【Special】Fight&Life#109より、RTU唯一の初戦突破=中村京一郎の精神世界「オート=無意識下の意識」
【写真】次戦は8月22日、上海でもPIでなく 上海インドアスタジアムで開催される。どアウェイのなかのアウェイとなろう(C)MMAPLANET
27日(金)発売のFight & Life#109に中村京一郎ののインタビューが掲載されている。
Text by Manabu Takashima
日本からトーナメントに出場した8選手のなかで、中村だけが1回戦を突破できた。それもテイクダウンに合わせて、跳びヒザからパウンドアウトという見事なフィニッシュで。初回に間合いを測り、狙いすましたかのようなヒザ蹴りが実は、全く作戦になく咄嗟に出た動きだったと当インタビューで明かした中村。
この動きをオートと表現した中村は、強心臓でイケイケなキャラを戦ってきた裏で中村倫也の実弟、剛士氏と滝行を行うなど心と体のリンクを重視するファイターでもあった。
技術、フィジカルと同時に精神世界を追求する中村のインタビューからスペースの都合上、割愛せざるを得なかった言葉をここでお届けしたい。
ホロウェイは4Rまで勝っているんですよ。で、最後にあの選択をした
──判定決着があるMMAにおいて判定勝ちを狙うと無にはなれないのではないかという疑問に対し、「そもそも判定を狙わない。常にダメージを与えて戦ってきた」ということですが、ダメージを与えることが頭にあると、これもまた無になれないのではいでしょうか。
「気持ちの置き方として無になる裏にオート、やり込んだことを自然と出せるかどうかということがあると思います。さっき無意識下の意識という風な言い方があるといってもらえた部分にも、勝つ意識というのは共通していると思うんです。
僕は根本としてファイターである限り、フィニッシュを狙わないとダメだという想いでいます。判定でギリギリ勝てる試合も大切ですが、そうなるにして気持ちが出てしまう。このまま判定で勝とうという意識と、最後までフィニッシュを狙うという意識では、結果としてフィニッシュできなくても5分5R、最後の10秒の頑張りが違ってくるはずです。その感覚で普段からいるから、最後にそこが出てくるかと思います」
――最後の10秒で思うことがあるのですが、本筋から話題が外れてスミマセン。個人的な想いなのですが、マックス・ホロウェイがジャスティン・ゲイジーを倒した最後の攻防前に見せた、「真ん中で殴り合うぞ」ポーズ。アレを真似するファイターは、実は戦っていないですよね(笑)。
「まぁまぁまぁ(笑)。結構、アレやりますよね。アレでガチでやれる人、いないです。でも、それもさっきの話に通じてくるんですけど、ホロウェイとゲイジーも最終回、最後の10秒じゃないですか。ホロウェイは4Rまで勝っているんですよ。で、最後にあの選択をした。あの選択があって、結果的にフィニッシュしたんですよ。
試合が盛り上がった云々でなく、あの姿勢が勝ちにつながるんですよ。理に適っている。ゲイジーは、アレをやられると受けるしかない。その一つ前の攻防で、前回りしながら蹴りを見せた時、きっとゲイジーはアレで終わったと『もう負けだけど終わり』っていう心境だったはずです。それなのにアレをやられて。もう行くしかなくなって打ち抜かれた」
――そこで行くから、あの負けもあるかと思います。あそこでも行けない人は行けないかと。
「そうなんですよ。と同時に、あの倒しに行く姿勢も(堀口)恭司さんは、セルジオ・ペティス戦で裏目に出てしまって。あのまま判定勝ちを狙えれば良かったという風に言われる。結局はタラレバで。でも気持ちって大切ですよ。裏目に出ようが、ファイターとして大事な部分だと思います。勝ち負けはついてしまうものでも自分には自信を持っていたいから、俺もあそこでトライできるファイターでいたいです」
結局、中身なんですよね
――自分に自信を持つ・持てないに関しては、近しい存在で尊敬してやまない中村倫也選手が、1月のムイン・ガフロフ戦で自身のテイクダウンを信じられない状態で戦っていたということがありました。
「あの試合以前の倫也さんのテイクダウンは、考えて動いていない。それこそオートだったはずです。ずっとやってきたテイクダウンはレンジ、間合い、空気感と見えないモノを察知して無で入っていた。コンビネーションもしかりです。
