さらに、オリヴェイラがこれまでの多くの試合──チャンドラーとの第一戦、ダポイエー戦、ゲイジー戦等──において、序盤に相手の拳を被弾して大ダメージを受けたことを考え合わせるなら、今回はいわゆる「秒殺決着」が見られる可能性すらあると言える。この試合が開始直後から見逃せない所以だ。
逆に言えば、序盤戦の最大の見どころは、オリヴェイラがいかにトプリアの驚異の拳による致命打を回避して、試合を「激闘」に持ち込むことができるかとなる。トプリアが予告するように、前進するオリヴェイラがポケット(パンチの当たる距離)に入った瞬間、そこは一撃必殺の拳が目にも止まらぬ速度と類い稀なる精度で襲いかかる世界一危険な空間と化すだろう。
繁多いに、オリヴェイラがそこを突破してゼロ距離状態まで近づくことができたなら──そこでの有効な武器の数は、上背に勝り首相撲からのヒジやヒザ、一瞬でがぶっての首技、ワキを潜ってのバック取りを得意とするオリヴェイラが勝るだろう。トプリアがそれを嫌って振り解き、それでもオリヴェイラが多彩な打撃で迫る展開が続くならば、すなわちオリヴェイラが望み、これまでトプリアが相手に許さなかった超ハイペースの激闘へと試合が持ち込まれることとなる。
ここで、昨年トプリアに敗れたヴォルカノフスキーが、前回のトプリア×ホロウェイ戦の行方を予想した言葉を思い出したい。
曰く、「イリャには相性が悪い試合だと思う。マックスは5Rまでペースが落ちないから。イリャが勝つには序盤でKOする必要がある。前半は優位に試合を進めると思うけど、マックスはとにかくタフだから倒れない。そうなるとイリャにはスタミナの問題が生じてくる。中盤以降はマックスが有利になるだろうね」
ご存知の通り、実際の試合ではトプリアがヴォルカノフスキーの想定をも遥かに超える拳の破壊力を見せつけたため、この予想は外れてしまった。しかしそれゆえに、序盤の攻撃を生き延びた相手が中盤以降も変わらぬ勢いで攻撃を仕掛けてくるような状況で、トプリアがどれほどの力を見せられるのかはまだ未知なままだ。
ホロウェイができなかったこと──トプリアをハイペースの総力戦に引き摺り込むこと──を、オリヴェイラはできるのか。もしできるなら、その時我々は、一瞬で相手を打ち倒してきた恐るべきトプリアの「その先」にある、精神と身体両面の強さの度合いを知ることになるだろう。同時に「僕は打撃だけでなく、グラップリングにおいてもシャーウスより遥かに上だよ」と不敵に語るトプリアの組みの力が、本当にその拳に劣らないほどの高みにあるのかも明らかになることだろう。
今現在、世界で最も進化した形のMMAを象徴するトプリア。その新たな側面を、こちらも唯一無二の形で進化を遂げてきた鉄人オリヴェイラは引き出すことができるのだろうか。
■視聴方法(予定)
6月29日(日・日本時間)
午前7時30分~UFC FIGHT PASS
午後11時~PPV
午前6時 30分~U-NEXT