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【ONE167】野杁正明、ONEへ―01―「誰もが認める世界最強になりたい。僕の中ではONE一択だった」

【写真】世界一になるために誰と戦えばいいのか。その答えが野杁にとってはONEへの参戦だった(C)TAKUMI NAKAMURA

6月8日(土・現地時間)、タイはバンコクのインパクト・アリーナで開催されるONE167にて、野杁正明がフェザー級(70.3キロ)キックボクシングルールでシッティチャイ・シッソンピーノンと対戦する。
Text by Takumi Nakamura

昨年7月のK-1両国大会以来、沈黙を守ってきた野杁がK-1との契約解除、そしてONE参戦を発表した。しかも注目のONEデビュー戦の相手はGLORYで一時代を築き、フェザー級ランキングの3位に位置しているシッティチャイ。名実ともに世界のトップと戦いたいという想いを持っていた野杁にとっては、これ以上ない相手が用意されたと言っていいだろう。

ONE参戦を格闘技人生最後の挑戦と位置付ける野杁のインタビューを前後編で公開。前編ではONE参戦を決断した理由を語ってくれた。

<シッティチャイ インタビューはコチラ


――野杁選手のONE参戦が発表されて、SNSでも大きな話題となりました。野杁選手の周りでも反響が大きかったのではないですか。

「公式発表されて数日間は携帯が鳴り止まなかったですね。過去最高くらいの反響です。ファンの人たちも『待ってました』や楽しみにしています』という声が多くて、僕自身もびっくりしています。K-1時代から『ONEの選手とやってほしい』『ONEに挑戦しないんですか?』と言われることも多かったので、期待してもらえているんだなという感覚はありますね」

――具体的にいつからONEのことを意識するようになったのですか。

「(マラット・)グレゴリアンや(チンギス・)アラゾフが圧倒的な強さを見せてK-1チャンピオンになって、ONEに行ったじゃないですか。そのくらい(2020年~2021年)から意識するようになりましたね。ONEは世界中から強い選手が集まってくる舞台だったので、いつかは(ONEに)挑戦したいという気持ちは持っていました」

――野杁選手も2022年頃から本格的に70kg転向を視野に入れていて、そこでより具体的に考えるようになりましたか。

「僕が小学2年で格闘技を始めたとき、いつかK-1に出たいと思っていて、当時はヘビー級と70kgしかなかったので、もともと70kgでやりたいという気持ちはあったんです。あとは徐々に体重も増えてきて、2021年にK-1で67.5kgのベルトを獲ったんですけど、世界的に見て67.5kgは中途半端な階級じゃないですか。当時は67.5kgで世界トーナメントをやってほしいと思っていましたが、その階級で僕が燃えるような相手がいるかと言われたら思いつく選手がいなくて。それだったら世界的にも選手層が厚くて盛り上がっている70kgに挑戦した方がいいなと思っていました」

――体重も自然に増えていたのですか。

「そうですね。K-1では最初65kgでやっていて、だんだんと減量がきつくなって階級を上げることにしました。特にフィジカルトレーニングをやって体重を増やしていたわけではないので、自然にそうなった感じですね」

――ちょうど野杁選手がK-1ウェルター級(67.5kg)王者になった時期は新型コロナウイルスの問題で外国人を招聘できませんでした。チャンピオンになって外国人選手と戦いたいという想いは強かったですか。

「はい。僕はずっと外国人選手とやりたかったんで。日本一になっても誰も満足しないだろうし、僕も納得できない。格闘技をやっている以上、世界一を目指して最強を証明したいので、日本人選手と戦って満足することはないです」

――これは元K-1プロデューサーとしての話にもなるのですが、70kgのトップ選手の多くがONEと契約していて、ONEから選手を招聘することが契的に難しい。そうなると必然的にONEと契約が終わってフリーになった選手、もしくはONEと契約していない戦績がいい選手を呼ぶしかないという状況で、そういった選手の情報は常にチェックしていたんです。そのなかで招聘できた選手がジャバル・アスケロフやアマンシオ・パラスキフだったのですが、野杁選手としてはもっと強い選手と戦いたかったですか。

「正直、物足りなさはありましたね。対戦相手が決まって、100%満足できる相手かと言われたらそうではなかったですし、僕は試合が発表されたときに、ファンの人たちに『野杁、負けるんじゃないの?』と思われるような相手とやりたいので。そう思われる相手に勝てば、自分の実力も認められるじゃないですか。そういう意味ではK-1の最後の2試合は『今回も野杁が勝つだろう』や『また無名の選手のやるのか』という声の方が多かった。もちろん名前が知られてなくても強い選手はいますが、アラゾフやグレゴリアンは格闘技ファンだったら誰もが知っている選手ですし、そういう相手と戦って勝ちたいと思っていました」

――昨年7月のパラスキフ戦後のマイクでは「これからは世界のトップとしか試合をしていかないんで」という言葉もありました。おそらく野杁選手も先ほど僕が話した状況は理解していたと思うのですが、その一方で一選手としてはやりたい相手と戦いたいという気持ちが勝っていたのですか。

「僕はオファーを断ったことがないですし、ずっと決められた相手とやってきたんで、それをやるのはパラスキフ戦が最後だと思っていました。アスケロフもパラスキフも強い選手ですが、世界のトップにいく選手じゃない。そのランクの相手と試合を続けて現役生活を終えて納得できるかと言われたら、僕は納得できなかったし、僕自身もキャリアが終盤に差し掛かってきて、今が一番強い野杁正明だと思っているので、だからこそ挑戦したいと思ってマイクしました」

――K-1では今年からK-1WORLD MAXが復活&トーナメントも開催されていて、野杁選手にもオファーがあったと思います。それでも野杁選手はONEで戦いたいという気持ちは変わらなかったですか。

「はい。僕の中ではONE一択でした。K-1からトーナメントのオファーがあった時、まだONEと契約できるかどうか分からなかったのですが、もしあのトーナメントに出ると言ったらONEに出るチャンスもなかったと思いますし、僕自身トーナメントの選手たちがそそられるメンバーではなかったです」

――野杁選手は強い選手と戦うことはもちろん、自分の実力を証明できる相手と戦うことも重要な要素ですか。

「僕は誰もが認める世界最強になりたくて、もし今年のK-1MAXに出て圧倒的な強さで優勝したとしても、満場一致で野杁正明が世界最強だという評価にはならないと思うんですね。もし優勝しても必ず『アラゾフとやったらどうなの?』や『グレゴリアンとやったらどうなの?』という意見が出てくる。だったらそういう選手たちがいる場所で戦って、一人ずつ倒していって、最終的に世界一と言われる相手に勝てば、誰からも認められる世界最強になれるので」

――野杁選手自身「あの選手とやってないじゃないか?」と言われるのは嫌ですか。

「色んな契約とか交渉事があるから、簡単に戦いたい相手と試合が組まれないのは分かっていますけど、強いと認められている選手を一人ずつ倒していけば誰にも文句を言われないじゃないですか。それが出来たら周りもそうだし、何より僕自身が納得して格闘家としてのキャリアを終えられるのかなと思います」

――野杁選手のキャリアを振り返ると、強いと言われる選手と戦って勝つことを繰り返してきたと思うので、ONEで戦うことも自然な流れだと思いました。

「弱い選手とばっかりやって、それなりに戦績を積んで稼いだとしても、それはその選手の身内が喜ぶだけじゃないですか。僕はお金を払って試合を見てくれるファンやお客さんを喜ばせたいし、それがプロの格闘家だと思っています」

<この項、続く>

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