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【ONE FN25】12勝0敗の新鋭ザキロフと対戦、箕輪ひろば「相手の強いところから逃げない」

【写真】箕輪のMMA観が、どんどん明確になってきた (C)SHOJIRO KAMEIKE

5日(土・現地時間)、タイはバンコクのルンピニースタジアムで開催されるONE Fight Night25で、箕輪ひろばがサンザール・ザキロフと対戦する。
Text by Shojiro Kameike

7月にジェレミー・ミアドを下して3年振りの勝利を得た箕輪。次は早くも9月のONE168米国デンバー大会でザキロフとの試合が決まれていたものの、この時はザキロフのビザ取得問題で試合が延期となっている。改めてタイでザキロフと相対することになった箕輪がチームメイト山上幹臣の勝利と、自身も連敗脱出で見えてきたものを語った。


――ミアド戦の勝利で連敗を3で止めました。大きな勝ち星だったかと思います。

「そうですね。勝つことが3年振りでしたし。それと『俺、昔は頭良く戦っていなかったな』ということを思い出したことも大きかったです」

――「頭良く戦っていなかった」とは?

「ONEに来てアディワン、シウバと戦って、2試合とも上手く作戦がハマッたんですよ。真っ向勝負したわけではなく、アディワンの嫌な距離をつくって、アディワンが入ってきたところに合わせてテイクダウンを奪う。そこから箕輪ひろばのフィールドで戦う。シウバ戦も相手に寝技をさせるけど、一本を取らせないところで殴り続ける。スクランブルし続ける。その作戦が上手くハマって。だから上手く作戦を立てて、それを実行に移せれば勝てるというふうに思い込んでいました

だけど修斗で戦っていた時は作戦云々じゃなくて、キツイところに突っ込んで行って勝つという試合だったんですよね。それが修斗の勝ち方だと思うんですよ。シンドイ試合をして勝つ。僕たちはそういう試合を視て育ってきましたから」

――かつての北沢タウンホール大会は、そういった試合で溢れていました。

「もっと掘り下げると、アマチュア修斗があるじゃないですか。1日で6試合から8試合ぐらい戦って、その中で勝ったヤツだけがプロに行ける。そういった試合を経て、自分もシンドイところに突っ込んでいけるところが強みでした。でもONEに来て最初の2試合で、頭良くスカして勝つような戦い方を覚えてしまって。

それはそれで良いんですよ。しっかりと作戦を立てて実行することを捨てたわけじゃないです。でも僕の場合は前提として『シンドイところで勝負できないと勝利に繋がらない』と改めて思いました」

――3連敗中は、シンドイところで勝負できていなかったのですね。

「圧倒的なレスラーと、バックボーンのない僕が戦う場合は、ずっと『レスリングじゃない部分で戦う』と言ってきました。でも、そうじゃない。MMAという競技で戦う以上、レスラーだろうがストライカーだろうが、各々のフィールドで戦って勝負できないと『総合』にならないと思い始めたんです」

――レスラーがストライカーを相手に打撃で上回らないと組むことができない。それが現在のMMAだと思います。

「そう考えると、さらにMMAと競技が確立してきていますよね」

――ミアド戦では思い出した部分だけでなく、自分自身の進化を出すことはできましたか。

「ミアドって見たとおりのストライカーじゃないですか。そこに対して『もらいたくないから打撃の攻防をしない』『パンチを当てに行かないで寝技に行く』という展開ではなく、しっかりミアドと打撃の展開をしたことですね。

キチッと打ち合ったなかでテイクダウンする。本当は一本取りたかったけど、そこで取れなかったのは反省点です。でもスクランブルでキチッと対処できたことで、『これがMMAだよな』って改めて思いました」

――1Rにダウンを喫したこともあり、「なぜミアドを相手にここまで打ち合うのだろう?」とヒヤヒヤした気持ちもありました。箕輪選手にとっては、その打撃の攻防が自分にとってやるべきことだったのですね。

「自分の課題としていたのは、相手の強いところから逃げないことでした。もちろんダウンさせられたのは良くないです。でもあのダウンがあっても尚、僕がストライキングで押すことができました。自分からパンチを当て、プレッシャーをかけてから寝技に持って行くことができた。打撃を嫌がっている状態では、絶対にあの展開にならない。だから結果オーライかな、と考えています」

