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【ONE167】野杁正明、ONEへ―02―「ONEでチャンピオンになったら、初めて『ここがゴールだ』と思える」

【写真】5月18日、野杁は武尊が結成したteam VASILEUSに加入することを発表。武尊、そして渡辺雅和トレーナーらと共にONEの頂点を目指す(C)TAKUMI NAKAMURA

6月8日(土・現地時間)、タイはバンコクのインパクト・アリーナで開催されるONE167にて、野杁正明がフェザー級(70.3キロ)キックボクシングルールでシッティチャイ・シッソンピーノンと対戦する。
Text by Takumi Nakamura

注目のONE参戦、そしてシッティチャイとの対戦が決まった野杁。ONE参戦を決意した理由を語ってくれて前編に続き、インタビュー後編ではシッティチャイとの対戦やONEでの戦い、そして先にONEに戦いの場を移した武尊への想いを語った。

<野杁正明インタビューPart.1はコチラ
<シッティチャイ インタビューはコチラ


――さてONEデビュー戦では、いきなりトップ選手のシッティチャイと対戦することになりました。オファーを受けた時はどんな心境でしたか。

「驚きはなかったですね。素直に嬉しかったです。キャリア豊富なベテランですし、ランキングでも3位に入っていて、デビュー戦で当ててもらえてよかったです」

――試合をやるならランカーやトップ選手とやりたかったですか。

「やりたかったです。その方が手っ取り早いので。シッティチャイはONEでタワンチャイにも勝っていますし、ONE以外ではスーパーボンに勝って、グレゴリアンには通算戦績で勝ち越していて、そうそうたるメンバーに勝ってるじゃないですか。ここをクリアすれば次のステージが見えてくるので、ノーランカーの選手とやってチャンスが回ってくるのを待つよりは、シッティチャイのような選手とやれてよかったです」

――ファイトスタイルについてはどんな印象を持っていますか。

「一言で言うとテクニシャンですよね。サウスポーで上手く戦いながら、相手が入ってくるところにヒザを合わせる、みたいな。もろにムエタイスタイルではないですけど、ムエタイスタイルをこのルールに合わせて戦っている印象です」

――シッティチャイは野杁戦が決まって、野杁選手と対戦経験があるゲーオ・ウィラサクレックを臨時コーチとして招聘しているそうです。

「最初はそれを知らなかったのですが、ファンの方が『シッティチャイがゲーオと練習しているみたいです!』とDMで教えてくれて(笑)、それでゲーオのインスタを見に行ったら一緒に練習している動画がアップされていたので、驚きはしないですけど、そうなんだくらいの感じですね」

――僕はシッティチャイのこの試合に対する本気度が伝わってきたのですが、野杁選手はいかがでしょうか。

「嬉しい限りですね。弱いシッティチャイじゃなくて、過去最強のシッティチャイで来てもらいたいので、しっかり対策も練ってきてもらいたいです」

――意外にも野杁選手の過去の戦績を振り返るとタイ人との対戦はゲーオとプライチュンポンの2人だけで、タイ人と戦うことに警戒心はないですか。

「僕は全く気にならないですね。僕のファイトスタイル的に相手がオーソドックスでもサウスポーでも関係ないですし、タイ人に苦手意識はないです。ONEの日本大会でシッティチャイとグレゴリアンがやった試合も会場で見ていて、なんとなく戦うことはイメージしていたので、今回も(倒し方は)何パターンか用意しています。グレゴリアンが3Rで倒しているので、それより早いタイムで倒して上位ランカーたちにアピールしたいですね」

――またこの試合はケージ、そして海外遠征にもなります。そこについてはいかがでしょうか。

「ケージはあんまり気にしないですかね。リングの方が詰めやすいとは思いますけど。あと海外やアウェーで戦うのは好きなんですよ。過去にフランスで2試合やっているんですけど、最初のフランス遠征で戦った(エディ・ネイト・)スリマニが地元のヒーローみたいな選手で、会場の雰囲気が僕の攻撃が当たっても『シーン…』で、スリマニが攻撃を出すだけで『ウォー―!』みたいな反応だったんです。でも僕がKO勝ちしたら、フランスのお客さんも僕に声援を送ってくれるようになって、そうやって周りの見方をひっくり返すのは気持ちいいですね。ちなみにその大会で一緒だったのがアラゾフと(ローマン・)クリークリャだったんです」

