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【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:9月 マラブ×オマリー「マラブは変な人? だからあれをやりきれる」

【写真】ファイトスタイルそのものは疲れるスタイル。それを5Rやりきってしまうのがマラブの強さだ(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は水垣偉弥氏が選んだ2024年9月の一番──9月14日に行われたNOCHE UFC 306のマラブ・デヴァリシビリ×ショーン・オマリーについて語ろう。


――9月の一番はマラブ・デヴァリシビリ×ショーン・オマリーの一戦を選んでいただきました。この試合はマラブの強さが目立った試合だったと思います。

「色々と僕の中でも見どころがあった試合で、マラブのようなタックルマシーンに対して、オマリーのようなストライカーがどう戦うのか。そこは自分自身の現役時代からの永遠のテーマでもあり、この試合でもそこを主に見たい、もっと言うならオマリーがどういう戦い方をするのかを見たかったんですね。結果的にはオマリーがストライカー病というか、マラブのタックルを警戒して手が出ないという、よくあるパターンにハマっちゃったなっていう感じでしたね。と同時に、このテーマはまだまだ続くなと思ったのが正直な感想です」

――試合全体を通して見ると、1Rに2回組まれてテイクダウンを許してしまったことが、2R以降の試合展開に影響を与えたと思います。

「ずばりそれだと思いますね。1Rが始まってテイクダウンされるまでのオマリーは、割と前蹴りだったり攻撃が出ていたんですよね。逆にマラブはいつもよりちょっとな控えめで、タックルに行きにくそうに見えました。でもそこで1回マラブがテイクダウンを取ったことで、徐々にオマリーの手が出なくなってきて。オマリーからすると打撃を出すとマラブに触れる、警戒して打撃を出せないというパターンにハマっていった印象です」

――仮に組まれたとしてもマラブのクリンチをはがしたり、完全には寝かされない状況を作っていれば違ったと思うのですが、しっかり組まれてしまった印象があります。

「そうなんですよね。結構ちゃんと組まれてしまって、その後のラウンドもすぐに立ち上がることができない展開になってましたよね。それだけ1Rにテイクダウンされた時に、もうテイクダウンされたくないなというのがオマリーの中で出てきちゃったんだと思います。マラブは割とテイクダウンしても相手を立たせるタイプなんですけど、オマリーは一度組まれて尻餅をつかされると、そのまま動きが止まったり、下になる展開が長かったように見えました」

――もちろんオマリーもレスリング・組み技への対応はできる選手だと思いますが、マラブのような超トップ選手との対戦は少なかったと思います。

「まさにそれもあって、正直過去の対戦相手を見ると、あまりマラブのようなタイプとはやってないんですよね。アルジャメイン・ステーリングとやった試合が初めてレスリングが強力な相手とやった試合だと思うんですけど、アルジャメイン戦も2R開始直後にパコーン!と一発で倒しちゃったので、レスリングや組みの技術をちゃんと見ることが出来ないままだったんですよね。そういう部分で、マラブとやってどうなのかなと思っていたのですが、 やや安易にグラウンドで下になったり、ガードポジションを取ったりしていて。オマリーはグラウンドで下からガンガン戦えるタイプでもないと思うのですが、そこで立ちに行く感じでもなかったので、組まれる・テイクダウンされるとキツいというのが見えちゃいましたよね」

――どうしてもマラブクラスのレスリング力がある選手と対戦すると、その部分で差が出てしまいますよね。

「そこは相性の問題もあると思います。ストライカーとレスラーは、単純に言うとどうしてもストライカーは相性が悪くて、その相性の悪さがもろに出ちゃったのかなと。例えばジョゼ・アルドやピョートル・ヤンがマラブとやった時、アルドは下がりながらテイクダウンに対処する感じで、テイクダウンは許さなかったんですけど、その代わりにケージに押し込まれ続けたんですよね。で、ヤンはスイッチを使いながら対応しようとしたのですが、マラブにそこを上回られてしまうという試合でした。じゃあオマリーはどうなんだ?というところだったのですが、結果的にオマリーはアルドやヤンのところまではいかなかったなというのが正直なところですかね」