――あの試合展開でスプリットになるのは怖くないですか。

「その怖さはあります(苦笑)。3人のジャッジのうち1人は1Rのダウンのみでミアドが勝ちだと判断した――ダメージに判定を持っていかれすぎだろとは思いますよ」

――現在のMMAはダメージ重視というか、コントロールよりも手数のほうが重視される傾向にあります。その判定基準について考えたり、対策を施すことはありますか。

「ジャッジメイクについてですよね。もちろん考えます。自分はフィニッシュを狙ってはいるけど、スパッとしたKOもできないし、ルオトロ兄弟みたいな一本も取れない。誰が見ても『ルオトロが勝っているよね』と思われるような寝技の展開もできない。そんななかで、最近は圧倒的に箕輪が勝っているという展開がないと、判定に影響しない。難しいですね。

今、僕の中ではテイクダウンして、スクランブルを起こさないほうが良いのかなとも思っています。スクランブルって先にアクションを起こしているほうが取っていると考えていたけど、おそらく『どっちつかず』の状態なんですよ。どんなに良いスクランブルの展開をつくっていても、最後に下になっていたらジャッジメイクで弱いですし。そのあたりは頭の中に入れていますね」

――ONE参戦以降、勝っている試合は全てスプリットの判定勝ちです。毎試合、判定がどうなるのだろうとヒヤヒヤしませんか。

「僕の中では3-0なんですよ。3-0で圧倒的に勝っている試合をして、それでギリギリ、スプリットなんですよね。だから『ギリギリどちらが勝ったのかな?』みたいな試合はやめようと思います」

――なるほど。そのミアド戦から当初は2カ月の試合間隔で、9月にザキロフと対戦する予定でした。今回は試合オファーが早かったのですね。

「実はミアド戦でタイに行った時、もう次の試合の話はありました」

――それはONEから評価されているということでしょうか。

「いや、相手を上げたいマッチメイクだと思いますよ。マネージメントサイドとマッチメイカーがしていた話なので、僕は全て直接知っているわけではないけど……。本当ならミアドに勝ったあとは、もっとランキングが上の選手と試合したかったです。でも米国大会に出たかったので、短い間隔でもザキロフとの試合を受けました。

ザキロフが強い相手だということは分かっています。ノーランカーだけどFFで3連勝していて、リスキーな相手ですよ。だけど自分も米国大会で試合がしたくて、もしミアド戦で怪我をしていても僕は米国大会に出ていたと思います」

――しかし相手のビザ問題で試合は中止に……。

「アッタマに来ましたね。しかも試合の2週間前、渡航する3日前で。いつもは5日前に現地入りするんですけど、開催地は標高が高い場所だから早く行って体を慣らしておこうと思って。それが――米国で着るために、10万円以上するスーツを買った直後ですよ」

――というと?

「クレジットカードを切った直後に連絡が来たんです。マジかよって(苦笑)。米国大会に出たいからザキロフ戦のオファーを、しかも2カ月の試合間隔でも受けたわけで。それをスライドされたら――ちなみに、そのスーツ購入の模様はYouTubeチャンネルで公開する予定なので、ぜひ視てください。試合延期の連絡が来るところも入っていますから(笑)」

――アハハハ、それはぜひ拝見します。ただ、9月の試合に向けて仕上げていたわけなので試合が1カ月後にスライドされるのは何か影響はありませんでしたか。

「メンタル面で『ふざけんな、マジかよ』という気持ちはありましたけど、山上さんの試合もあったりして。体重も1カ月前には創っていましたから、そこからカツカツで減量する必要もなく。特に今思ってみれば影響はなかったと思います。ただただ頭に来たという」

――今、名前が出た山上選手ですが、9月22日に修斗で約11年振りの勝ち星を得ました。

「いやぁ……、……、……嬉しかったです。僕は3連敗したあと、ミアド戦が3年振りの勝利だったじゃないですか。山上さんは10年かけて3連敗から脱出して。僕、山上さんが2014年の最後に出たROAD FCも現地へ一緒に行っているんですよ。それで今年のグラジの復帰戦もセコンドに入っていて……今までセコンドとして勝つ姿を見たことがなかったんです。

観客として会場に行っている時は勝っていて、僕がセコンドとして入るようになってからはずっと負けていました。試合前はセコンドも含めて皆で「ヨッシャ、行くぞ!」と気合を入れて、試合が終わると2人でバスの中で何も言わない時間が続くんです。前回も大阪で負けて、2人で何も言わないままタクシーで帰っていて。……本当に今回、勝てて良かったです。とにかく、それに尽きます」

――本来の試合スケジュールでいえば、箕輪選手がザキロフと試合をしたあとに、山上選手が修斗で試合をするはずでした。運命のいたずらか、山上選手が先に勝利することで、箕輪選手も勇気をもらったのではないですか。