――のちにONEでチャンピオンになる2人とそこで会っていたんですね。

「アラゾフにいたっては年齢も一緒だし、K-1のベルトを獲った日(2017年6月18日)も初防衛に成功した日(2018年3月21日)も同じなんですよ。だから色んな縁を感じますね」

――またONE参戦が決まった時にSNSで「武尊くんと2人でONEの世界チャンピオンになりたい」と発信していました。改めて野杁選手の武尊選手へのリスペクトを感じたのですが、野杁選手にとって武尊選手はどんな存在ですか。

「もともと武尊くんは敵チームだったんですよ。僕がK-1ジム恵比寿にいた頃は僕と小澤海斗が仲良くて、ちょうどその時期に武尊くんと海斗がバチバチだったんです。海斗が武尊くんと試合した時は、僕も武尊くんの試合を見まくって、海斗に対策をさずけて、試合当日はセコンドにもついたんです。その時に何に驚いたかというと、武尊くんは僕が考えた対策の一歩上を行くんですよ。それがすごく印象的で『どんな練習をやったらそんなことができるんだろう?』と。で、実際に武尊くんと一緒に練習するようになったら、とにかく練習量がすさまじい。サンドバックをやるにしても、周りが止めない限り、全力でやり続ける勢いなんです。あれだけのトップ選手が自分で自分をそこまで追い込んでいることにびっくりでした」

――色んな面で想像を超える選手だったわけですね。

「あと武尊くんはむちゃくちゃ頭が良いですね。試合だけを見ているとバチバチに打ち合うじゃないですか。だから打ち合うこと以外は考えていないように思われがちですけど、本当に色んなことを考えながら練習もスパーもやっているんですよ。一度、ボクシングのスパーをやらせてもらったんですけど、1Rのなかでもこっちの動きに対する対応を変えてきたり、対応力もすごいんです。練習量と頭の良さが両方あるからこそ、武尊くんはあれだけ勝ち続けられていると思うし、一格闘家として尊敬できる存在です。あとは『THE MATCH 2022』で僕が海人選手に負けてしまって、いい形で武尊くんにつなげられなかったことが悔しくて。そのリベンジではないですけど、同じ日に試合をして勝ちたいですし、2人でONEのベルトを巻いて世界一になりたいです」

――例えば武尊選手と2人で色々と話すことはあるのですか。

「team VASILEUSに加入してから話すようになったんですけど、KREST時代は若干距離があったんですよ(笑)。僕がKRESTに入った当初、みんな僕のことを“野杁くん”と呼んでいて、そこにちょっと距離を感じていたので、しばらくしてトレーナー陣に『下の名前で呼んでもらっていいですか?』とお願いしたいんです。そしたらトレーナー陣から徐々にみんな“野杁くん”から“正明”に呼び方が変わっていったんですけど、唯一武尊くんだけ“野杁くん”呼びのままで。それで微妙な距離を感じていたら、K-1横浜アリーナ大会(2019年9月)の前のインタビューで武尊くんが『正明は~』と言っているのを見て『あっ!“正明”って呼んでる!』と思って、それで距離が縮まりました(笑)」

――キャラクターや性格は違う2人ですが、格闘技や練習に対する考え方は似ていると思いますか。

「なんて言ったらいいんだろう…僕も武尊くんも“格闘技バカ”なんでしょうね。いい意味でお互いネジがはずれてるんだと思います」

――野杁選手の年齢・キャリアを考えると、ONEが最後の挑戦になりそうですか。

「ONEが僕の最終章だと思っています。そのデビュー戦でランキング3位のシッティチャイと試合を組んでもらったので、このまま最短距離で一気にベルトまで駆け上がりたいと思います」

――今まで色んなベルトを巻いて、トーナメントでも優勝してきたと思いますが、ONEのベルトを巻いて「世界一になった」と思いたいですか。

「はい。今までトーナメントで優勝してうれしい・ベルトを巻いてうれしいと思ったことはあるのですが、これでゴールだと思ったことは一度もないんです。でもONEでチャンピオンになったら、初めて『ここがゴールだ』と思えると思うので、そこを目指して戦っていきたいです」

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