【RIZIN LANDMRK08】キム・ギョンピョ~白川陸斗戦へ、矢地祐介「僕の中では常にUFCという目標がある」
【写真】力説するタイプじゃなく、口調も軽く感じられるような向きがあるが、矢地の言っていることは本当に変わらない (C)TAKUMI NAKAMURA
24日(土)、佐賀県佐賀市のSAGAアリーナで開催されるRIZIN LANDMARK 8 in SAGAにて、矢地祐介が白川陸斗と対戦する。
Text by Takumi Nakamura
当初キム・ギョンピョとの対戦が発表されていた矢地だが、ギョンピョが左ヒザの負傷により欠場。大会約3週間前に対戦相手が白川に変更となった。KRAZY BEEを離れ、新たな練習環境を整えて3年。その成果が形になりつつある中、矢地は「次の試合でまた矢地強くなったなというか『矢地にまた期待しちゃおうかな?』って、皆さんに思ってもらえる試合になる」と話す。そしてギョンピョとの戦いを希望する理由、変わらぬ目標についても語ってくれた。
──今日はCARPE DIEM広尾での取材ですが、ここではどのくらい練習されているのですか。
「2~3年前まで会員として2年ぐらい通っていたのかな。週1~2回なんですけど、道着も着て。今は橋本(知之)さんのノーギのパーソナルトレーニングを受けています。ここはアクセスもしやすくて、YouTubeの撮影で使わせてもらっていたジムで、橋本さんという組み技のトップの人がいるのでパーソナルをお願いしました」
――橋本選手のパーソナルトレーニングはいつから始めたのですか。
「本当に最近で、今年に入ってからです。それまで柔術からは離れていたんですけど、改めて考えると自分は寝技の基礎の部分が抜けていて。あらゆる面で基礎・基本、『これってどうやるんだろう?』みたいなところから学び直す上で、柔術のスペシャリストに聞くのが一番早いなと思ったんです。だから橋本さんには本当に基本的なことを聞いていますね。『手の位置はどこでしたっけ?』とか『この場面ってどう動けばいいんですか?』みたいなことを、今改めて習っている感じです」
──矢地選手もキャリアが長くなってきて、基礎的なことを端折ってしまっていた部分もあるのでしょうか。
「今まではフィジカルと運動神経、自分で言うのもなんなんですけど、センスでなんとかなっちゃっている感じだったんです。それが通用しなくなってきたのがここ3~4年で、そこで新たに(取り組む)っていう感じですね」
──ロータス世田谷でも練習されていますが、それとも違うものですか。
「八隅(孝平)さんも色んなことを教えてくれるんですけど、ロータスはMMAの練習なんですよね。それよりももっと寝技の基礎的な部分というか、スパーリングじゃなくて(技を)頭に入れるための作業・座学みたいな感じです」
――対人練習はなし・テクニック練習のみという形ですか。
「はい。これに関しては何が正解か分からないですけど、今は1日1回しか練習してないんです。なんでかと言うと、一つの練習の強度が高くなってきて、練習するメンツ的に自分の動きが通用しない場面もあるので、一つ一つの練習を集中してやる。そして頭に(技術を)入れる時間が欲しいと思っていて、それをやっている感じですね。技術のインプットがないと伸びないし、それを取り入れている感じです」
──実際に寝技のパーソナルトレーニングを受けて、MMAの動きで変わってきたところはありますか。
「八隅さんとの練習でもそうなんですけど、この状況で何をすべきか、この状況で相手が何をしてきたらどうする、相手がこう攻めたら、俺はこうする………そういうことを場面・場面でしっかり理解することができて、落ち着いて戦えるようになってきましたね」
──昨年6月のザック・ゼイン戦の一本勝ちもまさに場面・場面でやるべきことをやって、相手を型に嵌めた戦いに見えました。
「まさにそれですね。この時に自分はどうするか。相手がこういうリアクションをしてきたらこうして先手を取って、最後に首を絞めるとか。そういうことを考えて戦っていました」
──自分の中で新たなスタイルに開眼しましたか。
「開眼したと思います。MMAの組みに関しては全然違ったものになっているし、打撃に関しても同時期に宮川(峻)っていうトレーナーについてもらって、ずっとやっている中で、組技と同じでこういう時はどうする、こうしたら相手がこう動くからこうするみたいなことを理解し始めたので、今までとは全然変わっていますよ」