――見ている側からすると、テイクダウンをディフェンスできないなら、打撃を思い切り当てにいくという選択肢はなかったのかと思うのですが、そこはファイター側からするとどうなのでしょうか。

「あとは一発を当てに行きたいは行きたいんですけど、結局そこで組まれちゃうんで。一発を当てるタイミングを探っているうちに結局(試合が終わる)なんですよね。ようは一発を当てるための距離になる=組まれる距離なので、行ったら組まれるという感覚もあるんですよ、タックル系の選手に対しては。だから一発を当てるための行き方が難しいんですよね、単純に思いっきりいけないという」

――その一発を当てるためには組み立ても必要だし、そうしているうちに組まれるリスクが大きいということですね。

「一発にかけるということは、ある程度の強打を当てて、その一発でKOするなり、ダウンさせるなり、大ダメージを与えるのが欲しいじゃないですか。リスクを追う分の見返りが欲しいというか。それに見合う一発を当てる距離まで詰めるというと、またそこですごく難しくなってきますよね」

――あとマラブの方もテイクダウン以外でかなり細かいパンチのフェイントを入れたり、目線を散らしたり、体を上下させたり、常に動き続けていますよね。

「動きそのものが多いですよね。絶対打撃が届かない距離でもシャドーボクシングやスイッチしたり、地味な動きなんですけど、それをずっと繰り返している。ただタックルだけ狙っているより、こういう動きをやられると嫌ですよね」

――相手からすると、あれだけちょこちょこ動き続けられると、フェイントだと分かっていても引っかかってしまうものですか。

「あとはやっぱりああやって動いている中で、本物と偽物の(動きの)違い、本当に来る時と来ない時って、 何もしないでバッ!と来るより、色々と動いてる中でバッ!と来る方が、対応も遅れると思うんですよね。そういう部分はあると思います。だからあれだけ目の前で動き続けられていたら、やりにくいと思いますね」

――オマリーも5Rに三日月蹴りを効かせる場面がありました。メラブは試合後に「効いていない」と言っていましたが……。

「あれは効いていたと思います。分かりやすくお腹をさすってましたからね」

――右の三日月蹴りをもらったあとのシーンですが、あの前の左の三日月蹴りも効いていたと思います。

「あれも絶対効いてましたね。ボディが効いたかどうかは本人しか分からないし、効いていても『効いてない』って言い張ると思うんですけど、セラ・ロンゴ・ファイトチームで一緒に練習していた(井上)直樹くんの話だと、練習でもマラブは腹を効かされていたことが結構あると言っていたんで、マラブは腹が弱いんじゃないか説も出てますね。だから試合展開や相性もあるんですけど、あれがもっと早い段階で来ていたら、面白かったのかなという気もしますよね」

――それまでの打撃とは違い、明らかにオマリーのプレッシャーがかかっていた時間でした。

「そうですね。あれはオマリーが5Rに判定で勝つのがほぼダメだろうと思っていた中での開き直りがあったから、また前に出始めたんだと思います。もうテイクダウンされてたとしてもしょうがないって気持ちがあったからこそ、もう1回(打撃を)作り直したんじゃないかなと思います」

――5Rに弱みを見せたメラブですが、あのテイクダウンを軸にしたファイトスタイル&無尽蔵のスタミナは真似できないですよね。

「あのスタミナは異常ですね。ファイトスタイルそのものは疲れるスタイルだと思うんですよね。今回の試合はトップを取ってからキープする時間が長かったですが、他の試合では結構立たせるんです。で、また倒す。倒して、立たせて、倒して…を繰り返して倒してテイクダウンの数で印象つけるみたいな、めちゃめちゃしんどい戦い方をしているので、それが出来るスタミナは尋常じゃないですね。対戦相手=タックル受ける側としては、やっぱりしつこくタックルを切って切って、マラブが疲弊してきてタックルに入れなくさせるというのも1つの作戦としてあると思うんですよね。ただマラブは疲弊しないから、その希望がなくなってしまうという」

