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【WKG&M-1】中国でウー・シャオロンと対戦、硬式空手&MMA 吉田開威「アウェイのほうが力を出せる」

【写真】ウー戦の次は8月に東京で行われる硬式空手の世界大会に出場するという吉田 (C)SHOJIRO KAMEIKE

8日(土)、中国は新疆ウイグル自治区アクス市のアクス市で開催される「WKG&M-1 MMA FIGHT in アクス」で、吉田開威が中国のウー・シャオロンと対戦する。
Text by Shojiro Kameike

硬式空手での実績を引っさげてグラジエイターでデビューした吉田は、ここまでプロ4戦無敗。しかしMMAで勝利するまでの道のりは、決して平坦なものではなかった。「硬式空手をメジャースポーツにしたい」という想い、MMAと強さ、そしてウー・シャオロンについて語りつくすMMAPLANET初インタビューです。


硬式空手の間合い感覚はMMAと似ていてる

――吉田選手は「硬式空手出身のMMAファイター」というよりも、現在もMMAと硬式空手の試合に並行して出場しているのですね。

「そうですね。今MMAでもセコンドについてくれている父が空手をやっていて、僕も3歳の時に空手を始めました」

――空手に関して所属道場は「剛柔流」で、出ている大会は「硬式空手」ということですか。

「ここは難しいところで――もともと空手の流派と、組手(試合)のルールというのは別モノなんですよね。簡単に言うと、『どの流派をやっているのか』と『どの組手をやっているのか』が分かれているということです。僕は剛柔流という流派をやっていて、硬式空手という組手のルールを使って練習し、硬式空手の試合に出ています。

本来の空手は流派だけで、その技術を使うためには組手のルールが必要だから、どの組手の大会に出るのかというお話で。剛柔流をやりながらフルコンタクト空手の大会に出たり、剛柔流から伝統派といいますかオリンピック空手のルールに出ている選手もいますから」

――なるほど! ルールのお話でいえば、硬式空手には組みや投げがあるのですね。

2019年のアジア・チャンピオンシップで優勝(C)KAI YOSHIDA

「はい。硬式空手のルールとしてはスーパーセーフと呼ばれる硬い面と胴を着けて、昔は足のサポーターは無しでした。今は手と足にサポーターを着けます。海外の大会ではサポーターを着けてはいけないところもありますね。

そこから腰から上の投げ……柔道のような投げ技は無しです。掛け、その場の投げ=持ち上げて倒すことはできます。あとはヒジ打ちもある程度は有りで、比較的『何でもあり』の側面を持っているのが硬式空手です。防具を着けて、しっかり当てることもできるのは硬式空手の良い点だと思います。2017年にロシアで行われた世界大会は『その場の投げ』以外のテイクダウンも有りでした。

入って倒して極める(相手を制した状態からの突き)はポイントになります。やはりロシアの選手は投げまで全部できます。日本で硬式空手をやっていて、テイクダウンまでできる選手は少ないですよね。ウチの道場は全日本チャンピンを何人も輩出していて、硬式空手の中では強い道場だと言われています。他の道場とは何が違うかといえば、投げを練習している点です。組みも練習したうえで、硬式空手の試合に出ています」

――吉田選手も空手を始めた時から、組みや投げの練習も行っていたのでしょうか。

「昔からやっていました。MMAを始めてまたMMA独特の投げを教わりましたが、それもまた硬式空手にも使えますし。その場の投げは、世界に出る前から練習していましたね。

ウチは父が合気道、柔道など様々な武道や流派を学んでいました。自分が小さい時は、父が一人で沖縄に行って空手を学んできたり。投げに特化しているわけではないけど、一通りは何でも知っているし、その点では今もセコンドについてもらい、助けてもらっています。あとは柔道をやっている方が出稽古で来られた時に、こちらも投げを教わったりという交流からも技術を吸収しています」

――では今の吉田選手にとっては、空手家としてMMAを戦っているということですか。

「MMAで成功することも目標ではありますが、硬式空手の認知度を上げてメジャースポーツにしたいという気持ちは強いですね。そのためにも硬式空手の試合は必ず出ますし、硬式空手を背負ってMMAにも出続けたいです。

硬式空手は間合いがすごく特徴的な競技で、しかも打撃は当てる。当てたらポイントになる、と初めて見る方でも分かりやすいルールで。投げる技術も残っていますし、そのルール自体がMMAでも通用するものです。さらに言えばMMAよりも安全に行えるルールだから、もっとメジャーになって良いものだと思っています」

――MMAを戦う選手がベースとしている格闘競技は様々ですが、お聞きするかぎり子供たちにとって安全なMMAの入り口にもなりそうです。

「そうだと思います。もちろんMMAをやる場合は別途、寝技の技術を練習する必要はあります。でも、まずMMAをやるための基礎としては良いルールだと思うんですね。一番良いのは間合い感覚です。僕にとっても一番の武器なのですが、硬式空手の間合い感覚はすごくMMAと似ていて。いかに自分の打撃を当ててポイントを取り、相手の攻撃は当たらないように徹底するか。その間合い感覚はMMAでも役に立ちます」

アマチュアMMAは8年間無勝

――吉田選手の場合は、さらにNAGOYA TOP TEAM……いわゆる寒天練習にも赴いているのですね。

「僕がNTTに辿り着くまでの道のりも長かったです。中学生の時にMMAを始めたいと思ったのですが、父は『自分が教えたことだけでMMAに出てみよう』という感じでした。でも寝技は全くできないままアマチュアMMAの大会に出続けて、全て負けていたんです」