──宮川さんは矢地選手の高校の同級生なんですよね。
「そうです。僕と宮川と佐藤天が同級生で、宮川も元々プロだったんですけど、頭の病気(先天性のくも膜のう胞)が発覚して引退しちゃったんです。それからはリバーサルジム東京スタンドアウトでトレーナーをやっていて、今はLIT GYM TOKYOの代表で。ちょうど僕がKRAZY BEEを離れた段階で、ミットを持ってくれるパートナーを探していて、パッと思い浮かんだのが宮川で、何回かミットを持ってもらっているうちに、こいついいなと。ミットを受けるだけじゃなく、技術指導的なこともいいなと思えてきて、それで本格的にトレーナーとして指導してもらえないかとお願いしました」
──高校の同級生→同じプロ選手→選手・トレーナーという関係なのですね。
「そうですね。で、やっぱり僕レベルですら、年齢も重ねて指導者が気を使ってくることも多くなって(苦笑)。その中で彼はタメで、良い意味で同級生で、色んなことを言い合える関係性なんです。僕が出来てないことはしつこく指摘してくれるし。あと彼は格闘技そのものが好きで、選手のトレーナーをやるのも僕がほぼほぼ初めてなんですよ。それにもすごくやる気になってくれているし、親身になってくれている。
彼はトレーナー用のパーソナルトレーニングを受けたり、色んなことを取り入れているみたいで、そういう意味でトレーナーとしてすごくいいなと。時期的には川名雄生戦から八隅さん&宮川体制になって、勝ち負けはあれど、自分の中で1戦1戦成長を感じられているんで『いいね!いいね!』が続いている感じです」
──どうしてもジムを離れると、練習環境が崩れて伸び悩む選手もいますが、矢地選手の場合は新体制がハマっているわけですね。
「本当にいい出会いがありましたよね。自分と八隅さんの関係もそうなんですけど、KRAZY BEEでKIDさんの下でやっていたことでいろんな人と繋がりができて、いい環境を作ることが出来ました」
──そういう手応えがあったにも関わらず、昨年はなかなか試合が組まれなかったという…。
「そうなんですよ(苦笑)」
──正直、試合がなかなか決まらない状況はどう思っていましたか。
「本当に最悪でしたよ。ストレスも溜まって。今の体制になって3年ちょっとかな。去年の頭辺りからだいぶ形になってきて、あとは試合でいろんなことを試そう、課題や修正点を見つけて修正しよう、そこを繰り返していこうと思っていたんです。ゼイン戦がほぼ組みの展開で、組みに関してはやりたいことができたけど、打撃をもうちょっとやりたかったなとか、次はもうちょっと打撃を試してみたいなとか。そういう考えがある中で、なかなか試合が決まらず、試合で試せない期間が続いていたんで、もどかしかったです」
──言える範囲で構いませんが、オファーそのものはあったのですか。
「10月の名古屋大会(RIZIN LANDMARK 6)も大晦日もオファーが来て、相手の候補もいたんですよ。自分は2連勝中だったし、もっと挑戦させてほしいと思う相手ではあったんですけど、自分はやるつもりで返事もしていて。それでも最終的に試合が流れちゃって、キャリア初の年1で終わりました(苦笑)」
──選手としては一番ストレスが溜まるパターンですよね。ようやくキム・ギョンピョ戦が発表されたら、今度はギョンピョが負傷欠場で、白川陸斗選手に相手が変わることになりました。
「色んなところで言っていますけど、僕はずっとキム・ギョンピョとやりたかったんです。彼は僕が出たくても出られなかった『Road to UFC』に出てベスト4になっている。ようはUFCの一歩手前にいる選手ですよね。アジアのなかでそういう位置にいる選手とやることで、自分の立ち位置がどこなのかを知りたかったし、このレベルの選手とどこまでやれるかを知りたくて、ギョンピョはずっと戦いたかったんです。だからマジで念願叶った!と思っていたら、まさかの欠場で。欠場の連絡があった時は最悪でした」
──そこで試合はやらないよりはやりたいと思ったわけですか。
「そうです。結局代替の選手のオファーが来て、白川選手ともう一人候補がいて『白川選手はやると言っています。もう一人はこれからオファーします』ということだったんで、僕は白川選手が受けると言ってくれてるんだったらやりますという返事をして、すぐ決まった感じです」
──対戦相手として白川選手にはどのような印象を持っていますか。