それに対して、あの時の倫也さんは軸をどうするだとか、蹴りでいくとか考えて戦っていました。そういう意識をして、戦っていたんです。でもオクタゴンに入る時には、無意識で蹴られるようにしていないといけない。オートになるまでは、時間が掛ります。それまでメチャクチャ深いところまで、取り組まないといけない。
オート=無意識下の意識って、結局のところ心と体のリンクで。心を鍛錬して体も鍛えて、技の習得をするからオートになる。どれか一つが欠けても、ダメなんです。
あの時の倫也さんは『技は技』って感じで、心や肉体とリンクしていなかった。その心自体が、レスリングに自信がない。もう心と体のリンクなんて無理で、技も通用しないですよね。でも、それはもう倫也さんも気づいていて、同じ轍は二度と踏まないはずです」
――そういうことを常に倫也選手や剛士さんと話しているのですか。
「ハイ。日常会話からインプットとアウトプットをして、互いのデバイスを共有している感じです(笑)。頭を整理するために話すのですが、それには心が備わっていないと会話も成立しないです。結果、勝手にそんな話ばかりしている感じです。1日中ずっと、そういうことを追求して信じているモノが同じだから成立するというか……」
――それはもう、周囲は理解できないことも多いでしょうか。
「そういう意味では、最近『普通の会話って、どんな風だっけ?』って考えちゃうんです。(鈴木)崇矢も言っていますね(笑)。なんか格闘技以外の話をしていると、『そんな話する必要あるのか』となっちゃって。最近は特にそんな風になっていて、あまり人と自分が合わない。
これも崇矢が言っていたのですが、アイツはそこで孤独を感じると。突き詰めれば突き詰めた分だけ、突き詰めた人しか分からない領域で話しちゃうから」
――突き詰めているモノが、違うケースもありますし。少し危険ではないですか。MMAを戦っていくうえで同じ考えでない人とも付き合えるように、バランス取らないと。
「あぁ、それですよね。僕は100か0だから……それで、大切な人を失うってありますよね」
――いや、プライベートのことは……Road to UFCのファイトに話を戻しましょう。MMAのなかで打撃主体で戦う。当然、組みに対応する。その際に最後のヒザ蹴りが無意識だったということですが、無意識下の意識が前方だけなく、後方にも行き届いているようにも見えました。
「後ろですよね。だからってただ単にバックステップということでなく、空間把握能力ということで。打撃は前だけでなく、後ろを使えないと」
――その意味合いで、京一郎選手は「後ろ」という言葉を使っているのですね。武術に通じていることが、本当に興味深いです。
「でも、それって格闘技や武術だけじゃないと思います。サッカーとかでも、フィールドの空間把握能力がとても大切で。それは自分の前だけでなく、後方もじゃないですか」
――ああ、なるほどです。
「だからヌルマゴもサッカーが好きなんですよ(笑)」
――アハハハハ。そこですか。
「結局、中身なんですよね。だってサッカーから学べることもあるし。中身が備われば……皆タイプが違うんだからそれぞれのスタイルにも、中身が必要なわけで」
――その一方でMMAに欠かせない遠めの距離を得意とする選手が、近い距離は一発で終わる傾向が日本のストライカーには多いと感じることもあります。
「そうッスね。自分も遠めの距離の人間ですけど、近い距離も当然やっています。まだ、試合で出していないですけど。要はどういう意識で、取り組んでいるのかということかと思います。ストライカーでも得意の場所と苦手の場所があるので。やっぱり飛び込み狙いだけを続けていると、インファイトになったら自分を見失うこともあるだろうし。
思わぬ一発を貰ったことで、足を止めて打ち合ってしまうこともある。そうなるのは、もう当然で。でも、そこを補うのが練習で。練習にどういう意識で取り組んでいるのか。
ロングレンジとインファイトに関しては、リーチの長いストライカーの課題だと思います。インファイトができるようになるためにも、ムエタイの首相撲やヒジ、ヒザが必要で。だから俺はタイにも練習に行っているんです。ダーティーボクシングの精度を上げれば、思い切ってインファイトもできるようになるはずです。と同時に、だから後ろを使えないとMMAは生き残れないです」
なぜオートで技を出すことが可能なのか。無の状態になって動けるための、無意識下の意識とは何か。8月にリー・カイウェン戦への向き合い方などが、中村京一郎の深層心理に迫ったインタビューが掲載されたFight&Life Vol.109は27日(金)に発売です。