――あれだけスタミナがあるとテイクダウンの攻防でマラブを疲れさせるという作戦もチョイスできません。

「テイクダウンそのものもバーン!と入って綺麗に倒しちゃうじゃないですか。一回ケージに押し込んで、低い姿勢でケージレスリングを頑張って倒すという展開が少ない。テイクダウン能力の高さも、マラブがバテにくい要素だと思います」

――水垣選手はどういうタイプだったらマラブを攻略できると思いますか。

「攻略法がなかなかないですよね(苦笑)。それこそシャーウス・オリヴィエラみたいに打撃があって、グラウンドで下になっても戦えるとか。そういうファイターだったら可能性があるのかなっていう気はするんですけどね」

――マラブとレスリング勝負できるか、レスリングそのものを捨てて勝負するか。

「そうなんですよ。さっきも話したようにジョゼ・アルドはほとんどテイクダウンを許していないんですけど、テイクダウンディフェンスするためにずっと押し込まれたままで判定負けしているんです。テイクダウンされないことに集中すると打撃が出せないし、相手がバテない限りは押し込まれ続けるので、ポイントを取られちゃいますよね。だからメラブ攻略は本当に難しいです。

あと試合とは関係ないですけど、メラブってちょっとおかしいじゃないですか。試合が始まった瞬間、オマリーのセコンドと言い合ったり、試合中にオマリーにキスしてハーブ・ディーンにめちゃくちゃ怒られたり。あとは試合前にインスタグラムで氷が張ってる湖に飛び込んで、練習でカットしたところを縫ってる動画をアップしてダナ・ホワイトに『アイツはレベルが違うバカだ』ってキレられてましたよね。普通はあんなことしないですよ(笑)」

――大分変わっていると言えば変わっていますね…。

「基本的に変な人? なんだと思います(笑)。でも、だからこそああいうファイトスタイルをやりきれちゃうというか。普通は5Rマッチでああいう試合はやろうと思わないし、それをやっちゃうというのは何かぶっ飛んでる新しいタイプですよね」

――敗れた方のオマリーについても一言いただけますか。

「あと僕の中でオマリーとコナー・マクレガーを重ねていて、マクレガーもここで負けるだろうと思われている試合で勝ち続けて、オマリーもそういうキャリアだったと思うんですよ。マクレガーはネイト・ディアスに負けてライト級に上げてタイトルを獲っていますけど、最後はハビブ・ヌルマゴメドフにやられて、それからスーパーファイトを中心にやっていくスーパースター路線に行ったじゃないですか。じゃあオマリーはここで負けて、これからどうなっていくのかなと。そこにも凄く注目しています」

――さてマラブの次の挑戦者にとしてウマル・ヌルマゴメドフが噂されています。

「そこは僕、すごく楽しみなんですよ。ウマルもレスリング力があるから、そこでも勝負もできるし、打撃という部分ではウマルの方が上だと思うんですよね。だから打撃+レスリング力でどこまでマラブに対抗できるのかっていうところですよね」

――前回水垣さんにウマル・ヌルマゴメドフ×コリー・サンドハーゲンを解説していただきましたが、マラブよりもウマルの方が技の引き出しは多い印象です。

「例えばウマルが一回・一発のテイクダウン勝負で負けたとしても、そこからのスクランブル勝負で後ろに回るとか、下からでも組み勝つみたいなものを見せてくれたら面白いなと思います。何度か言っているようにマラブが立たせるタイプなので、仮にマラブに3回テイクダウンされても立ち続けて、逆にウマルがテイクダウンもしくはスクランブルで上を取ってキープする。それをしつこくやれば、ウマルも強いと思います。あとはクリーンテイクダウンできなくても、スタンドバックの攻防に持っていければ、ウマルがマラブにヒザをつけさせて殴って、もう一回立って打撃をやるとか、そういうことが出来れば、ウマルにもチャンスが出てくると思いますね。この試合はぜひ実現させてほしいです!」

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