「ボクシングが上手いっていうのかな、強いて言えば。近い距離でのコンビネーションとかスピードだったりっていうのは上手いのかなと。ただパンチ力がある感じでもないし、かと言って近い距離を好んで戦う選手でもない。意外と繊細に遠目な距離設定をしている印象です」
──僕も「FIGHT CLUB」(MMAグローブのキックボクシングルール)で白川選手の試合の解説をしたのですが、キックボクサー顔負けの綺麗な打撃をする印象でした。
「慎重ですよね。ちょっと相手がフェイントをかけたらすぐパッと下がったり、繊細で上手に戦うなぁと思います。逆に組みはそんなにかなっていう」
──実績・キャリア的なことを考えると、矢地選手にとってはきっちり勝って次に進みたい試合だと思います。
「もし相手がギョンピョだったら、僕とは似たもの同士で、お互いのせめぎ合いの中でミスした方が負けみたいな戦いになって、最善をチョイスし続けなければいけない試合だったと思うんです。白川選手をナメてるわけじゃないですけど、そういう意味ではギョンピョと違って色んなことを試せる相手なのかなとは思います」
──ギョンピョ戦は流れてしまいましたが、ここからは一戦一戦、自分の立ち位置が分かるような相手・試合をやっていきたいですか。
「やっていきたいですね。やっぱり自分は強い選手とやりたいし。自分で言うのは嫌なんですけど、年齢も年齢で、キャリアもベテランと言われるところに差し掛かっているんで、その時の自分に合った対戦相手をチョイスしたい気持ちもあります。そういう意味でちゃんとキャリアを重ねていきたいなと思うし、技術的なことも含めて自分のテーマに沿った相手とやりたいです」
──僕自身、MMAの取材から離れていた期間もあるのですが、矢地選手のなかにはUFC出場だったり、UFCレベルの選手と戦って勝ちたいという想いがあるのですか。
「やっぱりUFCには出たいですよ。UFCのチャンピオンになりたいなんて、口が裂けても言えないですけど、UFCに出たいという目標は変わらずずっと持っているから、UFCリリース組だとかUFC一歩手前ぐらいの選手とやりたいです」
──その目標はずっと変わらずなんですね。
「変わらないです。2022年の大晦日の木村“フィリップ”ミノル選手戦(※ミックスルール)も、そのために受けた試合だし。あの試合が発表されて結構『なんだよ、矢地』とか『そういう路線に行くの?』みたいに言われましたけど、僕的には『いやいや。あの試合にもテーマがあるから』って。自分にはああいうストライカーに立ち向かう・やり合う技術が必要で、それは練習だけじゃ身につかない。試合の生の感覚だからこそ得られるものがあるんです。そう思っているときにオファーが来たから、喜んでやりますと(試合を受けた)。木村選手と戦って上手く立ち回ることができたら、それはMMAにも必ず活きるし、自信にもなると思って試合を受けたんです。だから僕の中では常にUFCという目標があって、それに向けて考えて行動しているんですよね」
──どれだけストライキングが強い選手と練習したとしても、試合という場で経験するものとは違いますからね。
「僕自身、普段の練習では上手くできていても、いざ試合になってダメな部分が出るというのを、最近の試合で経験しちゃっているんで。やっぱりいくら練習しても、試合でそこが強い相手と対峙すると苦手な・ダメな部分が出るものなんです。僕もRIZINで長く試合をやってきて、みんなに『またその負け方かよ』と思われているかもしれないけど、それが僕の弱点であって、悪い癖が抜けていない。それを修正するのは試合をやって自信をつけるしかないし、木村戦はそういう考えのもとでのチョイスだったし、これからもそうやって強くなるための試合をしていきたいです」
──改めて矢地選手が試合の目的と意味を持って戦っていることが分かりました。それでは最後に矢地選手の試合を待っている人たちにメッセージをいただけますか。
「相手が代わっちゃって色々あったんですけど、試合ができる喜びを噛み締めて頑張りたいと思います。次の試合でまた矢地強くなったなというか『矢地にまた期待しちゃおうかな?』って、皆さんに思ってもらえる試合になると思うし、今回は流れちゃいましたけど、キム・ギョンピョとは絶対にやりたいし、それはRIZINにも伝えています。そういうところも楽しみにしていてほしいです」
■視聴方法(予定)
2月24日(土)
午後12時00分~ABEMA、U-NEXT、RIZIN100CLUB、スカパー!、RIZIN LIVE