――全て、というのは……。

「中学から高校、専門学校に行くぐらいの8年間で、何十戦したかは分からないですが全て負けました。8年間無勝です(苦笑)。毎試合、漬けられたり投げられたり……。僕の打撃を受けて相手が鼻血を出していても、テイクダウンされて負ける試合が続きました。

そんな中でまず柔術を始めてみようと思い、細川顕先生に柔術を習うようになりました。それでもアマチュアMMAでは、なかなか勝てなかった。MMAの練習をしていなかったので仕方ないですよね。

父としては、柔術はOKだけどMMAのジムに行くのは――自分の技術でMMAを戦ってほしいという気持ちが強かったようです。でもそこは振り切って、まず和田教良さんのガイオジムへ『パーソナルトレーナーをやらせてください』と応募しました。トレーナーを続けていると『一般MMAクラスに参加して良いよ』と言われて。最終的にグラジエイターのオープニングファイトで勝ったあたりで、和田さんの紹介でNTTに参加させてもらうようになりました」

――もしかして2023年3月にグラジのオープニングファイトで藤井丈虎選手を下した時が、MMA初勝利だったのですか。

写真は2023年12月のフェルナンド戦。間合いの取り方に特徴があることはもちろん、蹴りやヒザの打点も高い(C)MMAPLANET

「8年間ずっと勝てなくても試合に出続け、ようやく勝つことができました。僕はプロルールのほうがやりやすいし、特に顔面へのヒザ蹴りが認められているのは大きいです」

――2023年はプロデビューから4連勝を収めています。その中で印象に残っているのは毎回、試合後に悔しそうな表情を浮かべている点です。せっかく勝ったのだから、もっと喜べば良いのに……と思ってしまいます。

「プロデビュー戦以外、3試合は全て判定決着ですよね。MMAでもストライカーとしてやっていくなら、KOしないといけないと思っています。だから毎試合、KOできず『打撃で漬けた』という試合内容になっているのが悔しいんです」

――「寝技で漬ける」という言葉は聞きますが、「打撃で漬ける」というのも言い得て妙ですね。

「先ほども言ったとおり自分は、相手に入らせないとか間合いの取り方が得意です。そこから倒し切れていません。硬式空手で倒し切ることはあるけど、まだMMAではKOする感覚がないんです。他の空手出身のMMAファイターを見ると、しっかり振り抜いて倒し切っている。でも自分はその面が足りず、倒し切れない試合が続いてしまいました。そんな試合内容に納得いっていないんですよ」

空手で経験してきたからこそ、次の試合もいつもどおり戦える

――今回はグラジではなく、中国の新疆ウイグル自治区で試合に臨みます。

「自分にとってはグラジが主戦場です。でも自分自身の試合内容に納得がいかず、ここは一度、場所を変えたほうが良いのかなと思いました。今まで空手でもアウェイや逆境のほうが、力を出すことができていました。

たとえば『全日本極真護身空手道選手権』という、いろいろな流派の選手が集まる無差別の大会で優勝したことがあります(2022年4月、第1回大会で優勝)。あの時はすごくアウェイな空気を感じましたけど、そこで絶対に勝ち切りたいという気持ちがあって。それだけアウェイなところに身を置いたほうが力を出せると思いましたね。

海外で試合をしたのは、ロシアが初でメチャクチャ気持ちも浮いていました。すごいプレッシャーに押しつぶされそうになって。そんな状況を乗り越えたからこそ、次にカザフスタンでアジアチャンピオンシップに出場した時は、落ち着いて試合をすることができたんです(結果は優勝)。

やっぱり一回経験しておくと違いますよね。もし今回が初の海外試合だったら、ものすごく緊張していたはずです。そういったことを空手で経験してきたので、次の試合も落ち着いて、いつもどおり戦うことができると思います」

――今回対戦するウー・シャオロンについては、どのような印象を持っていますか。

「まず情報が少なくて……。サンボがバックボーンで、あとは打撃とレスリングという、まさにMMAという感じですね。打撃主体で、テイクダウンにも行くけど寝技師というわけではなくて。自分としては間合い感覚を生かして、相手を入らせない自信はあります。

今回はリングの試合なので何とも言えない部分はありますが、それでも壁レスから立ち上がることについても問題ないと思っています。どちらかというと自分の打撃の精度を、どれだけ高めていくことができるか。打撃のドリルや打ち込みで精度を高めてきました」

――試合を楽しみにしています。では最後に、MMAを戦っていくうえでの目標を教えてください。

「UFCに行きたいです。MMAを見始めた時から、UFC世界王者になることが一番の目標でした。ただ、UFCへ行くまでにMMAで稼げるようになることが今の目標です。格闘技で生きていくというのは、まず強さを追い求めていくことは当然で。同時に格闘技で稼げるようにならないといけない。そのためには、やはり認知度は欲しいですし、まだまだ国内でやるべきことはあると思っています。

かといって『話題性だけで別に強くない』という選手にはなりたくないです。強さだけでファンを増やしている堀口恭司選手には憧れます。あそこまで強さだけで人気があるのは凄いことだと思うんですよ。格闘家として一番の理想は、堀口選手です」

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