「それは間違いないです。そもそも今年1月、山上さんが復帰することが決まっていたなかで、自分が負けて『バトンを渡せなかったなぁ……』と思っていたら、山上さんが大阪で負けました。あの時はもう最悪の気分で――だけど7月に僕が勝つことができて、次も僕の試合があったじゃないですか。もう一度自分が勝ってエンジンをかけたいと思っていたら試合がなくなって。山上さんが一緒にヘコんでくれましたよ。『なんで米国大会じゃねぇんだよ』って(笑)。僕は『もう自分の試合に集中してください』と伝えました。

今回の試合、ハンパないプレッシャーを感じていたと思うんですよ。相手は若くて勢いがあるベテラン喰いの選手で、何よりも失うものがない。たぶん山上さんにしてみれば、あと2年したら戦いたくない相手じゃないですか。それだけまた成長しているはずで。あの年齢の頃の僕たちも、そんな感じだったんですよ。ガンガン大物を喰っていって。それが分かっているから、一番怖い相手でした」

――グラジでの復帰戦も同じ状態でした。

「技術面や体力面は問題なかったと思います。でも感覚的な部分で、1Rにあの展開で仕留めきれない。生物としての勝負勘は戻ってなかったです。それこそ10年前は道場でも『ブッ殺してやる』って感じで練習していて。たとえ試合前でもぶっ壊されるほうが悪いと思っていましたから。

でも10年経って練習体制も変わり、相手のことを労りながら『なるべく長く怪我もストレスもなく続けていきましょう』と練習できる環境が整ってきたんですよ。そんななかでの復帰戦だったから、最初から『感覚的なものは戻らないまま試合するしかないんだろうな』とは思っていました」

――……。

「でも、それって試合をしながら感覚を戻していくしかないんですよ。だから復帰戦で負けて、もう一度取り戻しながら勝つことができて良かったです。近年の風潮って、何でもスタイリッシュでコンパクトに――という感じじゃないですか。何でも便利になって、いらないものはそぎ落とす。もちろん、それだけ便利になって助けられている面もありますよ。でも僕は昔の殺伐した雰囲気も好きで。そのピリピリしていた道場に憧れて入ったところもありますからね。僕は便利ではないハーレーも、昔から変わらない革ジャンも好きなんです。

何でもかんでも最先端にすれば良いってものじゃないから。MMAも同じで、何でもスタイリッシュでそぎ落とせば良いわけじゃない。無駄なこともやってきたからスタイリッシュになってきている面もある。そこのバランスが一番大事なんだろうと思います」

――一見そぎ落としているようで、実際は端折っているも増えました。それは何が無駄で、何が無駄ではないのかを認識できるような経験を積んでいないと、区別がつかないのも当然のことです。結果、効率化の名のもとに端折るしかなくなっている。

「やっぱり何事も経験だと思うんですよ。自分の場合は、これまで人生で3連敗を経験したことがなかったので、逆に20代のうちに3連敗していて良かったと今は思っています。今が26歳で、これから3連敗したあとに戻してタイトルマッチ――となったら、そのタイトルマッチで終わっちゃいますからね」

――今回のザキロフもプロデビュー以来12連勝中で、若く勢いがあって失うものはないであろう一番怖い相手です。

「おいしくない相手ですよ。若くて、強くて、地位だけない(苦笑)。ただ、噛み合う気はしています。お互い、やっていることはMMAじゃないですか。お互い何か一つだけ要素が飛び抜けているタイプではなくて。

テイクダウンの入り方もレスラーっぽくなく、ちゃんとMMAとしての入り方をしてくる。巧いファイターですね。今回の結果がどうあれ、この先もマークしておかなくてはいけない選手だと思いますよ」

――そのザキロフを相手に、どのような試合を見せたいですか。

「相手が打撃と寝技、どっちで来るかヤマをはらない、というのがポイントかもしれないです。たぶん出たとこ勝負になるんですよ。僕の試合映像はたくさんあるけど、相手の映像はない。そのなかで、どちらの適応能力が上回るか。

ファーストコンタクトで決まると思っています。最初に相手のペースになったら、戻すのは大変になるでしょうね。逆にコッチがペースを握れば、そのまま押しつぶしていける展開になる。今回は1Rの出だしが遅れたほうが負けるんじゃないか、と」

――なるほど。

「お互い最初に打撃がハマッたからといって、ずっと打撃で攻めるようなタイプでもない。それはお互いに。『寝技で逃げられたから、もうテイクダウンには行かない』ということもない。おそらく判定決着になるとは思うし、お互いにシンドイ試合になりそうですね。でも僕は前回の試合で学んだとおり、相手の強いところから逃げないですから」

■視聴方法(予定)
10月5日(土)
午後8時45分~U-NEXT

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